公立校の市立船橋に胸スポンサー。部活の概念を高校サッカーが変革!

公立校の市立船橋に胸スポンサー。部活の概念を高校サッカーが変革!

 最近の高円宮杯プレミアリーグやプリンスリーグを中心に高校サッカーを観ていて、高体連チームのユニフォームにスポンサーが付いていることに気づいた人も多いのではないだろうか(*高体連=公益財団法人全国高等学校体育連盟。高等学校のスポーツ活動の多くを統括する組織)。

 Jクラブのアカデミーのユニフォームならスポンサーが入っていることは特段珍しいことではないが、高体連のユニフォームの胸や背中にもスポンサーが入っているのは一般的には知られていない。

 それはなぜかというと、一番注目を浴びる全国高校サッカー選手権大会では、スポンサー入りのユニフォーム着用は一切認められていないからだ。インターハイも同様で、要は高体連主催の大会は不可である一方、プレミア、プリンス、都道府県リーグのように日本サッカー協会や各都道府県サッカー協会主催の大会では着用できるということで、実際そういうチームが近年は増えつつあるのである。

高体連チームの価値を上げるため。

 最初にユニフォームにスポンサーを取り入れたのは、京都府の私立・京都橘高校サッカー部だ。仕掛人となった米澤一成監督は、その経緯をこう説明してくれたことがある。

「Jクラブユースは当たり前のように、トップチームのスポンサーが入ったユニフォームを着ている。プリンスやプレミアのようにJユースと高体連が同じ土俵で戦うリーグ戦が定着してきたからこそ、ユース年代における高体連チームの価値を上げたいと思ったのです。

 ただの“部活”ではなく、ヨーロッパなどのように地域スポーツクラブとしての文化的な価値を高体連チームに付加することは、今後を考えても重要だ。学校からの資金や選手の家庭から捻出される部費などでまかなうのではなく、スポンサー企業の皆さんのサポートも受けることで、選手達の負担も減る。そして『周りに支えてもらっている』という感謝の念と、スポンサー企業を通じての社会とのつながりを持ちながらサッカーに打ち込める。

 企業側からしても、地域貢献や地域と成長する理念を持っており、アマチュアスポーツの支援はその活動の一環として合致します。ウチに関しては遠征費などは選手の個人負担でまかないますが、公式戦ユニフォームの一式をスポンサードしてもらうために、意見が合致する企業さんと話を綿密にした上で導入し、そのために日本サッカー協会に申請もしたんです」

有名企業が次々とスポンサーに。

 サッカー協会の承諾の後、京都橘のユニフォームの胸には2014年から寝具メーカーの東京西川(西川産業株式会社)、パンツには飲料メーカーのKIRIN(キリンビバレッジ株式会社)が入った。

 その翌年には、胸にANA(全日本空輸株式会社)、パンツに東京西川、背中にKIRINが入り、ユニフォームの5カ所(胸、背中、腰、袖、パンツ)中3カ所が埋まったのだ。

 京都橘の行動に、他のチームも続いた。以下、紹介しよう。

東福岡高校:   胸/Amino-Value(大塚製薬株式会社)、背中/ANA
青森山田高校:  胸/JAL(日本航空株式会社)、背中/BALANCE STYLE
國學院久我山高校:胸/AOKI(株式会社AOKI)
桐光学園高校:  胸/丸大ハム(丸大食品株式会社)
神戸弘陵学園高校:胸/BODY WILD(グンゼ株式会社)

 ユニークなものだと米子北高校の胸に鳥取県で話題となった「すなば珈琲」が(背中は大塚製薬の商品であるボディメンテ)。富山第一高校は胸に光陽興産、背中に富山米(JA富山中央会)と朝日印刷、肩にONE-SEED、パンツにizakとすべて地元企業が入った。

 全体的に見るとプレミアリーグ所属、もしくは所属していたチームにスポンサー入りユニフォーム着用率が高い。

各校が頭を悩ませる移動経費。

 スポンサーを付けようとする、その大きな理由の1つは移動経費である。

 プリンスリーグは各地域での開催で移動距離もそこまで遠くはないが、プレミアリーグは全国を東と西に2区分し、それぞれ10チームずつのリーグ戦が繰り広げられる。それだけに移動距離は相当なものがある。

