風間監督が称えた川崎の「自信」。名古屋を叩きのめした2つの凄み。

風間監督が称えた川崎の「自信」。名古屋を叩きのめした2つの凄み。

 懐かしい。「フリーの定義」といった独特のフレーズも、「今言ったとおりです」と記者の質問をばっさり斬る感じも、禅問答のようなやり取りも、何もかもが懐かしい。

 いや、この1年半の間に風間八宏監督の記者会見には何度も出席しているし、インタビューをさせてもらったこともあるから、“風間節”に触れるのが久しぶりだったわけではない。

 だが、やはりこのスタジアムの会見場で聞くのは、格別なものがある。

 9月22日に行われたJ1リーグ第27節の川崎フロンターレ対名古屋グランパス戦。'12年から'16年まで川崎の監督を務め、'17年から名古屋を率いる風間監督がかつてのホーム、等々力陸上競技場で指揮を執るのは退任して以来、初めてのことだった。

 ドライな人だから、風間監督に特別な感情はなかったかもしれないが、川崎側に期するものがあったのは確かだろう。「名古屋という相手に対して、選手たちは気持ちが非常に入っていたと思います」と鬼木達監督が振り返ったように、立ち上がりから名古屋の選手たちに襲いかかっていく。

「川崎は自信を持ってサッカーを」

 20分にオウンゴールで先制した川崎は、34分に阿部浩之の目の覚めるようなミドルシュートで追加点を奪う。59分には前田直輝にゴールを許したが、63分に小林悠のゴールで突き放す。

 最終スコアは3−1。「相手にビビっていたところがあった」(玉田圭司)、「特に前半は自分たちのサッカーができなかった」(金井貢史)と名古屋の選手たちも認めたように、川崎の完勝だった。

「川崎は自信を持ってボールを持って、サッカーをやっている。そこはうちの選手たちも見習うべきだと思います」

 川崎の印象について問われた風間監督はそう答えたが、それは、かつて風間監督に「もっと自信を持ってプレーしないといけない」と苦言を呈され続けた川崎の選手たちにとって、最大級の賛辞と言えるだろう。

「ボールを止める」こだわり。

 なぜ、川崎は自信を持ってプレーできるのか――。

 その疑問の答えを探っていくと、以下のふたつに集約できるかもしれない。

・自分たちの技術に対する絶対的な自信
・味方が必ずサポートしてくれているという安心感

 名古屋戦でも川崎のリズミカルなパスワークが光ったが、ボールがテンポ良く回るのは、無駄なく一発でボールをコントロールし、素早く正確に味方の足下に届けられるからだろう。似た志向のチーム同士の対戦だからこそ、川崎のプレーの正確さがより一層浮かび上がった。

 なかでも際立っているのが、「ボールを止める」ことへの並々ならぬこだわりだ。

強めのパスを涼しい顔でトラップ。

 例えば、試合前のウォーミングアップの際、パス交換をしながらボールや芝生の感触を確かめるのは、どのチームでも行なわれる普通の光景だ。

 川崎も例外ではなく、この日もセンターサークル付近で中村憲剛、小林、谷口彰悟の3人がボールを回していたが、3人は必ずワンタッチでボールの勢いを完全に殺し、次の動作でパスを出していた。そこに無駄な動作は一切ない。

 3人はトライアングルを築いているから、正面から来たボールを目の前に止めてしまうと、次のパスをスムーズに出せない。だから、やや右斜め前方にトラップするのだが、それでもボールをピタッと止める。

 それだけではない。「悠、これはどうだ」と言わんばかりに中村が強めのパスを出しても、小林は涼しい顔をして完璧にトラップする。こうしたことを毎試合のように行なっているのだ。

 このレベルまで技術を磨いたうえで、試合ではパスを出したあとに必ず動いて味方のパスコースを作る。ボールホルダーからすれば、相手に囲まれてもパスの逃げ場は必ず確保されているという安心感によって、「ボールは絶対に失わない」という自信がさらに膨らむというわけだ。

「似ているようで……」(憲剛)

 もっとも、川崎が優れているのはボールを扱う技術だけではない。

「(川崎と名古屋は)似ているようで似ていないところがかなりある」

 試合後の中村の言葉である。たしかに名古屋は身長192センチのジョーが前線にいるから川崎よりもロングボールを多用する傾向がある。

 しかし、似ていないのは、そうした表面的なことだけではない。

「この1年半の間に身に付けたもので差を見せたかった」と中村は力を込めた。この1年半とはすなわち、“風間後”のことであり、身に付けたものとは、攻守の切り替えの速さ、アプローチの速さ、球際での厳しさといった“ボールを回収する力”のことだ。

 この試合で名古屋のコントロールタワーであるエドゥアルド・ネットは何度もピッチに倒れたが、このボランチを潰したのは、ほかでもない中村だった。

 ただし、川崎が敵陣で相手を素早く囲み、ボールを奪い取れるのも、それだけ相手を押し込んで陣形を破壊しているからこそ。しかも中村は「敵陣でボールをゆっくり回しながら、意図的に休む時間を作っていた」とまで言う。

 だからこそ、川崎はゲーゲンプレッシングを敢行することができるのだ。

相手の長所を全部消したかった。

 首位のサンフレッチェ広島が引き分けに終わったことで、2位の川崎との勝点差は4に縮まり、ついに広島の背中が見えてきた。しかし、気の緩みは一切ない。

「欲を言えば4点目、5点目を取りたかった」と中村が反省すれば、大島僚太は完封勝利を逃したことを悔やんだ。

「失点の場面で、相手のサイドバックの選手(金井)が中に入ってくることは分かっていたのに見切れなかったのは、自分自身に対して納得いかない。あそこを防いでこそフロンターレとやりたくないと思わせることに繋がると思うので、ジョーもストロングかもしれないですけど、それ以外のストロングも全部消したかったというのが本音です」

コテンパンに叩いて芽を摘め。

 彼らの言葉から感じ取れるのは、完膚なきまでに叩きのめしたかった、という強い意志だ。

 名古屋が厄介な存在になる前に、コテンパンに叩いてその芽を摘んでしまえ、とでもいうような――。

 似たスタイルを志向する名古屋にとっては、良い勉強になったはずだ。しかし、“レクチャー”などという生ぬるい言葉ではなく、“鉄槌”と言えるほど厳しいものだった。

 試合中のピッチの上、試合後のミックスゾーン、そこかしこにJ1王者のプライドと凄みが感じられた一戦だった。

文=飯尾篤史

photograph by J.LEAGUE


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