DDT王座戴冠の里村からアイドルまで、女子プロレス、夏の百花繚乱。

DDT王座戴冠の里村からアイドルまで、女子プロレス、夏の百花繚乱。

 8月31日の高山善廣支援大会『TAKAYAMANIA EMPIRE』(後楽園ホール)でセンダイガールズプロレスリングの里村明衣子とタッグを組んだ杉浦貴(プロレスリング・ノア)は、試合後にこんな感想をツイートしている。

「彼女と組んで女子プロレスラーのイメージ変わった。

 ちゃんとした凄い選手もいるんだな」

 当たり前だ、今まで女子プロレスを何だと思ってたんだと苦笑してしまったが、里村の試合ぶりに驚くのも無理はない。迫力、殺気、貫禄、ありとあらゆる“強さの説得力”をこの選手は持っている。どれだけ“女子プロ音痴”な人間でも、たとえ偏見があったとしても、里村には目も心も奪われるはずだ。

「男とも対等に闘う」、里村の強烈なアピール。

 杉浦とタッグを組む3日前、里村はDDTのリングでKO-D無差別級王座を獲得している(8月28日、新木場1st RING大会)。

 女子選手も所属するDDTだが、基本的な分類としては「男子団体」だ。その頂点に位置するシングルのベルトを、里村は巻いたのである。

 男色ディーノを下し、女性として初のKO-D無差別級王者となった里村は、マイクを握ると王座奪取の意味を「世の中の女性たち」に向けて発した。

「もう我慢する時代は終わったんだよ。男と対等に勝負できないなんて思ってんじゃねえぞ! 私は男でも女でも、強い相手と対等に勝負していく」

 インタビュースペースでは、勝因を「女子プロレスで培ってきた、そこで生き残ってきた私の強さ」だと語った里村。

 リング上でのメッセージは以前から言いたいことだったようだ。

「女性だからといって一歩引いたり、我慢したり、そういう女性が弱音を吐くのを聞くことが多すぎて。だったら本腰入れて、対等にやってみろよと」

知名度は「馬場、猪木、サスケ、里村」。

 里村は仙台に本拠地を置く団体の代表でもある。9月4日のDDT新木場大会でチームを組んだ宮城出身のMAO曰く「楽天やベガルタと一緒にスポーツニュースで『仙女(センダイガールズ)』の試合が流れるんですよ」。何本ものCMに出演している里村を「1日に5回くらいテレビで見てましたね」とも。

「宮城の年配の人たちにとっても、レスラーといったら馬場、猪木、サスケ、里村っていうレベル。組むことができて本当に光栄でした」

 誰とでも対等に闘うというのはリングだけのことではない。地方都市のスポーツビジネス、その最前線で存在感を発揮してきた女性経営者としての言葉でもあるのだろう。里村の戴冠には「世の中の女性たち」すべてに届く普遍性がある。そこにプロレスならではの象徴性、時代の精神を反映した寓話性も重なっていると言えばいいだろうか。

 もちろんそれは“女子プロレス界の横綱”とも呼ばれる里村の力量があって初めて成り立つものだ。同時に、里村がいわゆる“男勝りの怪物”といったイメージの選手ではないことも強調しておきたい。

藤本つかさは“女子プロ全盛期”を目指す。

 里村の快挙に限らず、この夏は女子プロレスの新たな可能性を感じさせる出来事がいくつかあった。

 8月26日には、アイスリボンが2年ぶりに横浜文化体育館でのビッグマッチを開催している。メインイベントでシングル王座ICE×∞のベルトを防衛、自身のデビュー10周年大会を締め括ったのは取締役選手代表でもある藤本つかさだった。

「女子プロレスを全盛期に戻したい」

 そう藤本は言う。目標の1つは地上波全国中継の実現だ。横浜文体でのビッグマッチは「またやりたい、じゃなくやります」と宣言した。

 日本武道館や東京ドームに進出する夢も口にしている。観客だけでなく選手も増やしたい、たくさんの女性にプロレスを体験してほしいという藤本には「47都道府県出身の選手をデビューさせて、全都道府県で凱旋興行をやりたい」という野望もある。

“インディー化”していた女子プロレス。

 '80年代にはクラッシュギャルズが少女たちを熱狂させ、90年代は団体対抗戦が男性ファンを惹きつけて次々とビッグイベントが開催された。

 だがそれ以降、女子プロレスは“インディー”になった。

 会場は小規模、地上波で扱われるとしても、それは物珍しさからだ。求められるのは“美女レスラー”や“親の反対を振り切って”選手になる物語だったりする。

 里村はそういう時代に、地域限定かもしれないがアスリートとして「1日に5回くらいテレビで見」る存在になったのだ。

東京女子プロレス好調の要因は……?

