なぜU18ジャパンは打てなかったか。木のバット、牽制、ストライク。

なぜU18ジャパンは打てなかったか。木のバット、牽制、ストライク。

 宮崎県で開催されていた第12回U18アジア選手権が9月10日に閉幕。大会2連覇がかかっていた日本は、グループ戦で韓国、スーパーラウンドでは台湾に、ともに1−3で敗れて決勝進出はかなわず、3位で大会を終えた。

 甲子園であれほど輝きを放っていた選手たちが、輝けない――。甲子園のようなブラスバンドの応援がないサンマリンスタジアムは、重苦しい試合展開にシーンと静まり返っていた。

 とにかく打てなかった。5日の韓国戦は5安打、7日の台湾戦はセーフティバントを含むわずか2安打。投手陣は強打の韓国を3安打に抑えるなど踏ん張っていたが、守備のミスが絡んで失点し、それを取り返す力が打線になかった。スタメンのうち6人が左打者という偏った打線に左投手をぶつけられ、打開できなかった。

 台湾戦のあと、大阪桐蔭の根尾昂はこう話していた。

「相手投手は後半、球が落ちてきたのがわかっていましたが、ヒットが出ないままぐずぐず行ってしまった。なんとか1点ずつという気持ちはあったんですが、先頭バッターがなかなか出られず、どんどん焦っていった感じがありました」

 相手投手については、ある程度の映像やデータはあるものの、今夏の甲子園で活躍した大阪桐蔭のデータ班のような担当者がいるわけではない。試合中は選手たちがお互いに打席の中で得た情報を伝え合うなどしていたが、なかなか攻略には至らなかった。

木のバット、牽制などルールも違う。

 日本の高校野球と国際大会のルールの違いも大きく影響した。U-18日本代表の永田裕治監督はもどかしそうに語った。

「木製バット、牽制(日本ではボークを取られるような牽制が認められる)、ストライクゾーン。これは日本の野球とはまったく違う。選手たちは体にしみついたものがあるので、難しい。短期間(の準備)でも対応しないといけないんですが……」

 木製バットへの対応は、毎年この時期の国際大会で課題にあがる。日本の高校では金属バットが使用されているが、国際大会では木製バットを使用する。

藤原恭大が「ポイント」でもアウトに。

 今年は8月21日に甲子園の決勝戦が行われ、日本代表は25日に集合。そこから9日後にアジア選手権が開幕。木製バットでの準備期間がわずかしかなく、その対応の難しさを多くの選手が口にしていた。

 今夏の甲子園で3本の本塁打を放った大阪桐蔭の4番・藤原恭大は、金属と木製の感覚の違いをこう表現した。

「金属バットは当てただけの打球でも飛んでいくんですけど、木のバットは自分のしっかりしたスイングじゃないと飛ばない。仕留められるボールを、仕留められない。金属バットならホームランになるボールが、セカンドゴロになったり、打ち損じてしまう。

 自分の中で、『ここに来たら打てる』というポイントに来ているのに、アウトになってしまう打球が多いんです」

 藤原が「木のバットへの対応が少しわかった」と手応えを得たのは、大会最終日、中国との3位決定戦の最終打席だった。

韓国、台湾は高校生も木のバット。

 一方、今大会で優勝した韓国と準優勝の台湾では、高校でも木製バットが使われている。

 今大会は当初、日本と韓国が2強と見られていたが、台湾は日本を破り、決勝では韓国を相手にタイブレークに持ち込む健闘を見せた。台湾代表は、国内の大会で優勝したチームから8人、準優勝チームから4人、残りの6人は3位以下のチームから選出され、約1カ月半の合宿を経て大会に臨んだという。

 台湾では、中学までは金属バットを使用し、高校で木製バットに移行する。高校の大会には、木製バットを使用する大会と金属バットを使用する大会の両方があるが、金属バットの大会には主に1年生が出場する。1年生のうちに木製バットに慣れ、2年生からは木製バットの大会に出場するのだという。

台湾の監督「金属バットだと打つだけで点が入る」

 南海ホークスで4年間プレーした経験を持つ台湾のリ・ライファ監督は、金属バットと木製バットの違いをこう語る。

「金属バットに比べると、木製バットは本当に(打球がヒットになる)ポイントが小さい。そのポイントで正確に捉えなければ、インコースのボールはバットが折れてしまうし、アウトコースのボールは打球が死んでしまう。金属バットと木製バットの違いは非常に大きいので、10日間や2週間程度で慣れるのはとても無理です。

