高梨沙羅、平野歩夢とSNOW JAPAN。スキー&スノボを認知させるために。

高梨沙羅、平野歩夢とSNOW JAPAN。スキー&スノボを認知させるために。

 私は17歳でプロになり、37歳で現役を引退するまでの約20年間、ワールドカップなどの海外ツアーやプロとして多くのレースに出場してきました。

 プロ選手として生活を成り立たせるためには(賞金のかかった)レースに出場することは重要でしたが、一方でアマチュアの団体である(スキー)連盟にとって、そして日本人にとって、五輪は絶対的な存在であり、もちろん私もどちらも大切なものだと捉えていました。実際、全日本スキー連盟(以下SAJ)に登録しながら強化活動、世界を転戦してきました。

 ただ、現役時代には体制や支援に不具合を感じ、よく連盟とぶつかっていました。だからこそ、引退後のキャリアでは連盟を改革したいと考えていたんです。

 とはいえ、そういった理想を持ち、「経営強化をする」といったところで対価が保証されているわけではありません。また引退したとき、自分自身に体力がなければ、他人を動かしたり、大きな組織を改革することは不可能だと考えていました。

プロとして転戦しつつビジネスを。

 そこで自分自身が確固たるエンジンを保持すべく、22、23歳から、プロスキー選手として世界を転戦すると同時に、ビジネスを始めるようになったのです。

 引退する頃には立ち上げた会社も多少軌道に乗り、結果として、SAJに関することに時間を使えるようになった背景があるのです。

 現在は競技本部長というポジションに就いていますが、もともと、連盟の経営や再建の分野に興味がありました。ただ、まだ私には何の実績もない。(連盟の)理事になる前に堤義明さんから、「ある程度の実績を残さなければ認められない。成功事例を作りなさい」というアドバイスを受け、引退後、アルペンスキーの興行(ワールドカップ)を日本に誘致することに取り組みました。事業規模3億8000万円くらいの案件です。

 その成功をきっかけに、2015年には理事に、その翌年には常務理事に。2年半前ころからはSAJのマーケティングにも関わることになったのです。

通年、1日毎など様々な雇用形態。

 この1年はドラスティックに何かを変える必要はないと考え、ガバナンス的なものや人事評価サラリーや競技本部の支出と収入のバランスを俯瞰し観察していました。平昌五輪が終わった4月からは、組織形態からの抜本的な見直しをしてきました。

 では実際にどんな変革を行ってきたのか。

 私たちの競技は冬のみ稼働する“季節商売”ともいえます。その中で働く方々の形態は通年や1日毎と様々な形態があるのです。“選手ファースト”で環境を良くしようとしても、まずスタッフの雇用が安定しなければ、選手への影響は必至です。

 まず足元の整備が必要だと考え、サラリーキャップを見直しました。各ポジションに就く方の役割を見極めることも、私の重要な役割の1つでした。平昌五輪以前からミーティングやヒヤリングを重ねてきたこともあり、大きなハレーションは発生していませんが、もちろん、現状まったく反発がないわけではないと思います。ただ、物事を正常化することが最も重要だと考えていて、多少(の反発)は致し方ないと考えていました。

 また、現場に関しても、強化費が足りないと言っているのに、各競技が感覚で実行することで無駄な経費がかかり、選手に強化費を回せずに、選手たちに良い環境を提供できなかった。現場を把握しない人たちが意思決定する事も少なくなかったと思います。現場の意見と世界情勢に対応できる組織構図ではありませんでした。

スキー・スノボ人口は800万人だが。

 現在、日本には800万人程度のスキー・スノーボード人口がいると言われていますが、そのうちスキー連盟に加入している会員数は100分の1の8万人、収入は11億円程度(2017年度)に留まっています。国内の人口減少も影響しているとはいえ、他の競技団体と比べると数字上の話では決して胸を張れるものではありません。

 それでも、ギリギリながらも困っていなかったがゆえに、これまでは具体的に数字を伸ばす策を講じたり、危機感を抱いていませんでした。今後2030年までに海外の方も含め、会員数100万人、収入100億円を目指す「SAJ 100プロジェクト」を掲げています。

 以前は地方巡業を行うと、「SAJって本当にダメだよね」という声をよく聞き、何か不具合があると「SAJがちゃんとしないからだ」という会話がよく聞こえてきました。

高梨、平野、渡部が同じ団体。

 信用を得るためには情報をすべて開示するのは当然ですし、ガバナンスの見直し、何を目的とし、収益が増えた場合はどれだけ還元をしていくのかを明確にする。風通しをよくしたことで、「SAJも中身が見えるようになってきたね」と言われるような透明性のある組織になりつつあると思いますし、今後も改革は進めていかなければなりません。

 また、選手と連盟の関係性も変化しつつあります。私自身も苦労した点ですが、以前は選手たちが持っているスポンサー枠に対し、無条件で数%連盟に入る仕組みになっていました。SAJのオフィシャルスポンサーと競合する場合は整理するなど、その仕組み自体を廃止するなど規約改正も実施。選手と連盟の関係性も良くなってきています。

 真新しいところでいえば、選手たちを表彰するアワードを設けたことでしょうか。SAJはアルペンやジャンプ、クロスカントリー、スノーボードなど4ディビジョン14種目を統括しています。高梨沙羅選手(スキージャンプ)も平野歩夢選手(スノーボード)も渡部暁斗選手(コンバインド)も、以前は同じ団体に所属していることをあまり知られていなかった。

SNOW JAPANとSNOW AWARD。

 そこでブランディングの1つとして、代表チームの名称を「SNOW JAPAN」と命名し、一昨季から世界で活躍した選手を表彰する「SNOW AWARD」開催を実施。後者には世界トップ8に入って世界では評価されていても、日本ではマイナー選手という現状を払拭したい、という意図が込められています。

 さらに、表彰式を開催することで選手たちのモチベーションも上がり、そのシーズン、どの選手が何の種目でどういった活躍を見せたのか一目瞭然となる。スポンサーやメーカーの方々に、自分たちが支援している選手に本当に価値があることを、そして支援が意味のあるものだと実感していただける、非常に意味のあるものになっていると思います。

(構成・石井宏美/Number編集部)

文=皆川賢太郎

photograph by 2018 HEIDI Co. , Ltd.


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