 インディーだから選手志望者は多くない。体格や運動神経にはかなりのバラつきがあるし、芸能界からの転身や二足の草鞋を履く選手も。

 そんな業界で急成長しているのがDDT系列の東京女子プロレスである。

 2013年に旗揚げ、2016年に初の後楽園ホール大会を開催すると、昨年は2回、今年は3回の“聖地”進出を果たした。

 8月25日の後楽園大会では、シングル王者にして団体一期生の山下実優が優宇を相手に身も心も削り合うようなタフマッチを展開している。その一方で、アイドルグループ・アップアップガールズ(仮)の妹分として結成されたアップアップガールズ(プロレス)の4人がアイドル活動と並行してレスラーとして成長していく姿にもファンは注目している。

“筋肉アイドル”才木玲佳はシングル、タッグとも戴冠歴のあるトップ選手だし、アイドルとしてDDTの大会にゲスト出演したら「プロレスに向いてる」と誘われた元LinQ・伊藤麻希の存在感は並外れている。観客動員が好調なのも当然と言えば当然で、既存の“女子プロ文脈”に当てはまらない独自性があるのだ。

 実は東京女子プロレス所属選手には「三禁(酒、煙草、男)」ルールがある。アイドル選手がリング上で歌うのもおかしなことではなく、ビューティ・ペア、クラッシュギャルズだってやっていたこと。女子プロレスの“古(いにしえ)の文化”を現代のアイドル文化と重ね合わせるようにリメイクしたと言えばいいだろうか。

全盛期を「新たに作る」つもりで。

 ちなみに甲田哲也代表はDDTの臨時GMも兼任しているのだが、9.8DDT成増大会は「モーニング娘。'18個別握手会参加のため」欠席している。これはもうGM就任前から決まっていたスケジュールだから仕方ないというか、そういう代表が手がける団体だから東京女子は面白いのだと言うしかない。そして、そんなGMがいる団体に君臨しているのが“女子プロレス界の横綱”里村だったりもするのである。

 おそらく、藤本が目指す女子プロ全盛期は“戻す”ものではなく“新たに作る”ものになるだろう。

 男子団体のチャンピオンになるほどの実力者がいて、アイドルもいる。アイスリボンの星ハム子といぶきは親子レスラー。藤本も「ウチの会社は産休手当、育児休暇があるので、選手としてしっかり使いたいです。もう五つ子とか産みたいですよ(笑)。子供もほしいしプロレスもあきらめないです、私は」と言う。

 横綱もアイドルも、社長も母親もいる。これから新たな女子プロ全盛期がくるとして、その原動力になるのはインディーの自由さがもたらした選手のあり方の幅広さだろう。

「なんでもなれる!」自己実現の多様性。

 世界最大の団体・WWEが女子選手だけのPPVビッグイベントを開催すると発表したのもこの夏だった。リング上でアナウンスしたのは首脳陣の1人であるステファニー・マクマホン。曰く「女性たちはどんなことだってできるし、なりたいものになることができる」。

 どこかで聞いたことがあるなと思ったら、(基本的には)女児向けアニメの『HUGっと! プリキュア』の決め台詞が「なんでもできる! なんでもなれる! 輝く未来を抱きしめて!」だった。この言葉に勇気づけられた大人の1人が伊藤麻希だった。アイドルとしては大成しなかったがプロレスに自身の可能性を見出した伊藤は「自殺したくなったら伊藤を見ろ!」とリングで叫んだことがある。「明日も生きてていいかな、くらいの勇気ならあげられるから」。

 女子プロレスの世界にはいろんな選手がいて、試合ぶりもさまざまで、きっと「こうしなければいけない」という正解はない。そして、そこにこそ可能性がある。女性が「なんでもなれる」時代には、「どんな女子プロレスラーにだってなれる」のだ。

文=橋本宗洋

photograph by DDTプロレスリング


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