兄・尚弥と2人でバンタム級を制圧。井上拓真が世界王座への挑戦権獲得!

兄・尚弥と2人でバンタム級を制圧。井上拓真が世界王座への挑戦権獲得!

 WBC世界バンタム級指名挑戦者決定戦が11日、後楽園ホールで行われ、同級10位の井上拓真(大橋)が同3位のマーク・ジョン・ヤップ(六島)に3−0判定勝ち。初の世界タイトル挑戦に大きく前進した。

 井上拓真は破竹の勢いで3階級制覇を達成し、いまや世界的にも高い評価を受けているWBA世界バンタム級王者、“モンスター”井上尚弥の3つ下の弟だ。

 小学校のころから兄とともに父、真吾トレーナーの指導を受け、兄に追いつけ追い越せとばかりにボクシングに取り組んできた。兄の存在の大きさの陰に隠れがちだが、高校時代には全国大会を制し、将来の世界王者候補としてボクシング界では有名な存在である。

 そんな拓真が迎えるフィリピン出身のヤップは東洋太平洋王座を3度防衛した実力者で、拓真自身が「過去最強の相手」と認める選手。世界タイトルに挑戦するためには、避けては通れない相手とも言えた。

兄は1年半で世界王者、弟はすでに5年弱。

 試合は両者が激しく駆け引きをし、4回を終わった時点の公開採点は、ジャッジ1人が拓真の2ポイントリード、残り2人がイーブンだった。拓真は5回、左フックでスリップにも見える幸運なダウンを奪うと、ここから持ち前のスピードとカウンターで徐々にリードを広げた。

 最終スコアは117−110、116−111、114−113で拓真に軍配が上がった。

 これで世界挑戦に王手をかけたわけだが、本人が「(世界戦のキップが)やっときたという感じはある」と話すように、拓真はスーパーホープとして決して順風満帆なキャリアを歩んできたわけではない。兄の尚弥がデビューから1年半、6戦目で世界王者になったのに対し、拓真は現時点でデビューから4年9カ月、12戦を要している。

 高校時代にしのぎを削った田中恒成(畑中)は尚弥の世界タイトル最短獲得記録を更新するプロ5戦目で世界王者となり、既に2階級制覇を達成した。この2人が「速すぎる」という面はあるにせよ、身近なライバルに比べて歩みが遅いのは事実だった。

一度は決まった世界戦を怪我で失い……。

 実は拓真も'16年暮れに、WBOバンタム級王座に挑戦することが一度は決まった。ところが自らの拳のけがでこれを流してしまう。1年のブランクをへて再起し、4度の世界挑戦経験を持つ久高寛之、元日本王者の益田健太郎というタフな相手を連続して退け、ようやく挑戦者決定戦の舞台に立ったのだ。

 試合を組んできた大橋秀行会長は「拓真はデビュー戦から日本ランカーと戦い、その後もタフな試合をこなしてきた。これほど強豪と対戦してきた選手はほかにいない」と言い切る。ダウンや苦戦も経験した。拓真の戦績を見ると12勝3KO無敗とKOが少ないが、これはいわゆる“噛ませ犬”との対戦がほとんどない証とも言える。

 拓真は紛れもなく優れたボクサーだ。コンビネーションのスピード、ステップインの鋭さ、パンチを見切る目、カウンターを取るタイミングには非凡なものがある。だからこそ、これまで強豪相手に負けることはなかった。ただし、その才能が大きく花開いているかといえば、まだ7分咲きといったところだろう。

トレーナーからの注文は?

 今回の試合も実力者ヤップ相手にしっかり勝利したが、ジャッジ1人が114−113をつけたように、時折いいパンチを食らうなど、決して100点と言い切れる内容ではなかった。真吾トレーナーはヤップ戦が終わった控え室で「拓真に注文は?」との質問を受け、次のように答えた。

「最初はちょっと慎重になりすぎましたね。もう少し、なんだろうな、こっちがヒヤヒヤしないような荒々しさも出してほしい。そういうところで自分のペースに引きずり込んでいくとか。そういう場面もつくってほしいというのはあります」

 あまり細かいことを気にしない尚弥に対し、何事にもきちっとしている拓真。いろいろな考えがあるのだろうが、拓真の試合を見ていると、「もっとできるのでは」と思わずにはいられないときがある。

 ヤップ戦では、最終回にこの試合で初めて距離を詰め、打ち合いに挑み、相手のパンチをしっかり外し、スピード感あふれるコンビネーションを放った。もっと早いラウンドからこれを見せていれば、試合はさらに盛り上がったことだろう。

「小さいころから夢だった兄弟同時王者に」

 現在WBCバンタム級は、山中慎介に勝利したルイス・ネリが計量失格で王座はく奪となって以降、空位が続いている。10月にようやく王座決定戦が行われ、この勝者がタイの選手と指名試合を行い、拓真の出番はその次という状況になっている。

 拓真の挑戦は少し先になるかもしれないが、尚弥が賞金トーナメント、ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)バンタム級に出場していることで、井上兄弟が主要4団体のバンタム級を制する可能性が出てきた。WBSSにはWBCを除く3団体の王者が出場しており、尚弥がWBSSで優勝すれば3本のベルトを手に入れるからだ。

 漫画みたいな話だが、尚弥がWBSSの優勝候補ナンバーワンなのだから、大いに可能性はあると言えるだろう。

 試合を終えた拓真はリング上からファンに向かって力強く宣言した。

「これから課題を克服して、小さいころから夢だった兄弟同時王者になります!」

 未完の大器は“モンスターの弟”という殻を破り、井上拓真としていま、大きく羽ばたこうとしている。

文=渋谷淳

photograph by Kyodo News


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