大地震2日後、根室のリングで見たジャイアントパンダへの声援と笑顔。

大地震2日後、根室のリングで見たジャイアントパンダへの声援と笑顔。

 9月6日未明、北海道を襲った北海道胆振東部地震。最大震度7を観測した巨大地震により道内全域が停電に見舞われ、多くの道民の生活に影響を与えた。

「さすがにあの時は、どうしたらいいんだろうと思いましたね」

 そう語るのは、今や全国区の人気者となった身長3mの“着ぐるみレスラー”アンドレザ・ジャイアントパンダを生んだ、北海道根室市の社会人アマチュアプロレス団体「新根室プロレス」代表のサムソン宮本だ。

 新根室プロレスでは、あの大地震のわずか2日後にあたる9月8日(土)に、地元の三吉神社のお祭り会場で入場無料のビッグマッチ開催を予定していたのだ。

 広い北海道、震源地から遠く離れた根室市では、ほぼ揺れを感じなかったというが、停電は道内全域に及んでおり、それは根室も例外ではなかった。大会前日の7日昼まで、市内の多くの地域で停電が続いていたため、とても夜の屋外プロレスが開けるような状況ではなかったのだ。

前日まで電気が来ていない状況。

 ただ、三吉神社例大祭でのプロレス大会は、新根室プロレスがまだ地元民以外誰にも知られていなかった13年前から毎年開催し、大事にしてきた大会。またアンドレザ・ジャイアントパンダは、昨年の三吉神社例大祭での試合の模様が北海道新聞根室版に掲載され、それがネットで拡散されてブレイクしたという経緯もあり、今回はとくに力を入れた、新根室プロレスにとって特別な大会だったのだ。

 だからこそ、開催の是非について、大いに頭を悩ませたという。

「今回は、根室の多くの方々が楽しみにしていただいていた大会で、さらに東京をはじめ、いろんな地方からわざわざ根室まで来てくださるお客さんもいると聞いていたんで、なんとか開催したいなと思ってたんですけど。

 いかんせん前日まで電気が来てませんでしたから、電気が来ないかぎり開催はできないなと、諦めかけていたんですよ。でも、『もしかしたら前日に復旧できるかもしれない』とも聞いていたんで、ギリギリまで迷いましたね」

開催が不謹慎ではないかと悩み。

 また、「電気が来ない」という物理的な理由だけでなく、この大変な時期にプロレス大会を開くのは不謹慎ではないか、という考えも頭をよぎったという。

「じつは、リングを照らす照明用の発電機を用意してあったので、お祭りの実行委員会の方からは、『もし電気が来なくても、発電機を使って開催したらどうか』というお話もいただいてたんです。

 でも、いくら発電機があるとはいえ、周囲の家が停電して、みんなが不自由な生活を強いられている中、自分たちだけ発電機を使ってやることはできないと思ったんですね」

 そして例大祭実行委員会との協議の末、「停電が解消されれば開催、解消されなければ延期」という決定がなされた。すると大会前日の夕方には根室市全域でほぼ電気が復旧。ぎりぎりのタイミングで開催へのGOサインが出されたのだ。

「電気が来たときは、本当にほっとしましたね。これでなんとか開催できるって」

将軍KYワカマツは460kmを激走!

 また今回の三吉神社例大祭はビッグマッチということで、同じ北海道の芦別市在住で、昭和の新日本プロレス等で活躍した“悪のマネージャー”将軍KYワカマツのゲスト出場も決まっていた。しかし、同じ北海道とはいえ、芦別と根室は460km離れており、出場が危ぶまれていたが、ワカマツは「根室の人たちのために」と当日クルマで6時間かけて駆けつけたのだ。

「ワカマツさんに、大会前日お電話したら『必ず行きますから、安心してください!』と言っていただいて、心強かったですね。76歳であのバイタリティには頭が下がります」

 そして迎えた9月8日当日。19時半から開催するプロレスのために、夕方から三吉神社には続々とお客さんが詰めかけ、大地震のわずか2日後に500人以上の人々が集まった。 

 そして、新根室プロレスの大会は、最初から大盛り上がり。第1試合に登場した、アンドレザ・ジャイアントパンダの“息子”ラジャ・パンダくんは、早くも人気者になり、メインイベントに登場したアンドレザ・ジャイアントパンダの試合では、子供達がみんな大きな声で「パンダ」コールを送る光景も見られた。

 とても前夜まで停電で不自由な暮らしをしていたとは思えないほど、500人以上の観客、みんなが笑顔だったのが印象的だ。

市民みんなを笑顔にしてくれた。

「経験した方ならわかると思いますけど、停電になると何もできないんですよ。仕事もできないし、お店もみんな閉まってるし、時間潰すのにビデオとかテレビも見られない。そういう状態が2日間続いていたので、あれだけ盛り上がったのは、その反動もあったんじゃないですかね。新根室プロレスで楽しむのと同時に、『電気がついたぞー!』っていうよろこびでもあったと思います」

 今回の三吉神社例大祭は、電気復旧のよろこびを分かち合う復活祭のような盛り上がりとなったのだ。

「開催まではいろいろ不安でしたし、開催して本当にいいのかなという葛藤もありましたけど。根室の人たち、とくに子供たちがあんなによろこんでくれて、開催して良かったなって思いますね」

 大会の最後は、新根室プロレス統括本部長のOSSANタイガー選手が、「無理しない! 怪我しない! 明日も仕事――ッ!」と、新根室プロレスのモットーを観客全員と唱和して締めた。

 北海道の人たちに元気を与えるなどと、大それたことは言わない。でも、会場に来た根室市民みんなを笑顔にしてくれた新根室プロレス。

 無理せず、ケガせず、日々の生活を大事にしながら、これからもアンドレザ・ジャイアントパンダと新根室プロレスは、北海道の片隅から各地に笑顔を届けてくれることだろう。

文=堀江ガンツ

photograph by Gantz Horie


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