大坂なおみ、100点満点の凱旋勝利。鬼門の「優勝直後」を悠々と突破。

大坂なおみ、100点満点の凱旋勝利。鬼門の「優勝直後」を悠々と突破。

 優勝した次の大会が難しいというのはテニス界の定説だ。特に四大大会は調子のピークをそこに合わせるため、次の大会まで心身のコンディションを維持するのは簡単ではない。

 過去1年間に四大大会で優勝した女子選手について、次に出場した大会の成績を調べてみた。

 2017年全米優勝のスローン・スティーブンスは次の中国・武漢で1回戦敗退。今年の全豪で優勝したキャロライン・ウォズニアッキはサンクトペテルブルクでベスト8。全仏優勝のシモナ・ハレプはウィンブルドン3回戦敗退。さらにウィンブルドン優勝のアンゲリク・ケルバーはモントリオールで初戦の2回戦敗退――どれも不本意な成績だ。

 スティーブンスに至っては、その後、翌'18年の全豪までシングルスは全敗だった。

 もちろん気を抜くわけではないが、歓喜を味わい、祝福を浴び、メディアやファンに追われ、スポンサーにかかわる仕事をいくつもこなせば、選手は心身の平衡を保つのが難しい。

 そもそも7戦を戦った心身のリカバリーには相当の日数を要する。技術的にも、2週間ショットの好感触を味わったあとだけに、小さな違和感でもあればそれが重大な異変に思われ、調子を狂わす選手もいるだろう。

無責任なメディアやファンの攻勢。

 最も手強い敵は、期待の重さか。グランドスラムで勝ったのだから、もう、どの相手にも勝てるだろうと見る人は多い。無責任に期待するメディアやファンの攻勢をどうかわすかは、特に日本選手初の四大大会制覇という看板を背負った大坂には重い課題と見られた。

 東レPPOの会場となったアリーナ立川立飛は異様な雰囲気だった。全米女王をひと目見ようと集まったファンは、文字通り固唾をのんでコートの大坂とドミニカ・チブルコバを見つめた。

 テニス観戦に慣れていない方も多かったのだろう、女王のオーラに気圧されたのか、あるいはテニス観戦独特の堅苦しさに戸惑ったのか、観客は息をひそめてコートを見つめる。カメラのフラッシュが自動発光するのを注意するアナウンスが繰り返され、観戦慣れしていないファンはさらに縮こまった。

大坂が覚えた、相手にミスを強いるプレー。

 つばを飲み込む音さえ聞こえそうなアリーナで、大坂は四大大会女王になって初めての試合に臨むことになった。

 ところが、大坂はまるで試合形式の練習のように、すっと試合に入り込んでいった。冒頭の相手のサービスゲームをあっさりブレークし、一気に4−0と引き離した。一幕物の一人芝居。所要時間59分のストレート勝ちだった。

 エースは10本、第1セット5−2からのサービスゲームで3連続エースを決めるなど、大事なところでの一撃が目立った。

「サーブがうまくいった。不利になりそうな場面でサーブが救ってくれた」。大坂は何ごともなかったかのようにプレーを振り返った。

 チブルコバは昨年3月に世界ランキング4位をマークした実力者だが、大坂のショットに押され、「あわてる形になってしまった」とミスを連発。「打ち負かされたというより、自分のミスが多かった」と悔しがった。

 だが、まさにその点に対戦相手の成長があったのだ。チブルコバは「2年前の対戦ではもっとミスが多かったが、今日は我慢のプレーをしていた」と大坂を評した。今の大坂は力任せのプレーをする選手ではない。クリーンなウィナーも少なくないが、質の高いショットで相手にミスを強いることを覚え、ひと皮むけた。

 確かにラリーで圧倒したが、チブルコバの言うように、打ち負かそうというのではなく、今の大坂らしい、クレバーな、無理をしないプレーが得点源となった。

ざっくりした質問への100点満点の答え。

 経験豊富なウォズニアッキやケルバーでさえうまくコントロールできなかった“次の大会”の初戦を、こんなにあっさりとクリアしてしまうのだから恐れ入る。

 大坂は試合後の記者会見で採点を求められると「80%くらい。自分の限界がどこにあるのかまだ分からないので、今日は100%だとは言えない」と答えた。ざっくりとした質問に対する100点満点の応答だった。

 攻める気持ちが強かったのか、と問われると「そういうわけではなかった」と素っ気なかった。今やろうとしているプレーを当たり前のように披露して、当たり前のように勝った、そういう試合だった。

「ビジネス」をこなした凱旋勝利。

 全米で優勝した直後の大会でたくさんの観客が詰めかけたが、と聞かれるとこう答えた。

「プレッシャーは感じなかった。どちらかと言えばエキサイティングだった。たくさんのお客さんがきてくれて感謝の気持ちがあり、応援がうれしかった」

 どの言葉からも、完璧なマインドセットで初戦に臨んだことが見てとれる。全米のタイトルが自信になったのは当然として、精神面での準備の大切さを理解し、実践しているのだ。20歳の選手がまた1つ大きな武器を得たと言ってもいい。

 大坂のサービスエースとダウン・ザ・ラインに突き刺すストロークは観客のため息を誘った。東レPPOでは以前、選手を応援するファンの思いが、そのミスを悔しがるため息の大合唱となり、当の選手を怒らせたことがあったが、もちろん、この試合でファンが漏らしたのは、大坂のショットが誘う驚きのため息だった。

 ファンの目には、強烈なサービスエースやグラウンドストロークの美しい弾道が焼き付けられただろう。祖父母が暮らす日本のファンを喜ばせるという意味でも、大坂はいい仕事をした。彼女のいうところの「ビジネス」を完璧にこなした凱旋勝利だった。

文=秋山英宏

photograph by AFLO


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索