大坂なおみが語っていたセリーナ観。「倒すのをためらうなんて失礼よ」

大坂なおみが語っていたセリーナ観。「倒すのをためらうなんて失礼よ」

ツアー初優勝で潜在能力の高さを証明した大坂。今シーズンの飛躍のわけは
どこにあるのか、新コーチや女王セリーナとの対戦などをキーに彼女の
独特な考え方を語ってもらった。全米オープン優勝を記念して、
Number952号(2018年5月17日発売)の特集記事を全文掲載します!

「未来の女王候補」――16歳の時に出場したバンクオブザウェスト・クラシック(スタンフォード開催)で、19位のサマンサ・ストーサーを破る衝撃デビューを果たした頃から、彼女はそう目されていた。

 それから4年。彼女は、3月にグランドスラムに次ぐ格付けのBNPパリバ・オープン(インディアンウェルズ開催)を制し、自身にそのポテンシャルがあることを証明する。覚醒の背景には、女王セリーナ・ウィリアムズの元ヒッティングパートナーであり、今季からコーチに就任したサーシャ・バインの存在もあった。

 激動の日々から約1カ月――大坂なおみに、新コーチとの取り組みや現在地を語ってもらった。

サーシャコーチの人柄が好きに。

――優勝した後は、多くの変化があっただろうと思います。どんな1カ月でしたか?

大坂 私自身や周囲の人達は、何も変わっていないと思います。ただ、マイアミ・オープンの次に出場したチャールストン大会の時には、色んなことが変わったと感じました。多くの観客が私の試合を見に来たし、物凄く長いこと話していなかった人達が連絡してきたり……。でももちろん、ファンが増えてサインや写真を撮る機会が増えたのは楽しいです。特に子供にお願いされた時はうれしいですね。

――今季成績が出せているのは、新コーチのサーシャの存在が大きいのではと思います。彼を雇ったのは、彼がセリーナのヒッティングパートナーだったから?

大坂 そういうわけではないんですよ。むしろ私は、彼がコーチになったら気まずい雰囲気になるのではと思ってたんです。だって、私がセリーナに憧れていることはみんな知っているでしょ? もしコーチにしたら、周囲の人達は「彼がセリーナの元ヒッティングパートナーだからだ」って思うだろうし、彼自身もそういう風に考えちゃうかもしれないし。

 でも彼と話をした時に、まず人柄が好きになりました。それに彼は、私が「こういうボールをここに打って」と頼むとそれをきちっとやってくれたので、コーチとして最適だと感じたのもあります。

せっかくのセリーナメモなのに。

――そのサーシャは、セリーナが自分を鼓舞するために書いた“セリーナメモ”をあなたに見せて、モチベーションを上げたのだと言っていました。本当ですか?

大坂 ええ。彼はセリーナが書いたメモを写真に撮っていて、それを全豪オープンの時に見せてくれたんです。でも……正直に言うと、どんなことが書いてあったかはよく覚えていなくて(笑)。

――えっ!? 覚えてない? 憧れのセリーナの言葉なのに?

大坂 だってそこに書いてあった言葉を読んでも、私はあまりポジティブな気持ちにはならなかったから……。

――欲していた言葉ではなかった?

大坂 違いましたね。私にとっての“ポジティブな考え方や姿勢”とは、相手をリスペクトすることであり、それがインディアンウェルズでも上手くいった理由だったんです。でもセリーナのメモは、そういう感じではなかったから……だから具体的には覚えていないし、私がセリーナの真似をしても、上手くいかないって思いました。私らしくいることの方が大切だなって。

リラックスしろ、楽しめと言われ。

――相手をリスペクトし、なおかつ闘争心をもって倒しにいくのは難しくないですか?

大坂 そんなに難しいことではないですね。私にとってのリスペクトとは、怒りの感情を表に出さず、相手に失礼にあたる態度を取らないことなので。対戦相手も私と同じくらい勝ちたいと思っているはずだし、同じくらい勝つための努力を続けてきたはず。だから相手が誰かにかかわらず、簡単に勝てると思ってはいけないというのが、私にとっての「相手へのリスペクト」なんです。

――では、これまでにサーシャが掛けてくれた言葉で印象に残っているのは?

大坂 うーん……どんなこと言われたかな?(笑)「リラックスしろ」はいっぱい言われました。「楽しめ」とも。それに彼は、誰が相手だろうと私には勝つ力があると確信しているようでした。

テニスができることはハッピー。

――「リラックス」や「ポジティブ」は、これまで他のコーチからも掛けられた言葉だと思います。なぜサーシャの言葉は信じることができたのでしょう?

