馬術の世界選手権でメダルに肉薄!「日本もいるぞと存在感を示せた」

馬術の世界選手権でメダルに肉薄!「日本もいるぞと存在感を示せた」

 アジア競技大会が終わり、いよいよ2年後の東京オリンピックが具体的に視野に入ってきた。馬術競技はアジア大会直後に世界選手権大会が行われ、各種目の上位6カ国が東京オリンピックの団体出場枠を獲得した。

 この大会は4年に1度、オリンピックの中間年に開催され、オリンピック種目だけではなく、あらゆる馬術競技が行われる世界最大規模の大会だ。

 ドイツ、フランス、イギリスなど世界の強豪が集結するこの舞台で、完全にノーマークだった日本が存在感を示した。

 指揮官は細野茂之。日本馬術連盟の総合馬術本部長であり、大会時には監督を務める。自身も選手として2度オリンピックに出場した。2006年のドーハアジア大会を最後に、国際大会からは引退したが、総合馬術にかける思いは強い。

 2020年に向けた総合馬術のマイルストーンは明確だ。「アジア大会で金メダル、世界選手権で入賞、東京でメダル」である。

 アジア大会の金メダルは現実的な目標だった。日本は過去の大会で、金メダルと銀メダルを交互に獲得しており、その順番でいくと今年は“金メダルの年”でもあった。

 アジア大会ではインド、タイと並んで優勝候補の一角であり、「金以外はあり得ない」という強い気持ちで臨んでいた。チーム構成は、オリンピック経験選手3人と初代表の1人、合わせて4人。

 開催地のジャカルタは気温と湿度が高く、競技環境は厳しい。日本の猛暑よりマシとはいえ、日本代表4人のうち、2人は日本、2人はヨーロッパをベースにしている。日本組は高温多湿の環境を経験しているが、ヨーロッパ組の2頭は初体験。しかし獣医師、グルーム(馬のケアをするプロフェッショナル)、コーチ、トレーナーらすべてのスタッフが力を合わせて馬をケアし、コンディションを整えた。

3つの種目のトータルで争う総合馬術。

 総合馬術は、3日間をかけて同じ人馬のコンビで戦い抜くトライアスロンのような競技だ。馬場馬術競技、クロスカントリー競技、障害馬術競技の3種目のトータルで順位が決まる。

 アジア大会の競技レベルは、国際競技の中では最も低いワンスターだが、だからと言って簡単に勝てるわけではない。少しでも気を抜けばミスにつながる。

 初日の馬場馬術で、日本はまずトップに立った。クロスカントリーはタイムの設定が厳しいと思われたが、結果的に4人馬ともが決められたタイム内にゴールした。そして最終日も安定した走行で2位との差を広げ、危なげなく優勝。個人競技でも、チームのキャプテン、大岩義明が逆転優勝を決めた。

 日本はアジア大会総合馬術競技で、団体と個人の2つの金メダルを獲得。細野監督は「有言実行できてホッとしました」と胸をなでおろした。

日本の最強メンバーが揃った。

 そして息つく暇もなく、世界選手権へ。こちらは最高レベルのフォースターで行われるため、アジア大会と同じ人馬コンビで出場することはできないが、2選手が馬を替えて両大会に出場した。

 アジア大会を終えて拠点のヨーロッパに戻り、世界選手権でコンビを組む馬の調整を行なって、すぐに会場であるアメリカ・ノースカロライナ州のトライオンに飛んだ。この間、2週間。

 世界選手権は1990年にスタートした大会で、今回が8回目。過去に、日本が団体を組んで順位がついたのは8年前のケンタッキー(アメリカ)大会の9位のみだった。当然、ノーマーク。

 チームメンバーは大岩義明、北島隆三、田中利幸、戸本一真の4人。大岩は直近3回のオリンピックに出場しており、過去3回のアジア大会で獲得した金メダルは4個。2001年にヨーロッパで活動をスタートして現在の拠点はドイツ、近年は国際大会での優勝も珍しくなくなった日本のキャプテンだ。

 北島はリオデジャネイロ、田中はロンドンオリンピックに出場しており、ともにイギリスに拠点を置いている。戸本は3年前に日本からイギリスに拠点を移し、本格的に総合馬術に参戦している。今の日本の最強メンバーだが、強豪国を相手に日本はあくまでも挑戦者だった。

何度もコースを歩き、イメージを作る。

 最初の種目、馬場馬術競技で日本は16カ国中10位につけた。団体の成績は、チーム内で上位3人馬の成績をカウントする。10位は日本にとって、特別良くも悪くもない、そんなポジションだった。

