いま、梅崎司が大きく見える理由。「湘南で新たな野心が芽生えている」

いま、梅崎司が大きく見える理由。「湘南で新たな野心が芽生えている」

「あのちっちゃい身体が3倍ぐらいおっきく見えたんです」

 サッカー専門誌の記者だった頃、僕は梅崎司の母を取材する機会に恵まれた。今から10年以上前の話だ。Jリーガーのルーツを探るべく彼の故郷・長崎県諫早市を訪ねると、庭子さんは息子がサッカーに打ち込み始めた少年時代のことを、それは嬉しそうに話してくれた。梅崎がフランス・グルノーブルへの短い旅を終え、ペリクレス・シャムスカ監督が束ねる大分トリニータへ帰還した頃だった。

 母も認める小兵アタッカーはその前年の2006年に下部組織から過ごす大分で定位置をつかみ、イビチャ・オシム監督の率いる日本代表に招集され、クラブ史上初の代表選手になった。鋭いドリブルで果敢に勝負を挑む姿は、たしかに実際のサイズ(169cm・68kg)よりもずいぶん大きく見えた。

 その後の2007年12月に、梅崎は浦和レッズへ移籍。前年にJ1で初優勝し、翌年にACLを制した日本とアジアを代表するチームへの加入は、一流の仲間入りを果たしたことの証と言えた。

浦和で抱えていたもどかしさ。

 だがそこでは、「ずっともどかしさがあった」と本人は語る。大分ではエースとして攻撃を牽引していたが、浦和ではなかなか定位置をつかめなかった。大小様々な負傷を乗り越えて復帰すると、今度は本来のポジションではないウイングバックが主戦場に。それでも監督の要求にきちんと応えてはいたが、どこか晴れない表情をしていたことが多かったような気もする。

「(攻撃的なポジションで)出られなかったのは、自分の力不足といえばそれまで。でもチーム状況や役割など、色々なことを考えてバランスを取っていた」と梅崎は言う。

「自分の特長ではない役割をやっていた感覚があって。もちろん、それも自分の成長につながったけど、本心はもっとアグレッシブにプレーしたかった」

「やったことのない負荷」の練習。

 そんな想いを抱きながらも、浦和には10年間在籍。このオフには契約延長のオファーも提示された。でもこの状況が続いていけば、「そのままフェードアウトしていくような気がして。選手として、大きく変われることはもうないだろうな」と考えた。

 そんな矢先に、湘南ベルマーレからオファーが届いたのだった。

「チョウさんと話した時に、自分の胸の内をすべて言い当てられたんです。お前の良さはこうで、本当はもっとこうプレーしたいんじゃないか。もっと上に行けるはずだし、もっとのびのびプレーさせてあげたい。そんな風に言われて、心は決まりました」

 新天地でのデビューシーズンは昨季に負った怪我のリハビリから始まった。復帰して全体練習に入ると、最初は「やったことのない負荷」に面食らったが、自分がこの厳しい練習を求めていたことを確認する。

「想像通りのきついトレーニングだったけど、ポジティブに捉えていました。これでまたフィジカルが戻ってくるだろうな、と。それに心もすごくリフレッシュされている感覚があって。自分の狙い通りというか、本当に来てよかったです」

チョウ監督も認める“梅崎効果”。

 かくして31歳の心身はいま一度鍛えられ、その効果が数字にも現れ始めている。8月31日のV・ファーレン長崎戦で今季のリーグ初得点を挙げると、5日後のルヴァンカップ準々決勝のセレッソ大阪戦と、9月14日の鹿島アントラーズとのJ1第26節でもゴールを決めた。先週末(9月22日)のC大阪とのリーグ戦では得点こそなかったものの、際どいミドルを放ったり、ボール回しの中心でゲームをつくったりして、若いチームを引っ張った。

 腕章を巻いた1年目の背番号7は、すでに湘南のリーダーのひとりだ。

「うちみたいな若いチームにとって、30(歳)過ぎの選手が基準を上げるようなプレーを見せてくれるのは、すごく大きい」とチョウ・キジェ監督は梅崎について語る。「今日(のC大阪戦)も12キロ近く走って、非常に献身的にやってくれている。若いヤツらには学んでもらいたい。いいテンションが生まれているよ」

もともとサッカー小僧だから。

 湘南に吹く爽快な風が梅崎を刺激し、シャープなベテランに多くの若手が触発される。現在のベルマーレには、そんな相互作用が見て取れる。梅崎が期待する若手は多いが、特に注目しているのは「齊藤(未月)、石原(広教)、杉岡(大暉)、金子(大毅)の同世代(19、20歳)の4人」。自身が唯一の代表キャップを刻んだ19歳の頃と、重なっているのかもしれない。

「元々、あいつはサッカー小僧。ここに来て、それがもう一度呼び覚まされているんだと思うよ」と指揮官は言う。

 九州で生まれ育ったサッカー少年は、浦和で大人のフットボーラーになった。大観衆のなかでプレーし、高い収入を得て、小学校の卒業文集に書いた夢──母に家を買うこと──も叶えた。ただそこには抑えていたものもあった。その攻撃性がいま再び、湘南で解き放たれている。

「生き生きとしている姿を」

 おそらくその姿を最も喜んでいるのは、母の庭子さんだ。

「おかんも、いまが一番楽しそうですよ。よく試合にも来てくれます。(卒業文集に書いた)夢を達成できたのはもちろん嬉しいですけど、やっぱり一番は生き生きしている姿を見せること。それが何よりの親孝行じゃないですかね」

 あらためて数字にこだわり始めた31歳の攻撃者は、目標を掲げている。シーズン2桁得点、1部残留、そしてルヴァンカップ優勝。どれも簡単ではないが、厳しい挑戦こそ彼の望むところだ。

「湘南でまた、新たな野心が芽生えているんです。そういう熱が湧き上がっているのは、自分でもすごく気持ちいい。もっともっと、感情を燃やしていきたい」

 チョウ監督が標榜する「感動劇場」で第二、第三の春を謳歌する梅崎司。その姿は間違いなく、これまでで一番大きく見える。

文=井川洋一

photograph by Yoichi Igawa


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