今季のトップリーグは一味違う!ラグビーの魅力が詰まった開幕戦。

今季のトップリーグは一味違う!ラグビーの魅力が詰まった開幕戦。

 トップリーグの最多動員記録を更新した大観衆は、贔屓の勝敗はともかく、ラグビーの面白さを堪能して帰路についたに違いない。

 ラグビートップリーグ開幕節最大の注目カードだった。3連覇を目指すサントリーサンゴリアスと、昨季そのサントリーに31−32と肉薄したトヨタ自動車ヴェルブリッツの対決。9月1日、豊田スタジアムに駆けつけた観客は3万1332人。昨季の同じ豊田スタジアムの開幕戦、トヨタ自動車vs.ヤマハ発動機で記録した2万7871人を更新した。トップリーグ16年の歴史で最多の観衆に相応しい好試合だった。

 サントリーは王者らしく、さらなる高みを目指した。

 真夏の開幕。ただでさえ汗で滑るボールは、第1試合から降り続いた雨と濡れた芝で、より滑りやすくなっていた。ハンドリングミスのリスクを考えればボールタッチを増やさず、キックで陣地を進めながら戦うのがセオリー。

 だがサントリーは、臆することなく地上戦でボールを動かした。そこに迷いなく襲いかかるトヨタの激しいディフェンス。前半、サントリーはアタックを継続しようとしてはタックルを浴び、何度もボールを落とした。

 それでも22分、ルーキーCTB梶村祐介の突進を起点に、やはりルーキーのPR堀越康介が3人のタックルを押しのけながらゴールポストの根元にねじ込み先制トライ。

アタックを貫く攻撃精神を。

 だが、そこからトヨタは一気に試合をひっくり返す。

 25分、WTBヘンリー ジェイミーがトライ。5−7と追い上げた直後のスクラムから、南アフリカ代表FBジオ・アプロンが雷鳴のごときランでサントリー防御を切り裂き、ルーキーCTB岡田優輝が逆転トライ。前半はトヨタが12−10とリードを奪った。

「ハーフタイムには選手に、『ラグビーではボールを前に落とすとノックオンという反則なんだよ』と言いました」

 サントリーの沢木敬介監督は試合後、冗談めかして言ったが、ディフェンスのプレッシャーが厳しくてもアタックを貫く攻撃精神こそサントリーというチームが脈々と築いてきたDNAだ。たとえミスが重なってもチャレンジをやめない。

最後の20分、我慢し続ければ。

 対するトヨタもまた、愚直なまでに身体をぶつけ、鍛え上げたフィジカルの強さで勝負するのがチームのカルチャーだ。リードして折り返した後半の立ち上がりにも、サントリーのミスを突いて立て続けに加点した。59分の時点で25−10。この日最大の15点差がついた。

 だが、試合時間はまだ20分以上残っていた。

 胸突き八丁。心臓破り。第3コーナー。あらゆるスポーツがそうであるように、実力伯仲の戦いで勝負を決するのは最後の時間帯だ。

「トヨタは後半の最初から足がつっている選手がいたし、最後の20分、我慢し続ければ絶対に勝てる。我慢し続けようと話しました」(サントリーSH流大主将)

 昨季サントリーが達成したトップリーグ連覇は、どこまでもボールを動かし続ける攻撃ラグビー、それを可能にするスタミナが決め手だった。実際、昨年のトヨタ戦は18点差をつけられてからの逆転勝ちだった。

 戦術もフィジカルもスピードも高めながら、チームの根幹には当たって倒れてもすぐに起き上がって走り続ける。そんなフィットネスへの揺るがない信頼がある。その原点に加えてチーム内競争に勝てなければ、どれだけパスやキックが上手くても、圧倒的なパワーを有していても、試合のメンバーには選ばれない。

 ひたむきさ、ハングリー精神と重なるその伝統は、勝ち続けても揺らがない。それが自信となっている。

ロスタイム、死力を尽くした攻防。

 試合は最後の20分間に入った。

 サントリーに振り回されて疲れが覗いたトヨタ防御に対し、サントリーのアタックがテンポをあげる。FWのパワーランナーが接点で前に出る。途中出場のSO田村煕(ひかる)が62分にPGを決め、71分にトライも挙げた。コンバージョンも決め、5点差に追い上げる。

 そしてロスタイム、攻防はトヨタのゴール前へ。ボールを次々と動かして遮二無二攻め立てるサントリー。トヨタは死力を尽くして足を動かし、前進を阻む。反則があってもサントリーはトライを求めて地上戦を選択し、さらに攻める。

トヨタの主将がシンビンを受けて。

 極限の攻防が続く。そして84分、ノットロールアウェイの反則を犯したトヨタの姫野和樹主将が、反則の繰り返しによるイエローカードでシンビン(10分間の退出処分)を受ける。

 決着したのは89分だった。

 左中間ゴール前のPKでスクラムを選択したサントリーの8人が、1人少なくなったトヨタの7人スクラムを押し込む。トヨタのスクラムは耐えきれず崩れる。ゴールラインを越えようとしたボールを、トヨタのSOライオネル・クロニエが横入りで蹴り出そうとした。

 その瞬間、戸田レフェリーはペナルティトライを宣告した。これでサントリーの逆転勝ちが決定した。昨年のルール変更により、ペナルティトライのときはコンバージョンが省略され、無条件で7点が与えられるのだ。

 クロニエが横入りしなければ、ペナルティトライではなかったのか。戸田主審に聞いた。

「その前にスクラムが完全に崩れていたので、どちらにしてもペナルティトライでした」

 決着がついたとき、スコアボードの電光時計は48分を過ぎていた。

クールな判断が吹き飛ぶ面白さ。

 冷静に考えれば、トヨタには違う対策もあったかもしれない。スクラムをまっすぐ押させてトライさせればトライは左隅。まだ同点だ。難しいコンバージョンが外れる可能性もあっただろう。

 だが、そんなクールな判断が吹き飛んでしまうのもラグビーの面白さだ。

 攻める側はガムシャラに攻めたて、守る側も瞬間瞬間に全力を尽くす。もちろん、シーズンのファイナルになれば違う水準が、つまりよりシビアな判断が求められるだろうが、シーズンの始まりには時として、全力を出し切って自らの現在地を知ることが、目の前の1勝より尊いことがある。

理屈を超えたチームの一体感。

 試合後の会見。トヨタの姫野主将は、大粒の涙をこぼしながら声を絞り出した。

「最後の最後に僕がイエローカードをもらってしまって、ピッチに立つことはできなかった。勝利は逃したけれどけれど、最後の3分間はチームのみんなの頑張りがすごく誇らしくて。最後の失点は(サントリーの)勝つチームの絆だと思いました。この負けを忘れることなく、残りのトップリーグを戦って、ファイナルでもう一度サントリーと戦いたい」

 ナイーブに聞こえるかもしれない。だが、1チーム15人という大人数が、80分間という長い時間をかけ、全身をぶつけ合いながら戦い抜くラグビーという競技では、理屈を超えたチームの一体感が勝負を決めることが往々にしてある。

 まして、これは開幕戦、互いに伸びしろを持っての戦いなのだ。

 見事な80分間、いや、89分間の戦いを見せてくれた両チームの選手たちを称賛したい。

文=大友信彦

photograph by Nobuhiko Otomo


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