森岡隆三が語る鳥取での1年半。スタイル、予算、解任、そして今後。

森岡隆三が語る鳥取での1年半。スタイル、予算、解任、そして今後。

「明日、朝、クラブハウスまで来てもらえますか?」

 改まった様子の強化担当者の言葉に、森岡隆三は「ポジティブな話か? ネガティブな話か?」と問うたが「わかりません」と歯切れは悪かった。「鳥取にサッカーの土台を作ってほしい」と 森岡をクラブに招へいし、ともに戦ってきた強化担当者の態度が、その日は頑なだった。

 そして翌日、クラブハウスのある鳥取へ出向いた森岡に解任が告げられた。

 監督就任2シーズン目の今季は、開幕6試合負けなしとスタートダッシュには成功したが、徐々に勝てなくなった。1分4敗。2週間の中断期を経て、6月2日対秋田戦で約2カ月ぶりの勝利。10位だった順位も、暫定とは言え首位と勝ち点5差の7位に回復。しかしその翌日、森岡の解任が決まり、発表された。

「開幕から数カ月後に成績が停滞するというのは、昨年の経験もあり、僕の中では想定内でした。 プレシーズンでの強化が足りないことも原因の1つと考えられました」

冬の練習は雪かきから始まる。

 ガイナーレ鳥取が活動拠点としている米子のグラウンドはここ数年雪が多く、自分たちで雪かきをして練習に使える場所を作り出してきた。

 しかし、それはトップスタッフ、トレーナー、強化部と、大人7〜8人が数時間頑張っても30メートル四方を確保出来るかどうかといったところだ。避寒地での合宿も予算の関係で実施できず、練習試合を組むのもままならない。練習試合をするには、バスでの長距離移動が必要だが、その機会を多く確保することができないのだ。

「2年契約でスタートしましたが、昨シーズンもスタートこそ良かったけれど、結果は最下位。にもかかわらず、『もう一度やってみよう』とチャンスを与えられたことには感謝している。1年目で痛感した反省点を改善する機会を得られ、実行し、それが成果に繋がったという手ごたえを掴むことができた」

 7月下旬に会った森岡はそう笑顔で話していた。しかし、クラブの自身に対する期待と信頼を強く感じていたからこそ、この解任に対しては悔しさも小さくないだろう。

選手の半分が去り、リクルートも自分で。

 森岡の2018シーズンは、選手を獲得する作業から始まった。約半数の選手が鳥取を去ったからだ。

「ブラジル人選手以外は、トライアウトやセレクションの練習参加などで、自分の眼で見て、スキル面、メンタル面などを考慮し、強化部と共に、来てもらう選手を選んだ」

 また、選手に対する年俸を抑えることも決まっていた。

 バスで片道2時間かかるホームの試合での前泊費用、アウェーへの移動費(10時間以上かかるバスではなく、列車を使用)、練習後の食事提供など、選手の疲労軽減のための経費を捻出するための1つの策だった。

「月給10数万円の選手も少なくなく、毎食栄養管理が行き届いた食事の確保は難しい。練習後の1食であっても、しっかりとバランスの良い食事を摂ることが大事だと考えました。応えてくれたクラブには感謝です」

フィジカルトレーナーの必要性。

 コンディションの管理を選手自身に任せることには限界があると、1年目はいなかったフィジカル・トレーナーも雇用し、毎日の排便や睡眠の質と量、練習後の疲労度などを選手から聞き取り、体調の「見える化」にも取り組んでいた。

「技術や戦術も重要ですが、それ以前に戦える身体作りにも注力した。昨季は僕自身がフィジカルトレーナーの役割も担ったけれど、やはり専門家が必要でした。移動環境もあり、シーズンが進むに従って、選手たちの疲労度は高まっていきました。

 しかし監督が『大丈夫か?』と聞けば選手は誰しも『大丈夫です』と応えるもの。その言葉を信じた結果、負傷してしまうリスクもある。コミュニケーションの面も含め専門家の必要性を感じました」

「あくまでも目的はゴールであり勝利」

 監督に就任したばかりの森岡は、高いボールポゼッション率、速い攻守の切り替え、主導権を握って戦う、というコンセプトを掲げた。しかし結果はついてこなかった。

「僕自身が目指したいサッカーのスタイルというのは確かにあり、『試合の主導権を握る』なんてカッコいいことを言っていたなぁと今は思います。

 当時の僕は、手段と目的をいつのまにかはき違えていたんですね。チームカラーの確立というミッションはありましたが、あくまでも目的はゴールであり勝利です。にもかかわらず、僕は最初に『手段』にばかり注視してしまった。ポゼッションも切り替えもすべては手段でしかない。本来なら目的から逆算するように考えるべきだった」

 試合に敗れたあとに「自分たちのサッカーはできた」「シュートチャンスは作れた」「内容は悪くないが……」とコメントする選手は少なくない。監督から与えられたタスク(森岡の言う手段)を果たした手応えは確かにあるのだろう。