 例えばイーストであれば、北海道(現在は青森が最北)から愛知県もしくは静岡県まで、ウェストであれば愛知県か京都府から九州までカバーしている(リーグ所属チームの所在によって地域が広がる)。そのため、年間9試合のアウェーゲームをこなす際の移動や宿泊など、経費は莫大なものになる。

 もちろんプレミアに所属するチームに対する、日本サッカー協会からの補助はある。

 ベンチ入りメンバーと監督、コーチの20人分の移動費の65%(※移動距離100km未満だと在来線の乗車料金の65%、移動距離100km以上〜500km未満だと在来線特急・新幹線の乗車券・指定席料金の65%、移動距離500km以上だと航空券料金の65%)と、宿泊代として1人当たり最大6000円(上限合計で12万円)の補助金が出るのだ。

 これは学校・クラブの最寄り駅から試合会場の最寄り駅の移動時間が2時間半を超える場合で、在来線特急・新幹線の時間も含む。

オーバーした分は自己負担。

 ただチームには試合に出場できなかったり、出場時間がわずかしかない選手もいる。プレミア登録30人の中で、ベンチから外れた選手は実戦経験が失われてしまう、という懸念もある。年4度の選手入れ替えの時、出場時間の上位であるGKとフィールドの上位13人はプレミアリーグでのプロテクト選手になる仕組みがあるから、ますます補助要員は重要になってくる。

 さらに、Bチーム同士などが練習試合をすることもあるため、1回の遠征では選手だけでもトータル25人は連れて行きたいところ。そうなるとスタッフも前述の2人だけではなく、GKコーチやトレーナーを含め、4〜5人を連れていきたい、ということになる。

 そうなると移動費は、20人分で補助されない部分の35%、それに加えて規定人数をオーバーしている1〜10人分は、すべて持ち出しとなる。

 さらに、近年では外国人観光客の増加により、東京や大阪、名古屋、福岡などの大都市圏のホテルを20〜30人単位で確保することが難しくなってきているのだ。現実問題として、1泊6000円以下の宿を探すのは非常に難しくなっており、オーバーした分はチームの自己負担となる。

青森山田・黒田監督の見解は。

 補助を受けていても、それ以外の支出がさらに大きくなっているため、青森山田高校は青森から首都圏、静岡、愛知、富山をすべてバス移動している。彼らは間違いなく日本一の移動距離を味わっているだろうチームだ。この方針について、黒田剛監督はこう話している。

「本当は新幹線や飛行機で移動した方が時間的にも良いのかもしれませんが、やはりこれだけの広範囲の移動となると、交通機関の利用はコスト的に莫大なものなってしまう。これがバスであれば移動費はかなり抑えられます。もちろん、移動時間は長くなってしまいますし“長時間移動→試合→長時間移動”の繰り返しは、選手たちにとっては相当タフな環境であることは間違いありません。

 ですが、逆に言えば鍛えられるものもある。すべてが恵まれている環境では、工夫する力や自分で考える力を奪ってしまいかねません。バスの中で時間をどう有意義に過ごすか、試合に向けてどうコンディションを整えるのか、さらに試合を振り返ることで、自分のプラスにしていけるか……。

 それにバス内は選手、スタッフとの大事なコミュニケーションの時間にもなるんです。トータルで考えると、バス移動が一番効率的で、有効でもあるんです」

 与えられた環境で、メンタル面も含めて精一杯の創意工夫をしていることが分かる。それでも、やはり……チームにかかる負担は大きいと言わざるを得ない。

 これまでのいわゆる「部活動」は生徒の自主的、自発的活動という認識で、受益者負担の原則が働いていた。だが、各部活が昔とは違って数多くの大会に参加するようになった現在は、当然昔ながらの部費などではその活動はまかないきれず、自己負担にしても限界を越えつつあるのが現状だ。

市船の胸に「マイナビ」が。

 一方で日本サッカーは前述したように、プロのアカデミー(Jリーグクラブのユースチーム)と学校単位のチーム(高校のサッカー部)が同じステージで戦うという、世界的にも珍しいスポーツの土壌がある。

 これは教育制度の「6・3・3制」と共に、長らく部活動として定着してきたスポーツ教育文化が先にあり、その後にプロチーム育成アカデミーができた、という経緯による。現場的な、もしくは過渡期の解決策として、このような形にせざるを得なかった……という見方もできる。

 日本のサッカー界は両者を区分せず、共存共栄の道を選び、プリンスリーグ、プレミアリーグの設立や、前述した高体連のスポンサー導入などの革新的な手法を取った。そして指導の現場と日本サッカー協会が連絡を取り合い、それぞれの意見と結果をフィードバックしながら柔軟に対応しているのだ。

