「重賞レベルなら日本馬の方が上」海外遠征の変化と武豊が語る評価。

「重賞レベルなら日本馬の方が上」海外遠征の変化と武豊が語る評価。

 日本馬の海外遠征が特別なものでなくなってどのくらい経つだろう。

 1990年代以前は海外遠征となれば大きなニュースとなり、陣営も力が入っていたものである。しかし、1998年にタイキシャトルとシーキングザパールがフランスでGIを勝った前後から徐々に海を越える馬は増え、2000年代になると香港やドバイといった招待レースはもちろん、フランスの凱旋門賞に挑む例も増えていく。

 2010年代に至っては先述の香港やドバイだと1度に10頭近い日本馬が臨む事もあるし、凱旋門賞には毎年、誰かが挑む感じになってきた。

 もちろん馬や厩舎は毎回違うのだが、それでも情報の伝達が直接的にも間接的にも行われているのか、昔と比べて海外遠征に対し陣営も肩ひじを張らなくなってきている気がする。

水1つでも大変だった'90年代。

 クロフネミステリー(1995年、アメリカ、ディスタフHに挑戦)やタイキブリザード(1996年、1997年とカナダ、アメリカで行われたブリーダーズCに挑戦)が遠征した当時、管理する藤沢和雄調教師は次のように語っていた。

「水が体質に合うかどうかは大きい。現地の水を事前に日本へ輸入して、遠征前から少しずつ飲ませて慣らしていこうか……」

 そこまで心配していたものだが、現在はそんな話は聞いた事がない。

 他にも臨戦過程やそれを元にいつ現地入りするか? などは現在でも一部競走では課題のままではあるものの、これに対しても以前ほど神経質ではなくなっていると思う。

 そんな中、先週の9月9日、韓国で行われたレースでは、“遠征に於いて最も大切なことは何か”を教えてくれるような結果が待っていた。

韓国GIを連覇したロンドンタウン。

 この日、韓国、ソウル競馬場で行われたのはコリアスプリント(ダート1200m)とコリアカップ(ダート1800m)の韓国GI、2競走。前者にはモーニン(牡6歳、栗東・石坂正厩舎)、後者にはロンドンタウン(牡5歳、栗東・牧田和弥厩舎)の日本馬がそれぞれ出走した。

 モーニンは初めての1200m戦という事で序盤は流れに乗れず、後方からの競馬。外から被せられるレース展開にもなり、厳しい競馬を強いられた。それでも直線では一完歩ごとに前との差を詰めると、ゴール前では更にグイッとひと伸び。最後は頭差ではあったが、苦しい競馬を跳ね返し優勝してみせた。

 また、ロンドンタウンはスタート後、ジョッキーの岩田康誠が押して先手を取りに行くと、序盤は2番手。しかし、終始手応えが違い、半マイルも行かないうちに我慢し切れないというか、我慢させる必要がないとばかりに先頭に立つ。すると後はモノの違いを見せつける競馬。3コーナー手前から徐々に開いた差は直線に入る頃にはもうセーフティーリードと言えるほど広がった。

 直線では1頭になったせいかフラフラするシーンがあったものの、それでもゴールでは2着に15馬身差。勝ち時計の1分50秒6というのもレコードで、同馬は前年に続き2年連続でのコリアカップ優勝を成し遂げてみせた。

「去年は展開云々とか関係なく馬の能力差で勝てた感じ」とレース前に語っていた岩田だが、今年も全くその通りの結果が待っていたわけだ。

ジェニアルの仏遠征も同じだった。

 思い起こせばこの夏にはフランスでも似たような事があった。

 7月22日、メゾンラフィット競馬場で行われたGIII・メシドール賞(直線、芝1600m)に出走したのはジェニアル(牡4歳、栗東・松永幹夫厩舎)。同馬は日本では当時まだ500万下条件の身。遠征直前に走っていた1000万下条件では5着に敗れていた。

 しかし、フランスではGI連対馬も出走するメンバー構成をモノともせず、見事にこれを勝ってみせたのだ。

武が下級条件馬と伝えたら驚きが。

 騎乗した武豊の弁によると、レース後のジョッキールームで現地の騎手達に「日本ではどのくらいのレベルの馬なんだ?」と聞かれ、下級条件である事を伝えると、皆、一様に驚いていたと言う。

 ちなみに同騎手は常々「凱旋門賞などのトップクラスはともかく、GII、GIIIレベルなら日本の方が上だと思う」と語っていた。

 これは実際に2006年に当時1000万下条件のピカレスクコートが同騎手を背にフランスでGII・ダニエルウィルデンシュタイン賞に出走し、2着していた事などからも感じていたのだろう。

 さて、ここに記した韓国やフランスの例からも分かるように、遠征に於いて何よりも大切なのは結局のところ“馬自身の持つポテンシャル”なのだろう。

 もちろん、あの手この手を施し、その馬に合う条件に良い状態で出走させる事は基本だが、どれだけベストで挑ませても馬自身の能力が劣るのではいかんともし難い。これに対し、能力差で優っていれば、表彰台はグッと近いものになるのである。

 競馬であるから能力のある馬が必ずしも勝てるわけではないが、そんな視点で今週末、フランスで出走するクリンチャー(牡4歳、栗東・宮本博厩舎、GII・フォワ賞)や現地での連勝を目指しパン賞に走るジェニアルに注目したい。

文=平松さとし

photograph by Satoshi Hiramatsu


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