鳥取・須藤大輔監督が貫く「俺流」。初の師弟対決と終わらぬ“感想戦”。

鳥取・須藤大輔監督が貫く「俺流」。初の師弟対決と終わらぬ“感想戦”。

 J3降格から5年目の今シーズン、ガイナーレ鳥取は開幕から6戦負けなしと好スタートを切った。その後3連敗はあったものの、J2昇格圏である2位との勝ち点差はわずかに2。

 昇格が充分狙える位置にいながらにして、まだシーズンの3分の1が終わったばかりの6月初旬、監督交代に踏み切った。

 しかも新監督に指名されたのが、現役生活の大半をJ2でプレーして、日本代表の経験もない、引退後の指導歴も山梨学院大学サッカー部のコーチを4年間務めただけで、プロチームを指揮するのは初めての新米監督だったから、驚きは二重だった。

 誰よりも驚いたのはオファーを受けた須藤大輔その人だったかもしれない。湘南ベルマーレ在籍時にチームメイトだった吉野智行強化育成部長からオファーを聞き、返答までの時間の猶予は1週間ちょっと。それでも、躊躇はなかったという。

「周囲の人からは、めちゃくちゃ難しい仕事になるぞって。監督経験のある先輩たちからは、よくオファー受けたなって。みんなに言われました。でも、実績のある人なら断ってもおかしくないこういったタイミングじゃなければ、きっと僕のような人間には声が掛からないんじゃないか。

 引退後ずっと夢見ていたJリーグの監督に向かって歩みを進めたかったなか、ここを逃したらチャンスはないと感じたので。自分のなかでは即決でした」

及第点ではダメ、明確な結果が必要。

 これがたとえば、成績が低迷して前任者が完全に求心力を失ったような状態のチームを立て直すのであれば、多少の成果をあげるだけでも認めてもらえるのかもしれない。

 けれど、前シーズンの最下位から反転、相応の積み重ねが見られたチームをさらに引き上げるのが、後任者に課せられたミッションなのだ。及第点ではダメ。明らかな結果を残さなければ、納得してはもらえない。

「たしかに難しかったですね。今までこのチームが培ってきた哲学がありますから。それを上手く引き出しながら、ちょっとずつ、ちょっとずつ自分の色を出したかったんですけど。

 最初はなかなか自分の色が出せずに、試合も勝ったり勝てなかったりでした。でも、J3には8月に約1カ月の中断期間があったんです。ここでまとまったトレーニングの時間がとれたのは大きかった。

 もともとこのチームには攻撃力、カウンターには鋭いモノがありました。それを最大限に活かしながら、相手がブロックを組んできたときに、どう崩すのか。どうやって敵陣までボールを運んでいくのか。守備も引いて守るのではなく、まずは前から行くことに取り組んできました。そこが自分の一番やりたかった部分なので。いまのところ中断明けは負けなし(2勝3分)ですけど、取り組んできたことが結果につながっているのならうれしいですね」

昔からの教え子は「見ての通り、熱い人です」。

 監督就任後、中断までの6試合ではチーム合計7得点だったのが、8月の中断が明けてからは、21節のSC相模原戦で7−0と圧勝したのを筆頭に、5試合で計18得点。1試合平均3.6得点と、「日本海の暴れん坊」とでも呼びたくなるほどのゴールラッシュだ。

 9月22日、FC東京U-23をホームに迎えたゲームでも、その攻撃力は発揮された。開始4分、CB西山雄介が敵陣に攻め上がると迷いなくミドルシュート。濡れたピッチに弾んでスライス軌道に変化したボールが、相手GKの逆をつき先制点を奪う。前半終了間際にも、同じく西山が右CKを頭で合わせてリードを広げる。

 今年7月にY.S.C.C横浜から途中加入した西山は、山梨学院大出身のプロ2年目。大学1、2年生のときには、山梨学院大のセカンドチームにあたる「ペガサス」を担当していた須藤のもとでプレーしていた。

「見ての通り、熱い人です。戦術どうこう以前に、やっぱりサッカーでは気持ちの部分がすごく大事なことだと思うので。トップに位置する人に、そこの支えがあるっていうのは、僕ら選手にとっての安心感になります。

 プレーや技術の面は、選手がやることであって。(それ以外の)心の部分をコントロールしてもらっているのは、すごくありがたい。それはペガサスのときから、ずっと変わりませんね」

 後半にはJ3得点ランキングトップのFWレオナルドが、前線を組むフェルナンジーニョ、加藤潤也との好連携で2点を追加。相手の反撃を振り切り、4−2で勝利した。

「鳥取はリスクに挑戦するプレーが多い」

 じつは須藤とFC東京U-23の安間貴義監督とは、ヴァンフォーレ甲府のFWとコーチとして、2005年からの3年間、“同じ釜の飯を食った”間柄だ。

 '07年に須藤がナビスコカップ(現ルヴァンカップ)の得点王を獲得した際には「その長身なら、ちょっと身体を動かすだけで大きなフェイントになる」との、安間からのアドバイスがあったという。この試合はいわば、初めての師弟対決でもあった。

