イタリア版グアルディオラとは?デゼルビという監督を知ってますか。

イタリア版グアルディオラとは?デゼルビという監督を知ってますか。

 イタリア版グアルディオラ――。そう呼ばれている青年監督をご存じだろうか。

 試合中のピッチサイドでは全身黒ずくめ風の出で立ちで、開襟シャツは胸のボタンが今にも飛び散るのではないかというほどピチピチに着こなしている。不敵にも映る面構えが、多少はジョゼップ・グアルディオラに似ていると言えなくもない。しかし、経歴上の共通点を見つけ出すのは難しい。

 監督実質1年目にしてCLを含めた3冠獲得というグアルディオラと同じように、いきなり華々しく偉業を成し遂げたわけではない。それどころか、セリエAでは負け続けてきた監督だ。

 現役時代はバルセロナの黄金時代を支えた主力で、ワールドカップの出場歴も得点歴('94年大会)もあるグアルディオラとは違い、A代表歴はなく、大きな脚光を浴びた選手でもなかった。セリエAの出場歴は3試合だけである。

 日本ではまったくの無名に近いだろう。その青年監督の名前はロベルト・デゼルビ、と言われたところで、顔が思い浮かぶだろうか。ただ、この機会に是非覚えていただきたい。デゼルビが「イタリアのグアルディオラ」と呼ばれてきたのには、理由がある。

グアルディオラとの共通点は多くない。

 デゼルビがこの世に生を受けたのは1979年6月6日。1971年1月18日生まれのグアルディオラよりも8歳年下で現在39歳だ。名門ミランの下部組織出身という育成年代のキャリアだけは、名門バルセロナの下部組織出身であるグアルディオラと重なる。

 背番号4番を背負っていた司令塔のグアルディオラに対し、デゼルビは10番。トップ下を主戦場とするいわゆるファンタジスタだった。

 現役時代のハイライトは、28歳でセリエA初出場を果たした2007-08シーズンか。当時所属していたナポリはまだ復興の途上で、その2季前にセリエC(3部)、前年にセリエB(2部)と這い上がってきたところだった。

 しかしデゼルビ自身は這い上がれず、セリエA昇格から半年後の'08年1月にはセリエBのブレシアに放出となってしまう。結局、セリエAの出場歴はナポリ時代の3試合のみ。先発したのは1試合だけだった。

34歳で引退、監督2年目で注目される。

 晩年を過ごしたルーマニアのクルージュでは、国内2冠やCL出場も経験している。とはいえ、それが祖国イタリアで大きな話題となったわけではない。最後のクラブはセリエD、すなわちアマチュアのカテゴリーだった。34歳で引退した。

 指導者転身後のデゼルビは、早くから注目される。監督キャリア2年目にしてセリエCのフォッジャを7位に導くと、そのまま留任して迎えた2015-16シーズンはレギュラーシーズンを2位で終える。

 惜しくもプレーオフ決勝で1歳年長のジェンナーロ・ガットゥーゾ(現ミラン監督)率いるピサに敗れてセリエB昇格こそ逃しているが、「イタリアのグアルディオラ」という声はすでに広まりつつあった。

 こんな評価もある。退屈なチームにすぎなかったフォッジャを、イタリアで最もエンターテイニングな、つまり観衆を楽しませるチームのひとつに変貌させた、と。

ポジショナルプレーを3部で導入。

 デゼルビが築いたのは、こんなチームだ。

 マイボールを大事にして、最後尾からパスをつなぐ。GKも攻撃の起点となる。ボールホルダーは相手を引き寄せ、数的優位を作り出そうと試み、縦パスを入れるチャンスがあれば積極的にチャレンジする。

 ロストしたボールは即座に奪い返そうとする。ボールポゼッションを志向しながら、ボール支配そのものを目的とするわけではない。ポゼッションは守備ラインの裏を取り、相手チームのディフェンスを崩すための手段なのだ。

 もっと簡単にまとめてしまうと、グアルディオラと同じ「ポジショナルプレー」をセリエCという3部リーグのチームに導入し、セリエB昇格こそ逃したとはいえ、業界内では無視できない成果を残してみせたのがフォッジャ時代のデゼルビである。

負けても折れないところに強さがある。

 ポジショナルプレーとは何か。ピッチ上の11人が正しいポジションを取り続け、試合を優位に運ぼうとする戦い方だと言えるだろう。選手個々の動き方には、合理的な原則がある。

 そうしたフィロソフィーを共有し、ピッチ上で実行し、試合で機能させ続けるのは難しい。デゼルビはそれを3部リーグで試みた。ただし、この監督の名前を覚えていただきたいのは、いわば最先端のサッカーを追求し続けているからではない。

 フォッジャでの評判はセリエAのクラブにも伝わり、監督4年目の2016-17シーズンはパレルモで、続く17-18シーズンはベネベントで指揮を執る。

 結果自体は惨憺たるものだった。パレルモでは12戦1勝2分9敗で途中解任となり、チームはそのままセリエBに降格。ベネベントでも29戦6勝3分20敗でセリエB降格という結末となる。

 しかし、ポジショナルプレーという志向自体は変わらなかった。デゼルビの凄みはそこにある。どれだけ負けても、折れない強さだ。

“首切り魔”をも魅了したサッカー観。

 結果が出ないと監督の首をすぐに挿げ替える“首切り魔”として有名なパレルモのマウリツィオ・ザンパリーニ会長でさえ、デゼルビに限っては7連敗(コッパ・イタリアを含めれば8連敗)まで我慢した。5連敗の時点で、報道陣にこう語っている。

