大坂なおみ、セリーナ戦での品格。全米制覇は“Naomi Era”の幕開けに。

大坂なおみ、セリーナ戦での品格。全米制覇は“Naomi Era”の幕開けに。

 ブーイングと歓声が入り混じる、異様な全米オープン決勝だった。

 産休明けで優勝を期待された地元アメリカのセリーナ・ウィリアムズは、第2セットにボックス席に座る彼女のコーチからコーチングを受けたとして警告され、次にラケットを投げつけて破壊する「ラケット・アビューズ」によってポイントを失い、そして審判を「泥棒」と呼び、侮辱したとして第2セットの第8ゲームを失った。

 とても「女王」にふさわしい振る舞いをしたとは言えなかった。

 個人的には、セリーナがパリのローラン・ギャロスやロンドンのウィンブルドンで同じような態度を取るとは思えない。ニューヨークで戦っている「驕り」が自滅を招いたように思えてならない。

 この夜、ニューヨークの女王にふさわしい“class”、品格と落ち着きを見せたのは二十歳の大坂なおみだった。

 試合中にブーイングが渦巻くコートで、感情を高ぶらせていくセリーナと対照的に、大坂は終始落ちつき、自分のプレーに集中していた。

 彼女のメンタリティに、私はこの1年間の彼女の成長を感じた。

1年前に話していた自身の弱点。

 昨年10月、私は『Number』誌上で彼女にインタビューしたが、その席で大坂は自分の弱点を次のように話していた。

「私は、テニスのうえでは自分に厳しすぎるって指摘されるんです。試合中、もっといいプレーが出来たのに、ってイライラしてしまう。もっとイージーに、気分を切り替えてプレーした方がいいんだよってアドバイスをもらってます」

 テニスでは、こと試合中に限っては自分に厳しいことはプラスに働くとは限らない。「ああすれば、ポイントを取れていたのに……」とくよくよしていると、次のポイントに影響してしまう。

 しかし、決勝戦での大坂はベテランのような落ちつきを見せた。

「セリーナはスロースターター」

「セリーナはスロースターターの傾向があるので、最初から飛ばしていくことが重要だと思って」

 その通り、第1セットはゲームカウント6対2とアッという間に先手を取ってしまう。

 見事だったのは、第2セット第5ゲーム。第4ゲームでサービスゲームをブレークされたあと、流れがセリーナに行きそうなところを踏ん張ってブレークバック。

 このゲームが終わってセリーナはラケット・アビューズに及び、自滅の道をたどっていく。

 主審に謝罪を求め、「嘘つき」、「泥棒」と罵るセリーナを横目に、大坂は冷静そのものだった。慌てることなく、ゲームを締めくくり、初めてのグランドスラムを手にしたのである。

サービスゲームの徹底キープを実行。

 精神的な安定がグランドスラム初優勝を引き寄せたが、プレー面ではサービスに男子的な発想を持ち込み、「サービスゲームの徹底キープ」を実行できるようになったのが大きな強みだ。

 女子は男子と違い、体力的な要素も絡み、サービスゲームをキープし続けるのは決して簡単なことではない。大坂は昨年からサービスキープにフォーカスしてきたが、今年の全米オープンではその威力を発揮した。

 ブレークされたのは、大会を通して5ゲームだけ。

 1回戦のシージムンド戦で1ゲーム、4回戦のサバレンカで3ゲーム(この試合がもっともタフな試合だった。この試合を切り抜けたことが優勝につながった)、そして決勝でのセリーナの1ゲームだけだ。

 特に準決勝のキーズ戦では13回もブレークポイントを握られながら、一度もブレイクを許さなかった。セカンドサービスの精度、パワーも上がっており、キーズが苦笑せざるを得ない場面もあったほどだ。

 向こう数年、サービスゲームは大坂にとって最大の武器となるだろう。

この優勝が“Naomi Era”の幕開けに。

 この全米オープンの優勝は"Naomi Era"、「大坂時代」の幕開けとなるかもしれない。
この2年間、女子テニス界は「乱世」の様相を呈していた。大坂の優勝で、この8大会のグランドスラムの優勝者がすべて異なることになった。

<2017年>
全豪:セリーナ・ウィリアムズ(アメリカ)
全仏:エレナ・オスタペンコ(ラトビア)
ウィンブルドン:ガルビネ・ムグルッサ(スペイン)
全米:スローン・スティーブンス(アメリカ)

<2018年>
全豪:キャロライン・ウォズニアッキ(デンマーク)
全仏:シモナ・ハレプ(ルーマニア)
ウィンブルドン:アンゲリク・ケルバー(ドイツ)
全米:大坂なおみ(日本)

 2年間のグランドスラム優勝者がすべて違うという大乱世。当然のことながら、大坂はこのなかでいちばん若い(生まれ年ではオスタペンコと同じ1997年)。しかも、伸びしろがある。

 昨年の全米オープンで、アメリカのメディアは大坂のことを「ベイビー・セリーナ」と呼んだように、ベースライン・プレーヤーである。

 セリーナとの決勝戦、大坂がネットプレーに出たのはわずか1回。まだ、このエリアについては、十分な練習時間を割いていない。今後、強烈なサーブを武器にネットプレーをしかけ始めたりしたら……。

 この優勝は、黄金時代の幕開けとなるような気がしてならない。

文=生島淳

photograph by Getty Images


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