 そして今回、この流れに新たな一石が投じられた。それは市立船橋高校サッカー部のプレミアリーグ用ユニフォームに胸スポンサーが入ったことだ。

 実は、公立高校のサッカー部でスポンサー入りユニフォームが誕生したのは史上2校目だ。史上初は滋賀県の伊吹高校で、ここは地元の企業がスポンサーとなったのだが、市立船橋は就職情報やニュースなどの配信を手がける情報関連の大手企業「株式会社マイナビ」が入ったのだ。

「部活動の概念は時代錯誤に」

 比較的資金を確保しやすい私立が台頭し、公立校が弱体化している側面がある状況下で、「公立の星」として全国トップレベルの実力を誇る市立船橋が動いたことは、全国の公立校にとって大きな話題となった。

「マイナビさんは船橋に縁があり、Bリーグで船橋に本拠地を置く千葉ジェッツの背中のスポンサーもしている。我々は公立高校でもスポンサー入りユニフォームを実現できないかと考えており、その理念がマイナビさんと合致したんです」

 こう語るのは市立船橋高校サッカー部OB会の副会長である村田貴顕氏だ。朝岡隆蔵監督とともに、船橋市教育長や船橋市長、そして市船の校長に掛け合い、条件面など諸々の事柄をクリアさせて、実現に至った。

「公立校のため予算もあまりなく、基本は遠征のたびに費用を選手の家庭にご負担をしていただいていました。プレミアリーグだけでなく春、夏の遠征やインターハイ、選手権もある。市船は遠征を通じていろんな相手と戦うことで力をつけてきた。しかし、その負担は徐々に大きなものとなっています。

 そして野球や他のスポーツでも“私立の壁”がしっかり存在しており、それはサッカーでも例外ではありません。その中で競争力をつけるためには、こうした取り組みは大事だと考えました。もちろん『サッカーは特別なのか』という声もありますが、これは競技ジャンルに関係なく、まずはその根底にある部活意識を変えないといけない、と思っています。

 これまで数多くのプロを輩出し、公立高唯一のプレミアリーグ参加チームとして、これからもJユースと肩を並べるためには、昔からの部活動の概念だけにとらわれていると時代錯誤になるかもしれない。だからこそ、その意味も込めて、今回の動きになりました」(村田氏)

経済的に苦しい公立校は多いはず。

 胸スポンサーをつけたことで、従来かかっていた選手達の家庭への負担は軽減される。ただ、これはあくまでもプレミアリーグの遠征費のみであり、まだ負担自体はすべて解消されたわけではない。

 このスポンサーからの遠征費用は「準公金」として扱われ、厳密な会計として対応している。朝岡監督もこのように語っている。

「今、全国的に見ても選手の家庭のあり方も多様化してきて、経済的負担が理由でサッカーを続けられなかったり、チャレンジの芽を摘んでしまうことだってある。これだけサッカーが一般化し、様々なアクションを起こしましたが、もはや受益者負担だけでは成り立たなくなって来ていると思います。

 選手達はきちんとした指導を受けられることも大事ですし、教員以外にもコーチらスタッフ達にも生活がかかっている。そういう観点から『公立校だからできない』ではなく、トライして良いモデルケースを作って行くことは重要だと思っています。まだ経済的に苦しんでいる公立校はたくさんあると思うので、この行動がいいメッセージになればと思っています」

他競技のモデルケースになれるか。

“生徒が好きでやっている部活動なのだから”という考えの下で現場の人間(指導者や選手)への負担を当然のこととし続ける――そこからの脱却を目指しているこの活動。当然なのだがあまりにも経済的利益に走りすぎて、完全な企業スポーツのような構造になってはいけないだろう。

 とはいえ部活動のあり方に変化が求められている時代なのも間違いない。そういう意味でも、まずサッカー界が部活動の考え方を発展させて、他競技のモデルケースにしていくべきだ――と、筆者は考えている。

 京都橘が発したひとつのメッセージに多くのチームが呼応し、ついには市立船橋が公立校にも刺激を与えるようにまでなった。これらの活動は、昔から続く部活動の概念に革命を起こしているのではないか。

 新たな地域スポーツクラブ文化の構築への萌芽として、高校サッカー界が強烈なメッセージを発しているのだ。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando


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