 台湾では高校の3年間で時間をかけて木製バットをものにします。だからその後、プロに入ってもすぐに慣れることができるんです」

 日本戦で、台湾は巧みにバントやスクイズを決めるなど小技が冴えたが、それは木製バットを使用しているからこそだと、リ監督は言う。

「金属バットだと打つだけでどんどん点数が入るので、作戦はそれほどいりません。でも木のバットだと1試合にヒットは3、4本しか出なかったりする。だからバントや作戦が必要なのです」

お金がかかる木のバット採用は難題。

 日本の高校野球も、国際ルールに合わせて木製バットに……と簡単には行かないようだ。

 永田監督も、日本高校野球連盟の竹中雅彦事務局長も、木製バットの問題は「永遠の課題」だと口を揃える。竹中事務局長は言う。

「一番難しいのは費用の問題です。(木製バットは費用がかかるため)潤沢に資金のある学校が有利になるような改革は、うちとしてはできません。もちろん国際大会で勝つためには木のバットでやるのが一番いいと思いますが、公立高校で、部費が少ない中でやっているような学校は厳しくなりますから」

 大会時期を今より遅らせれば、木製バットに対応する準備期間は増えるが、日本だけの事情で時期を動かすのは難しく、また、学校の授業と重なってしまうという問題もある。

 ただ、木製バットの使用経験や指導経験の豊富な元プロの指導者などを代表のスタッフに加えたり、データ分析や選手選考のやり方を見直すなど、勝つ環境を整えるために早急にできることもありそうだ。

吉田「根尾は結構変人です。行動がおかしい」

 課題が多く浮き彫りになった今大会だったが、出場した選手たちが得たものは大きい。国際大会の中で自分たちの立ち位置や課題が見えたことはもちろん、高校球界トップレベルの選手たちが同じチームで過ごす中で、技術や考え方など、互いに刺激を与え合った。

 今夏、史上初の2度目の春夏連覇を達成した大阪桐蔭の主将で、今回の代表でも主将を務めた中川卓也は、視野が広がったと言う。

「自分はどちらかというと、野球を楽しむというよりも、勝つことによって楽しめる、勝つことによって後悔しない、というふうに思っていました。でも野尻(幸輝・木更津総合)とかが、『野球を楽しめば硬くならない』ということを言っていたり、小針(崇宏)コーチ(作新学院監督)に『野球をもっと楽しみなさい』ということを言われました。そこは勉強になりました。自分の考えが間違っていたというわけではないですけど、1つ引き出しが増えたというか、そういう考え方もあるんだな、と」

 根尾は、「吉田輝星(金足農)の冬場のトレーニングの話や、練習時間が短くても勝っている学校はなぜ勝てるのかとか、それぞれの学校の強さの秘訣をいろいろと聞いて勉強になりました」と言う。

 逆に吉田も、「根尾は結構変人です。部屋でいきなり体幹(トレーニング)を始めたり、ところどころ行動がおかしい」と笑いながらも、そのストイックさや技術に刺激を受けたようだ。

「根尾も柿木(蓮・大阪桐蔭)も、スライダーが自分よりストレートに近い球速で、自分と感覚が違っていた。そういうところを参考にできればすごく大きいなと思いました」

 甲子園で次々に新しい引き出しを開けて周囲を驚かせた風雲児が、また新たな引き出しを増やしそうだ。

根尾と同部屋だった唯一の2年生。

 今大会のメンバーで唯一の2年生だった星稜のエース奥川恭伸も、同部屋の根尾から多くの収穫を得たという。

「バッター心理とか、いろいろ勉強させてもらいました。例えば、バッターは意外と真ん中の球のほうが打ちづらいんだと教えてもらいました。ど真ん中にくると力んでしまったりするから。

 だから、そのつもりで投げ込めばいいのかなと。そこにツーシームやカットボールを投げられれば、バッターが力んで打ちにいった時にボールがズレるので、芯を外せるというイメージが湧きました。変化球の投げ方や握り方も教えてもらいましたし、チームに帰って試したいことがいっぱいあります」と目を輝かせた。

来年のW杯出場権はどうにか確保。

 決勝進出を逃した日本は、3位決定戦で中国に14−1で勝利し、3位までに与えられる来年のW杯の出場権は確保した。

 解団式で奥川は、「この経験をしっかり今後にいかして、来年もう1回ここに戻ってこれるよう頑張りたい」と決意を口にした。

 今年のメンバーが苦闘の末に得た結果と経験は次の代に受け継がれる。そして今後、次のステージで野球を続ける3年生にとっても、この大会の経験や、互いに交換した技術やアイデアがそれぞれの糧となるに違いない。

文=米虫紀子

photograph by Kyodo News


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