 そして、目指すものを突き詰め続ければ、結果は必ずついてくる。そう信じるのは選手だけでない。「勝利という結果が出ない中で何にすがるかというと、データなんです。ポゼッション率、パスの本数など、どれも相手より上回っているのだから、『僕たちは間違っていない』というふうに思い込みたくなってしまうんです」

 しかし2017年は夏から勝利に恵まれず、4勝9分19敗最下位という結果でシーズンが終わった。

ユナイテッドもバルサもアタックが速い。

 オフに、森岡はプレミアリーグのレスターとマンチェスター・ユナイテッドの試合で解説者を務めた。

 もともと欧州サッカーは日常的にチェックしていたが、監督就任後は業務に忙殺されその時間も減っていた。そのためか、久しぶりに見たプレミアに新鮮な衝撃を受けた。

「僕が信じているスタイルは目的ではなく、結局手段でしかない。はたしてこの手段がこのグループ、チームに最適なのかと考えていたころでした。レスターもユナイテッドも、とにかく長短のカウンター、速いアタック主体のチーム。アグレッシブで目まぐるしい試合展開を目にし、『目的のための手段』を徹底していると感じました。

 バルセロナもポゼッション率は高いけれど、以前よりもディフェンダーの背後をダイレクトに狙う機会が増えていました。ゴールに向かう意識を高めることで、よりポゼッションも生き、多彩な攻撃につながる。そんなふうに、手段を用いて目的を達成する。それは特別なことではなく、当然のことだと気づかされた。そのとき、僕自身が鳥取というチームに無理に色づけし過ぎていると思い知らされました」

目的から逆算して指導を変えた2季目。

 2季目の2018シーズンは、相手の背後をとる意識を選手たちに求めた。パスを繋ぎ、崩すだけではなく、チャンスだと思えばミドルシュートも選択肢に入れる。

 そして監督として、あまり教えすぎない、指示しすぎないことも意識した。選手自身に考え決断してもらうためだ。

「『目的はなにか』ということを徹底的に追求しました。そこで、ディフェンスラインの背後を取るところから入ろうと思いました。そうやってチームとしてのいいプレーの基準が生まれつつあったと思います。

 そして、『今のは早い』というのは無しにしようと。『今のは早い』ではなく、『しっかりそこはパスを通そう』にしようと。判断の基準はまずは前であり、背後。その上で、選手間でお互いに対して、もっともっと要求し合おうとも話しました。『背後が取れそうだから、走ってくれ』と要求する。

 文句ではなく要求するのだから、自分自身もしっかりとそこへパスを通さなくちゃいけない。そういう自他に対する厳しさをもっと持つべきだと」

 しかし1年目に体験した多くのことを改善しようと蒔いた種が芽吹き花開く前に、現場から退場することになった。悔いはあるし、怒りに似た感情もきっとあるだろう。しかしこれもまた監督業なのだと受け入れている。

鳥取の人口は56万人、東京の20分の1。

 J3の中でも、鳥取が立たされた環境は決して恵まれたものではない。ピッチ上だけでなく事業や営業面も含めて、ガイナーレ鳥取を、サッカーを「鳥取」という地に根づかせたいと知恵も絞った。

「東京都の人口が1375万人、鳥取県は56万人。例えば東京が3万人のスタジアムを満杯にしたとして、鳥取はその人口比でいえば、約20分の1の1500人レベル。ガイナーレはそれで成り立った経営を行わなければならない。そういうJ3の厳しい現状を肌で感じた毎日でした」

 入場料収入で補えない部分はスポンサーをつのる。「J2昇格という夢」を提示することでスポンサーを獲得しなければならない。そういう事情もあったはずだ。だから今季、クラブは「勝ち点50、得点50、失点30」という目標を掲げた。

「その達成が困難だと判断し、交代を決断しました」と解任理由について、塚野真樹代表取締役社長はコメントした。

指導者、監督業への意欲は衰えず。

 8月24日、森岡はクリアソン新宿という東京都1部リーグクラブのアドバイザーに就任した。運営会社であるクリアソンは「スポーツが生み出すことのできる価値を様々な分野に還元していくことで、真に豊かな世の中を創ることを追求していきます」という理念を持ち、サッカーやフットサルを中心に数多くの事業を手掛けている。

 自身がサッカー界にいる目標を「サッカーを味わい尽くしたい」と表現する森岡は、新たな任務を手にし、サッカーの可能性を模索する機会を得た。京都サンガF.C.トップコーチ、佐川印刷SCヘッドコーチ、京都サンガユース監督、という指導者業を経て、J3の監督を務めた。解任という現実を経てもなお、指導者、監督業への意欲は衰えていないようだ。

文=寺野典子

photograph by Shin Watanabe


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