イニエスタへのファウルと負けん気。湘南・齊藤未月はU-19世代の闘将。

イニエスタへのファウルと負けん気。湘南・齊藤未月はU-19世代の闘将。

 最年長としてのプライド――その自覚を持って「戦う」こと。

 ポーランドで2019年に開催されるU-20W杯。その出場権が懸かるAFC U-19選手権は10月に開催される。U-19日本代表のMF齊藤未月(湘南ベルマーレ)は、最年長としてチームを引っ張る重要な存在になっている。

 U-19日本代表は現在メキシコで、本番前の最後となる海外での腕試しのため、合宿を敢行している。

 第1戦は地元のU-19メキシコ代表と戦って1−1のドロー。

 第2戦はU-19ブラジル代表と戦い、再び1−1の引き分けと、来たるべき本番に向けて着々と準備を進めている。

 この合宿の直前、千葉県内でU-19ベトナム代表との親善試合を戦ったのだが、そこでチームの先頭に立って戦う齊藤の姿に目が釘付けとなった。

味方が削られると怒りをむき出し。

 キャプテンマークを巻きボランチとして出場していた齊藤は、持ち前のボール奪取力を発揮するべく、イーブンボールにも激しくアタック。中盤で次々とボールを回収していた。

 徐々にベトナムのアフタープレーによるファウルが増えていくと、味方がファウルを受ける度に闘争心、怒りをむき出しにする。そしてファウルされた仲間を気遣うなど、リーダーとして堂々たる振る舞いを見せていた。

「やっぱりこのチームの最年長でキャプテンでもありますし。チームの先頭に立ってやらないといけないという、強い思いはあります。

 ああいうシーン(味方がアフタープレーのファウルを受けた時)でも、僕が率先して闘争心を見せることで、チームのボルテージも上がるので。それで、しっかりと局面で戦える試合にしたかったんです」

「なあなあの試合」ではダメ。

 この意図的にチームの闘争心を煽ったという発言。実は齊藤が試合前の雰囲気を敏感に感じ取っていたことに起因する。

「今回の合宿はAFC U-19選手権前の重要な合宿。今の僕らは1試合も無駄にできない状況なんです。だからこそ、このベトナム戦が『なあなあの試合』になってしまう危険性が少しでもあるのならば、それは何とかしたかった。

 それに相手は、立ち上がりから『絶対に日本を倒す』という気迫を持って臨んでいることがヒシヒシと伝わってきましたから。

 アフタープレーのファウルも多くなってきていることを試合中に感じたので、そこを逆手に取って、味方の闘志に火をつけようと思って敢えてやりました。徐々にみんなのテンションも上がってきて、『チームとして、日本代表として、全力で戦うんだ』という気持ちを持ってくれたと思います」

 彼の見せた気迫は、この言葉通り徐々に周りに伝染していった。実際、後半は非常に締まった内容になっていたのだ。60分に齊藤は平川怜(FC東京)と交代となったが、最終的には日本が2−0で勝利を収めた。

親善試合だろうが勝たないと。

「代表として戦う以上、たとえ親善試合だろうが勝たないといけませんし、中途半端なプレーをしてはいけない。この考えを、試合開始直後からできれば良かったのですが、相手の気迫に押し込まれてしまった感はありました。

 正直、この試合に臨む意気込みは相手と大きく差があって、僕らが甘く見てしまっていた感は否めませんね」

 ハキハキとした口調とまっすぐ前を見つめた目。彼をよく知る者であれば、その負けん気の強さと意思の強さ、そして時には強すぎる自己表現という、そのすべてが彼の魅力なのだと分かっているだろう。

 この強烈なキャラクターには、下部組織から所属し続けている湘南というクラブの性格、そして「曹貴裁監督」という彼に一番大きな影響を与えた人間の性格が、色濃く反映しているのだ。

「相手を潰す」「球際に激しくいく」

「僕の持ち味はボールを奪うこと。日本ではボールを奪うことを得意とする選手はあまりいないと感じていますね。僕はその能力を発揮して『相手を潰す』『球際に激しくいって食い止める』という役割を常に意識していますから。

 もしチームがピンチとなるカウンターを受けそうだったら、ファウルをしてでも止める。もちろん完全に奪い切ることが大事で。『ここで振り切られたらまずい』というときは、何が何でも気迫だけでも絶対に止めてみせます。そういう気持ちを見せることで、相手に『こいつらガツガツ来るな』と思わせることも僕の仕事だと思っていますから。

 そういうアタックを自信持ってやらないと、湘南というチームで生き残っていけないと思っていますから。球際で負けてしまったら、試合に勝てない。何より湘南で試合に出ることができませんから」

 自分のプレーに一切の迷いがない。

 齊藤の力強いコメントを聞いているうち、筆者の頭の中にふと「あるシーン」が思い浮かんだ。

 それは今年8月19日のJ1第23節のホーム・ヴィッセル神戸戦でのシーンだ。

イニエスタへのファウルが話題に。

 ボランチとしてスタメン出場した齊藤は、神戸のイニエスタとマッチアップし、試合開始直後から一歩も引かないプレーを随所で披露していた。

 22分に齊藤が球際の攻防でイニエスタに対し激しく当たりにいくと、イニエスタは素早く左足でパスを選択。ところが、齊藤の足がイニエスタの左膝の内側に当たってしまう。イニエスタが、その場でうずくまってしまうほどの衝撃だった。

