吉田輝星の正面には菊地亮太がいた。金足農とU18、違いは捕手だった?

吉田輝星の正面には菊地亮太がいた。金足農とU18、違いは捕手だった?

 そこには、甲子園を熱狂させ、日本中の視線を集めた吉田輝星はいなかった。

 連覇を逃したU18アジア選手権で、吉田は結果的に2敗を喫した。代表入りして初の実戦登板となった1次ラウンドの韓国戦で、初回に先制3ランを浴びながらも6回を2安打3失点、5奪三振と試合をまとめた。負ければ優勝を逃す剣ヶ峰だったスーパーラウンド初戦の台湾戦では、同点の4回から登板し5回4安打2失点と粘った。

 それでも、吉田は勝てなかった。

 ボールにスピードはあった。打ち込まれたわけでもなかった。しかし、甲子園で881球もの球数を投げたことによる積み重なった疲労や実戦登板の不足が、事実、吉田を本来の吉田から遠ざけてしまった。

 投げれば投げるだけ、その凄味をパフォーマンスに反映できる。夏の甲子園で、どの投手よりもそのことを証明したのが吉田だった。

「キレを意識する」「球速を上げ、低めから浮き上がるボールを投げる」「高めのボール球でも浮き上がるくらい全力で投げる」。今や吉田の代名詞とも言える、3段階のギアを自在に操作するストレート。2回戦の大垣日大まではそれで圧倒しながら、3回戦の横浜戦からは目先を変え、変化球を多投する姿が目立つようになった。

強打者たちを苦しめた「組み立て」。

 それは、この試合から吉田と対峙した各校の強打者たちも口を揃えていた。

 横浜の4番・万波中正が、敗戦を受け入れがたいような苦笑いを浮かべて言った。

「『ストレートで攻めてくるんだろうな』と思っていたら変化球で攻められた。吉田君もすごかったですけど、どっちかっていうとバッテリーの配球にやられた感じです」

 この大会で17打数9安打、2本塁打、12打点と爆発しながら、準々決勝で吉田の前に屈した近江の主砲・北村恵吾も、不完全燃焼とばかりに好投手との対戦を悔やんだ。

「気持ちを出してストレートでぐいぐい押してくると思いましたけど、そこまでではなかったのが意外だったというか。スライダーとか変化球中心で攻められたので自分が打席で読み違えてしまって。バッテリーの配球というか、相手のペースにやられました」

 ふたりの言葉で共通していたのは、吉田個人の凄味というより、バッテリーの組み立てに舌を巻いていたことだ。

金足農の捕手・菊地が語る吉田の変化。

 初戦から4試合連続2桁奪三振、最速150キロを計測するなど、誰もが認めるように吉田の投手としての能力は高く、パフォーマンスが一級品であることに疑いの余地はない。

 その吉田の力を最大限に引き出していたのが、捕手の菊地亮太だったわけだ。女房役について、吉田はこのように評している。

「バッターのことをすごく研究していて、観察眼にも優れている」

 菊地がいて、吉田が活きた。

 夏の甲子園では、ふたりの呼吸が絶妙にシンクロしていた。しかし時を遡れば、新チームが発足した昨秋からそれが噛み合っていたかというとそうではない。

 菊地が当時を回想する。

「3年生がいたときは先輩に囲まれていたので表に出ていませんでしたけど、新チームになってからの吉田を見ていると、ひとりで抑えようとしているところがあって。周りにもそういう雰囲気を出していました」

 秋田の公立校の絶対エース。菊地の言葉を要約すれば、その頃の吉田は「お山の大将」だったわけだ。

ひとりで投げようとはしなくなった。

 そんなマウンドでの自己証明に躍起になっていた投手が変わるきっかけがあった。

 当時から140キロ台のストレートには力があったが、県外の強豪校相手となるとことごとく痛打を浴びていた。鶴岡東との練習試合のことだ。打ち込まれた試合を分析した菊地は、バッテリーの欠点をこう確信した。

「それまではアウトコース一辺倒だったんです。あそこから『インコースも投げないとダメだ』と思いました。吉田のストレートはノビがあるしコントロールもいい。きわどいコースだとバッターも見えづらいし打ちにくいだろうから、インコースをどんどん攻めよう、と。

 そこから自分も吉田も自信を持って攻められるようにはなりました。気合いを入れるために初球から投げさせたり、『ボールが抜けなければデッドボールでもいいんだぞ』と、言ったりしていました」

 チームを背負うエースとしても、春の東北大会で注目を浴びるようになってからは、指導者から「人に見られる人間は立ち振る舞いも大事だ」と薫陶を受けたことで協調性が現れるようになった。そんな吉田に、菊地も「ひとりで投げようとしなくなり、周りを見て声をかけられるようになった」と、成長を実感したと述べている。

吉田は捕手との連携を大切にする。

 投げるたびに新たな潜在能力を解放していった吉田は、自身の投球スタイルをこのように解説する。

「まずは、自分がバッターとして嫌がるピッチングをすること。それは、すぐに2ストライクに追い込まれることなんで、そこは常に意識しています。相手がストレートを狙っているのであれば、キャッチャーと話し合って変化球中心にしたり、イニングごとに目線をずらすようなピッチングを心がけています」

 バッテリーとの共同作業の必要性は、すべての投手に言えることだ。ただ、吉田の場合は、捕手との連携の密度が濃ければ濃いほど、力を発揮するタイプなのかもしれない。

 そう考えると、U18アジア選手権での吉田は、やはり本来の吉田ではなかった。

 だからといって、吉田の結果と日本代表の正捕手を務めた大阪桐蔭・小泉航平との相性を関連づけることはできない。足りなかったのは実戦登板という時間。それに伴う、マウンドでしかできない捕手との意思疎通だった。

 それさえ整えば、吉田は誰とでも濃密な共同作業でもって相手をねじ伏せられる。それだけの力を誇る投手なのだ。

文=田口元義

photograph by Hideki Sugiyama


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