大坂 なんでだろう? 確かにみんな私に同じようなことを言いはしました。でも以前の私はその度に、プレッシャーを感じてしまったんです。彼らの言葉を信じようとすると、試合中にリードされた時に「なんで私は勝てるはずの試合に負けそうになっているの? 私の方が良い選手なんでしょ?」って考えてしまって。

 でも昨年色々と経験したこともあり、最近ではコートに立ったら、勝つとか負けるとかはあまり考えないようになりました。自分がやるべきことに集中し、ポジティブになり、楽しむ。だって試合ができているということは、ケガがないということでしょ? 間違いなく、テニスは私が今後も長く続けていきたいこと。それができているんだから、ハッピーでいるべきだと思ったんです。

ママが「イエーイ!」って(笑)。

 インディアンウェルズの優勝で一躍時の人になった大坂は、そのわずか数日後のマイアミ・オープン初戦で、セリーナ・ウィリアムズと対戦し勝利をつかんだ。幼い頃からの「憧れの人」との対戦が決まった時、彼女は何を思い、実際にコート上で何を考えたのか? そしてここから、彼女はどこに向かっていくのだろうか……?

――サーシャは、マイアミの初戦でセリーナと対戦すると知った時、あなたが喜んでいるのを見て驚いたと言っていました。

大坂 セリーナとあたることを知ったのは、インディアンウェルズの決勝が終わり、空港に向かう車の中だったかな? 携帯でマイアミのドローをチェックしたら初戦がセリーナだったから、そのことをサーシャに教えたんです。そうしたら彼は「やっぱりね……そうなると思った」って。

 サーシャは、私とセリーナは近いうちに対戦するって予感していたみたい。彼はそういう感じだったけれど、車の中にいた他のメンバーは全員喜んでいました。ママに電話したら、ママも「イエーイ! セリーナと対戦するのね!」って叫んでた(笑)。だから私も、ますますうれしくなっちゃって。

彼女は私がテニスを始めた理由。

――あの試合では、緊張せずに自分のプレーを出しきれているように感じました。

大坂 だって私は子供の頃からずっと彼女を見て育ち、彼女との対戦を夢見て、そして本当にその通りのことが起きたんだから! セリーナは私がテニスを始めた理由であり、常に私を高みに押し上げてくれた存在。だからこそ彼女との試合では良いプレーをしたいと物凄く強く望んでいました。勝てなかったとしても、せめて「厳しい試合だった」と彼女に思ってほしかったんです。

――彼女を倒すことにためらいはなかった?

大坂 ためらうことなんて、できるはずないわ! それこそ、とっても失礼になる。テニスコートは誰もが自分のベストを出したいと思う場所だし、特にセリーナには、誰もが闘志を剥き出しにして立ち向かっていく。たぶん、セリーナとの試合ではみんな自分のベストパフォーマンスを出せると思います。それにもかかわらず、彼女がナンバー1に君臨してきてくれたことを嬉しく思います。だって選手たちは、より強い存在を倒したいと願うからこそ、良いプレーヤーになることができるんだから。

セリーナのスタッフが集った。

――インディアンウェルズから、セリーナの元フィジカルトレーナーであるアブドゥル・シラーもつけてますよね? セリーナの元スタッフが集ったのは偶然?

大坂 偶然と言えば偶然だけれど、違うと言えば違うかな。私が'14年のスタンフォード大会に出た時に、父が、セリーナのトレーナーだからという理由でアブドゥルに声を掛けたんです。それ以来、父とアブドゥルは時々連絡を取り合ってました。インディアンウェルズの時はまだお試し期間だったけど、結果が出たし彼の人間性も好きだったので正式に契約しました。

――フィジカル強化に力を入れ始めたのは、誰かの助言があったからですか?

大坂 多くの人が、もう少し体を絞れば速く動けるようになると言っていたし、私もそう感じていました。なのでオフシーズンは毎日、コートでのフットワークの練習とジムでのトレーニングを繰り返しましたね。

より速く長く動けるようになった。

――プレースタイルも、以前よりベースラインの後方に立ち、じっくり打ち合っているように見えます。意識して変えたの?

大坂 意識した訳ではなく、たぶん心の持ちようがスタイルを自然と変えたんだと思います。より速く長く動けるようになったので、早い段階で無理に決めにいく必要がなくなった。特に私はベースライン後方からでもポイントを決められるのだから、焦る必要はないと感じるようになったんです。

――ではその上がったフィジカルを、フレンチオープンでも生かせそうですね!

大坂 うーん……クレーは好きなコートではないから(苦笑)。でもフレンチオープンは、他のクレーコートに比べて、ハードヒッターが活躍しやすいコートだと思います。一昨年は(シモナ)ハレプと良い試合ができたし、昨年はハードヒッターの(エレナ)オスタペンコが優勝しているし。リターンの優位性が他のクレーよりも低く、高速サーブが生きるとも感じます。だから……うん、楽しみです!

(Number952号『大坂なおみ セリーナへの憧れの正体。』より)

文=内田暁

photograph by Getty Images


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