吉田輝星が浴びた韓国流ホームラン。日本で流行らない「引き腕打法」。

吉田輝星が浴びた韓国流ホームラン。日本で流行らない「引き腕打法」。

 韓国チームの4番キム・デハン中堅手が、ジャパン先発の吉田輝星投手(金足農業)のスライダーを捉えた瞬間、私はすごくなつかしいものを見たような気がした。

 2勝同士の韓国、日本の対戦。

 実力トップ2ともいわれる両チームの対決らしく、ジャパンは吉田、韓国はキム・キフン。共に「エース」と目される快腕の先発となった。

 初回1死一、二塁、吉田輝星が投じた初球のスライダー。キレはともかく、コースは外よりの、そんなに悪いボールじゃなかった。

 そのスライダーに、キム・デハンのバットヘッドが届いた。そのままヘッドで拾うように合わせたスイングから、打球は両翼100メートルの広い広いサンマリン・スタジアムのレフトスタンドに届いていた。

 右打席から、ほとんど左腕一本で振り抜いたようなスイング。

「前の腕」を大きく使って、スイングの円弧を大きく描き、その遠心力を利用して飛距離を出す。

「後ろの腕」で押し込め! それが“はやり”になっている今の日本の高校野球では、めったに見なくなったスイング軌道。

「意味わかんない」と思ったのでは?

 以前は、プロ野球にもこういう打ち方のスラッガーが何人もいた。

 パッと思い浮かぶのは、中日ドラゴンズの不動の4番バッターだった江藤慎一さんだが、江藤さんを挙げて、そうだ、そうだと共感してくださる方も、今はそんなにいないのかもしれない。

 もっと最近なら、やはり中日の大砲だった山崎武司さんだろう。

 打たれた吉田投手も、ええっ! という顔で放物線を追っていた。 あのコースのスライダーを、あの打ち方で、あの方向に大きく持っていかれたのは、初めてだったのではないか。

 3ランとわかったあとの、帽子をちょっとアミダにしてほっぺたをふくらますお得意の表情からも、「意味わかんない……」、そんな理解不能な心理が透けて見えるような気がした。

日本でも昔はこの「引き腕打法」だった。

 韓国チームの「打ち方」は、ほとんどの選手がこのスタイルだった。

 前の腕、つまり「引き腕」で目一杯バットを引っ張っておいて、そこからリストを効かせてバットヘッドを返す。

 私が学生時代に習った打ち方も、たまたまこの「引き腕打法」だった。

 前の腕一本で振って、ビュンと音がするぐらい素振りしてこい!

「打倒江川(当時・法政大)」を掲げる監督さんにハッパをかけられて、ずいぶん左手一本で振り込んだものだ。

 確かにやってみると、引き腕が効いたときは打球がよく飛んだ。

 ノックをやってみると、もっとよくわかった。引き腕を効かせて、前を大きくして振り抜くと、簡単に外野の頭を越えていく。打球を眺めながら、自分自身がいちばんビックリしていたものだ。

「後ろの腕で押し込む」は万人向けなのか。

 投手の「投球フォーム」と同じで、打者の「バッティングフォーム」というのも、いちばん肝心なのは「感覚」である。

 自分がボールを投げてみて、バットを振ってみて、「あ、これだな……」と体が納得するかどうか。

 体型と体のメカニズムは十人十色。みんな集めて、こう投げろ、こう打て。もうそういう時代じゃない。

「後ろの腕で押し込め」と教わって、言われた通り押し込むと、どうしてもバットをこねてしまう。ボールを引っかけてしまって、ジャストミートできない。

 そんな「カベ感」に戸惑う人がいたら、逆に引き腕で引っ張る打ち方を試してみたら、どうだろう。

 おそらく、後ろの腕が強すぎるためにこねてしまうのだろうから、前の腕を懸命に強くすることで、両腕のスイングバランスがよくなって、バットヘッドが真っ直ぐ走るようになるのでは。

九州は北海道よりソウルの方が近い。

 九州からなら、北海道に行くよりソウルのほうがずっと近い。そんなにすぐ隣の国で同じ「野球」という競技に取り組んでいて、たとえば「バッティング」のスタイルがこんなに違う。

 野球という“文化”はなんとも興味深い。

 そして、そんな相違の中に、選手個人がもしかしたら劇的に飛躍できるかもしれないヒントが隠されているといたら……。

 まったく、これだから「野球」はやめられない。

文=安倍昌彦

photograph by Kyodo News


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