東京五輪競泳、午前決勝の難しさ。池江璃花子に多種目ゆえの悩み。

東京五輪競泳、午前決勝の難しさ。池江璃花子に多種目ゆえの悩み。

 9月12日、2020年東京五輪における競泳の競技日程が発表された。7月の段階で、決勝が午前に実施されることは決定していたが、その詳細が決まったことになる。あらためてそのスケジュールを見渡すと、「午前決勝」の厳しさが浮き彫りになった。

 競泳は本来、午前に予選が実施され、午後の時間帯に準決勝・決勝が組み込まれる日程だ。本来のスケジュールが覆ったのは、すでに報じられてきたように、アメリカの放送局が莫大な放送権料を支払っているため、同国の放送時間帯に配慮したことにほかならない。それだけアメリカで競泳は人気が高いとも言える。

 国際水泳連盟や大会組織委員会は、今まで通りの時間帯で実施するよう、国際オリンピック委員会に要望していたが、認められることはなかった。午前決勝に反対していたのは、実施時間帯が早いという日本国内の視聴率問題もあるが、最も大きな理由は選手の体調面やパフォーマンスへの懸念だ。

平井コーチも朝の決勝に懸念。

 実際、日本代表として国際大会で好成績を残す大橋悠依は「私は午前中が苦手なので」と語っているし、日本代表ヘッドコーチの平井伯昌氏が「朝の決勝になったらどうなるのか、と想像はさせるようにしています」と早くから言ってきたのも、その難しさを知るからだ。

 午前決勝となったのは今回が初めてではない。2008年の北京五輪でも同様の時間帯だったが、選手は通常と違う調整法が必要とされた。

 大会直前に行なった合宿では、早朝に起床して午前5時におかゆを摂り、それから練習。8時で終了し、もう一度食事――というサイクルを作って対応にあたった。また、おかゆの時間の前に十数分の散歩をして体を起こす一助とする選手がいるなど、それぞれが工夫を凝らした。

1つの種目が3日間開催になる。

 それでも大会開幕まで、不安は決して拭えなかった。例えば松田丈志を指導していた久世由美子コーチは、朝早くから練習する分だけ「試合の時間帯に眠くならないように気をつけなければいけません」と神経をとがらせていた。

 北京五輪での開催時間には、日本だけでなく競泳大国のオーストラリアや欧州各国でも反対意見が出ていた。大会後、選手から「やっぱり嫌でした」という声が上がったからも、調整の難しさがうかがえる。

 競泳に限った話ではない。平昌五輪ではフィギュアスケートが異例のスケジュールとなった。いつも以上に失敗が目立つ選手もおり、競技の時間帯を苦しんだ理由に挙げる選手もいた。

 現在、日本代表には北京五輪を経験したコーチがいるため、当時の取り組みが蓄積されている。そういう意味では、北京五輪よりは対応するノウハウがある。それでも気になるのは、午前決勝になることで、1つの種目が3日間にまたがるケースが続出する点だ。

池江らマルチスイマーに負担が。

 競泳は予選と決勝の2本のレースで済む種目もあるが、多くは予選、準決勝、決勝と3本のレースがある。その種目は1日目午前と午後にそれぞれ予選と準決勝、翌日午後に決勝と進むのが通例だ。

 しかし午前決勝だとそうはいかない。1日目午後に予選、2日目午前に準決勝、3日目午前に決勝となる競技もある。影響が懸念されるのは、数多くの種目に出場する選手だ。1種目が3日間にまたがる上で複数種目を泳ぐことは、いつも以上の負担を強いられる。平井氏も「(複数の種目は)大変だと思います」と語っている。

 そして現在の日本代表には、多種目で勝負できるマルチスイマーがいる。その筆頭は池江璃花子である。パンパシフィック選手権やアジア大会での活躍が象徴するように、池江は年を経て順調に階段を上ってきている。複数の個人種目はもちろん、リレー種目でも主軸として期待される選手だ。

 だからこそ、パフォーマンスへの影響が心配される。

朝が苦手だという池江は……。

 池江自身は「朝だと眠さがあり、苦手です」と言いつつも、こう語っている。

「泳ぐときは忘れていると思います。みんな同じ条件ですし、自信を持つことができるよう、練習したいです」

 これまでの足取りを考えれば、新たな壁も乗り越える――そんな期待を抱かせる。また池江の言うように、日本勢のみならず、出場する全選手にとって平等なコンディションではある。

 とはいえ、午前決勝は選手やコーチが神経をとがらせる状況をわざわざ作る仕組みである。スケジュールが明らかとなった今、あらためてその不合理さを感じるとともに、その中でも最大限の力を出せるよう、願わずにはいられない。

文=松原孝臣

photograph by Kyodo News


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