 2つ目の種目であるクロスカントリー競技は、全長5700mのコース上に30を超えるボリューム満点の障害物が選手を待っている。ミスなく少ないタイムオーバーでゴールするため、選手は何度も自分の足でコースを歩き、イメージをつくり上げていった。

 団体戦においては、チーム内の出場順がカギになる。1人目は戸本。「1人目と言われたときには、そういうことなんだな、と思いました」。

“切り込み隊長”としてコースを走り、その感覚や注意点などを後続の仲間に伝える役割だ。トレーナーからは「誰もタイムインなんて期待していないから、思い切ってやってこい」と言われた。ところがその戸本がノーミス、インタイムでゴール。チームに良い流れを引き寄せた。

4位に浮上して出た「メダル」という言葉。

 2人目は北島。攻めの姿勢で走行していたが、コース後半にアクシデントが起きた。馬が障害物に肢をぶつけて、障害物についている安全装置が作動したことで減点を負った。

 さらに、馬とのコンタクトに欠かせない手綱が切れてしまった。とっさに切れた手綱をつかんだが、次の障害物へのアプローチに間に合わず、遠回りのルートを選択せざるを得なくなって、かなりタイムをロスした。

 3人目はいつもひょうひょうとしているイメージの田中。穏やかな表情でクロスカントリーを走行していたが、終わってみればわずか2秒のタイムオーバー。

 そして4人目はキャプテン、大岩。ザ・デュークオブカヴァンという馬で出場することになっていたが、現地に入ってから馬の調子が悪く、急遽ドイツからもう1頭のキャレを輸送して本番にギリギリ間に合った。

 キャレは少し怖がりな馬で大岩は何かあっても対応できる準備をしていたが、実際にはキャレは自信に満ちた走りをして、15秒のタイムオーバーでゴールした。

 上位国にミスが出る一方で日本は確実な走行で減点を抑え、クロスカントリー終了時点で4位に浮上。俄然、士気が上がった。

 細野や大岩の口から「メダルを狙う」という言葉が出た。「これまで、世界選手権でメダルなんて言ったら、日本が何を言ってるんだ?という感じだったけれど、今なら言ってもいいと思う」と大岩。日本が初めて、現実的にメダルを意識することができた日だった。

世界の強豪国の間に割って入った日本。

 今大会は、ハリケーン・フローレンスがノースカロライナを直撃する、というニュースが流れていたまさにその時、その場所で行われていた。その影響で最終種目の障害馬術競技は1日延期された。

 暫定4位の日本と、3位のフランスとの減点差は9.10。これは、障害馬術競技でバーの落下が3回あると逆転する差である。日本ができることは減点0でゴールすることで、北島はノーミス、田中はタイムオーバーの減点1、大岩はバーを1つ落として減点4、戸本は2つ落として減点8。最終的に日本のトータル減点は113.90。

 上位国にもミスは出たが、順位は変わらなかった。1位はイギリス、2位はアイルランド、3位はフランス。いずれも選手層の厚い、常に国際大会で活躍している国である。5位はドイツ、6位はオーストラリア。強豪国の間に日本が割って入った。

 世界選手権で4位。一般的に見れば何とも微妙な順位だ。しかし、東京オリンピックに向けたマイルストーンの2つ目を、日本の総合馬術チームは確実にクリアした。しかも、メダルに限りなく近い4位で。

「日本もいるぞっていう存在感を示せた」

 常に世界のトップライダーと戦っている大岩は、知り合いも多い。みんなが彼に「おめでとう」「日本はすごかったね」と声をかけた。

「日本もいるぞっていう存在感を示せた。東京に向けて良い流れをつくれたと思う」と大岩。

 細野も手応えを隠さない。

「東京オリンピックでメダルを目指すと言っても、今までは根拠がなかったけれど、胸を張ってそれを言えるところまで来ていることが実証された、価値のある大会だったと思います。

 選手たちはヨーロッパを拠点にして、たえずオリンピックや世界選手権で上位にくる選手やチームと戦っています。クロスカントリーもトップ選手と遜色ない走りができるようになるなど、経験を積んで実力をつけてきたことで、このような舞台でも臆することなく、力を発揮することができました。あと2年。ここまで有言実行できているので、次は満を持して表彰台を狙います」

 世界選手権の上位6カ国は、オリンピックの団体出場枠を獲得する。日本は開催国枠を与えられているので今大会での獲得はなかったが、実力でも出場枠を手に入れていたことになる。

 過去、日本が団体枠を獲得したのは、地域予選を勝ち抜いた時のみ。世界選手権での団体枠獲得は、目標ではなく夢だった。その夢が現実のものとなった今、「オリンピックでメダル」という何十年にもわたる夢が“本気の目標”となった。

文=北野あづさ

photograph by Azusa Kitano


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