 この時ばかりは齊藤もすぐにイニエスタに駆け寄り、心配な表情を見せた。ところが、イニエスタが立ち上がってプレーを再開すると、再びその闘争心をあらわにしてバトルを挑み続けた。

 このシーン、実はネット上でも賛否両論があり、ちょっとした話題となった。

 彼に取材している時、イニエスタに向かっていった時の心理状態を感じ取れた気がしたので、あえて「イニエスタとマッチアップのときは、この気持ちを前面に出したからこそのプレーだよね」と言ってみた。

 すると彼は、このシーンについて素直な心の内を語ってくれた。

イニエスタへのプレーについての思い。

「報道などでは僕が気分的に落ち込んだという話も出ていましたが、全然そんなことはありませんでした。

 あれは僕としては奪いにいこうとして、若干アフター気味になってしまった、というのが事実です。激しくいったつもりはなかったのですが、当たりどころが膝の内側だった。それはイニエスタ選手には申し訳ないと思っていますが、僕の中では『奪える』と思って思い切り行った結果ですから……なので、きちんと奪えなかったことは、僕の技術不足以外の何物でもありません。

 僕の中で、イニエスタ選手へのあのプレーは、自分がもっともっと上を目指すためのポジティブな材料にしているわけで、決して間違ったことをしたとは思っていません」

 彼にとってイニエスタに対してチャレンジしたのは、あくまで「奪えると感じたタイミング」だったからなのだ。だが、それを相手が技術、判断両面で上回り、自分が下回ったからこそ「結果としてファウルとなった」。

「ファウルになる=自分の力不足」と感じることで、ではどうやってプレーの質を高めて行くかを次に考え、プレーにすぐに生かす。彼が言いたかったのは、そういうことだった。

「責任感が出ると、技術も自然と上がる」

「僕が湘南でここ数試合に出られているのは、球際で戦う、積極的に奪うという姿勢を常に出せているからこそ。僕にとってはそれが当たり前で、どの試合でも『絶対にやらないといけないこと』なんです」

 気合十分の19歳のサッカー哲学に、曹監督も目を細めている。

「本気で奪おうと思って寄せてかわされても、次のチャンスがある。でも、本気で奪おうと寄せていなかったら、絶対に次はないんです。

 その経験はプロになってもどんどんやらせていかないといけないし、自分のミスを恐れて、相手がミスするのを待っているようじゃ、世界で戦えるわけがない。僕は折りに触れて、そのことを選手に言い続けています。未月はようやく責任感というものが出てきたと感じますね。そういうのが出てくると、技術も自然と上がってくるんです。

 メンタルと技術は連動している。

 彼はボールを奪取能力が非常に高い。あとは、フィニッシュの面や、プレー全体に落ち着きが出てくればもっと面白くなる。ただ、今はあまり小さくまとまって欲しくないし、今後は井手口(陽介)とか、(山口)蛍を超える選手になって欲しい」

曹監督「代表に集中してやれ」

 湘南は今季、ルヴァンカップで好調だ。準々決勝ではセレッソ大阪を相手にホームで3−0、アウェーで2−2と、クラブ史上22年ぶりとなるベスト4へと駒を進めたのだ。

 齊藤も、リーグ戦では直近4試合連続で先発フル出場し、チームも上向きになってきた時期だっただけに、代表合宿のための離脱は少しだけ後ろ髪を引かれる想いがあった。

「正直に言えば最初は、チームとしても、個人としてもいい流れだったので、みんなと一緒にルヴァンを戦いたいし、もっと湘南で試合に出たい気持ちはありました。でも、ここで代表に選ばれることは凄く光栄なことです。そして一度抜けてチームに帰ったらもう居場所がないとか、出番がなくなっているようじゃ、この先プロサッカー選手として到底やっていけない。それに曹監督に言われた『一度チームのことは忘れて、代表に集中してやれ』という言葉を胸に刻んで、メキシコに行きたいと思えるようにもなりましたので」

 そんな気持ちで臨んだメキシコ遠征では、メキシコ、ブラジル戦ともに後半からの出場。キャプテンでありながら、彼はまだ影山雅永・U-19日本代表監督の信頼を完全に掴みとっているわけではない。

「梅さんのリーダーシップが……」

「どんな状況でも常に自分を見失わずに、チームのために全力を尽くす。どんな状況でも結果を出すためには、私生活からプロらしく立ち振る舞わないといけないと感じています。代表では試合に出ても、出ていなくても、最年長として自分の行動で周りに示す立場だと思っています。

 僕は湘南では年下ですが、梅さん(梅崎司)がこうした自覚を持ってリーダーシップを発揮しているのは、誰の目から見ても明らかなんです。

 僕もそういう存在になりたい。

 それに湘南でも若いからといって、ただ梅さんのような選手の下にくっついて行くのではなく、自分が引っ張っていくプレーや言動をしていくことが大事だと思ってやってますので」

 立場は自分次第で変えられる。だからこそ、変えてはいけないものもある。

 自分の武器である「闘争心」をチームとしてプラスに作用させる能力で、齊藤未月はU-19日本代表、湘南と2つのチームで自らをブランディングしているのである。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando


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