「出足でミドルシュートを選択したところからもうかがえるように、鳥取はリスクに挑戦するプレーがすごく多い。その結果リーグ上位の得点数を誇っていて、前線に得点の獲れる選手が増えてきている。彼らを活かそうと、後ろの選手がリスクにチャレンジしている結果だと思います。

 そういう状況をしっかりつくっている大輔は、やっぱり元センターフォワードだと思いますし、点を獲るところから逆算してゲームをつくっていると感じました」(安間監督)

須藤監督が過ごした10年間の現役生活。

 試合後のスタジアムの廊下では、移動のバスが出発する寸前まで将棋の感想戦のように、その日のゲーム内容と互いの采配を振り返るふたりの姿があった。

 神奈川県出身の41歳。桐光学園高の同級生に鈴木勝大(桐光学園監督)、酒井良(町田ゼルビアジュニアユースコーチ)、1年後輩には中村俊輔(ジュビロ磐田)らがいたが、3年時の高校選手権は全国大会1回戦敗退。

 進学した東海大学は前年に関東リーグ2部から降格しており、結局4年間を神奈川県リーグで過ごすことになる。当然プロからの誘いはなく、みずからセレクション受験に奔走。一時は就職して働きながらサッカーをすることも考えたが、J2昇格直後の水戸ホーリーホック入団になんとか漕ぎ着ける。

 すると2年目に、ヘディングの強さ、最前線での身体を張ったプレーを武器に10ゴールをあげて翌年湘南に移籍。その後、甲府で初めてJ1に昇格する。そこでの活躍が認められ、'08年にはヴィッセル神戸へとステップアップしていくのだが、腰痛や故障に悩まされ、満足な活躍はできなかった。

 そして'10年、33歳のときに当時東海社会人リーグだった藤枝MYFCで、10年間の現役生活を終えることになる。

得点は多いが、失点も多い鳥取。

「言い方は悪いかもしれないけど、僕のサッカー人生はすべて我流だったので。監督業もまずは自分流でやろうかなと。もちろん最初は、本当にそれでいいのか迷いもありました。だけど自分はJリーグのコーチ経験もないので、どういうのが監督像なのか、近くで見て学んだこともありません。

 俺は俺でしかないし、俺以上のことはできませんから。須藤大輔には須藤大輔しか出せないので。いまは自分の色を出して。足りないモノは、あとからどんどん直していこうと。そういう方向に転換しました」

 爆発的な得点力の反面、失点数も少なくない。素早い攻守の切り替えを求めていることはうかがえたが、カウンターを仕掛けている場面でバランスを崩したり、レオナルド、フェルナンジーニョの両ブラジル人選手が、ポジションに戻らず歩いている場面もある。開幕前にクラブは「勝ち点50、得点50、失点30」を目標に掲げたが、失点はすでに32を数える。

「攻撃の時間が長くなれば、守備をする時間が短くなる、という理念からスタートしたので。まずは前から奪いに行く。攻撃をしている間に守備のバランスも整える。奪われた瞬間に奪いに行く。そこまでは来ました。じゃあ、今度は奪いに行って外されたときに、どう守るのか。今日はもし外されたなら、1回引こうと言っていたんですが……。そこは次のステップで、いまから積み上げていくところですね」

「まだ監督を始めて3カ月ちょっとですけど」

 実際に対戦してみて、同じ感想を安間監督も抱いたようで「アグレッシブに行くことは、でき始めているので。次はどうやって落ち着いて守るのか。そうやって、攻める・守る・奪うがしっかり整理されていけば、もう一段チームがレベルアップするように感じました。

 そうしているうちに、また新しい入口が見えるだろうし。感覚を研ぎ澄ましてグラウンドを見ていれば、どんどん良いチーム、良い指導者になっていくと思うので。陰ながら……、観ています(笑)」と、かつて苦楽を共にした後輩監督にエールを贈った。

「まだ監督を始めて3カ月ちょっとですけど、監督によって色があっていいんだなって。これまでに出会った監督のなかには、守備的でつまらないと言われるような人もいましたけど、それがその人の色なら良いんだってことが分かってきました。大切なのは何色なのかじゃなくて、その人なりの色を持つことであって。反対にあの監督は何がやりたいのか分からないっていうのが、ダメなのかなって。

 いま僕は、攻撃に針を振っています。たぶん選手たちも、あの監督はいま、こういうことを考えているんだなと理解できれば、基準がハッキリして一心不乱にのめり込みやすいでしょうから。そうなれば、それが強みになると思うんです」

みずからを「反骨心と劣等感の塊」。

 鳥取は24節終了時点で10勝6分7敗の勝ち点36の5位。2位アスルクラロ沼津との勝ち点差は7だ。シーズン残り9試合、10月には3位鹿児島ユナイテッド、首位FC琉球との直接対決ホーム2連戦が組まれている。

 みずからを「反骨心と劣等感の塊」だと語り、「残り試合はすべて決勝戦のつもり」と意気込む、歩き始めたばかりの青年指揮官。その進む先には、全身全霊を焦がすような熱く厳しい挑戦が待ち受けている。

文=渡辺功

photograph by J.LEAGUE


関連ニュースをもっと見る

関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索