「今、デゼルビを信じているほど、監督を信じたことはない。(デゼルビに)経験が足りないのは本当だ。しかし、彼の(積極的に仕掛ける)提案型のサッカーが、私は好きでね。彼に必要なのは時間だけであって、私の下でそれを得るだろう。

 デゼルビはグアルディオラと同じアイデアを持っている。マンチェスター・シティでグアルディオラが持っているのと同じ組織を、彼は持っていないというだけだ」

 世界最高レベルの戦いで、信念を貫きながら勝ち続けるのは難しい。しかし、信念を貫きながら負け続けるのは、さらに難しいかもしれない。余程のメンタルタフネスがなければ、どこかで妥協してしまうのではないか。妥協を受け入れないそうした強さは、誰にでも持てるものではない。

 極端に堪え性のないザンパリーニが、しかも経験不足だと認めながら、その青年監督に賭けようとしていたのは、やはり特別な何かを見出していたからに違いない。それがカリスマなのか、何なのか。デゼルビの人物評には「知的で抜け目がない」というものも、「無遠慮で生意気だが、大胆で勇敢」といったものもある。

強い信念を選手と共有して成長する。

 しかも、ただ“強い”だけではない。"しなやか"にも映る。

 デゼルビがこんな話をしていたのは、ベネベント監督時代だった。

「結果に到達するための最善の道がどこにあるか、私は理解しようと努めている。まだ真理らしきものは掴めていない。その意味で、私のチームのベストプレーヤーたち、例えばサンドロやサニャとの対話は、日々私を豊かにしてくれる」

 名前が挙がった元フランス代表DFにして、マンチェスター・シティ時代はグアルディオラに師事しているバカリ・サニャは、両監督の類似点を認めながら、違いもあるというような話をしていた。

 いくらか抽象的だったその話を他の証言にも照らして解釈すると、こうなるか。選手との距離感はデゼルビのほうが近く、ベネベントの選手たちは試行錯誤のプロセスを監督と共有しているような感覚にも陥っていた……。

 だとすると、強い信念を持ち続け、しかも選手とともに成長し続ける、逞しい青年監督の姿が浮かび上がる。

今季は3試合を終えてセリエAの単独2位。

 今季のデゼルビは、過去2年と同様のプロビンチャ(地方クラブ)であるサッスオーロの監督として3年目のセリエAに挑んでいる。開幕戦は4-3-3システムの“偽の9番”に元ガーナ代表の実力者で新戦力のケビン・プリンス・ボアテンクを据え、優勝候補の一角を占めるインテルから1−0の金星を挙げた。

 3節はシステムを変え、いわば“偽のウイング”を両翼に配する3-4-3でジェノアから5−3の勝利を収めている。まだプレシーズンキャンプが始まって間もない頃、こう語っていた通りに。

「最初のヒエラルキーだけは私が作る。しかし、ピッチ上の化学反応によって、それは変わり得る」

 以前には、こうも言っていた。

「私の考えでは、選手が常に主役。選手が最大限表現できるようにするのが私の目標だ。組織から出発するのではない。組織に到達するために、個人から出発する」

 どちらもシーズン途中からの監督就任だった過去2季との大きな違いは、プレシーズンの準備の有無だろう。その違いはやはり大きいのか、今季は3節を終えた現時点で2勝1分無敗。まだ序盤戦にすぎないとはいえ、セリエAの単独2位につけている。

「ユーベをどうやって止めるか? 知ったことか」

 9月16日に迫った4節の相手は、開幕3連勝で単独首位に立っているユベントスだ。しかし、クリスティアーノ・ロナウドを加え、さらに難攻不落となった絶対王者との“首位攻防戦”を前にしても、デゼルビに気負った様子はない。

「明らかにイタリア最強の、今季は欧州最強でもあるチームと戦うわけだ。どうやって止めるか? 私が知ったことか。ただ、結果を残せる希望があるのは分かっている。彼らのネガティブな節(せつ)に、巡り合う必要があるだろう。もちろん、負けに行くとは言いたくない。全力を尽くすまでさ」

 どこまで建前で、どこから本音なのか。少なくとも、こうは言えそうだ。デゼルビという監督は、負けを怖れ、腰が引けた戦いの末に負けてきた監督ではない。

 標榜してきた主導権を握る、攻撃的なサッカーで勝とうと試み、おそらくは狡猾な相手ばかりが揃ったカルチョの世界ゆえ、負け続けてきた監督なのだ。同じ負け続きでも、そこが違う。

 予言めいた言葉を残しているのは、デゼルビと同業者のマルコ・ジャンパオロだ。かつては彼自身がいずれビッグクラブを率いていてもおかしくない青年監督と評され、現在はサンプドリアを率いて3年目という51歳のジャンパオロは、こう言っていた。

「(デゼルビという監督は)いつか、イタリアサッカーの新しい“基準”となっているかもしれない」

 敗北を怖れ、忌み嫌い、ディフェンシブに戦おうとする。そんなイタリアで敗北を怖れず、攻撃サッカーの信念を貫き、しかも成長し続ける監督がどこにでもいるわけではない。デゼルビがどれだけ負け続けようと、「イタリアのグアルディオラ」と呼ばれる大きな理由が、おそらくそこにある。

文=手嶋真彦

photograph by Getty Images


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