J新卒の年俸上限460万円は適正か?流経大・小池裕太の例から考える。

J新卒の年俸上限460万円は適正か?流経大・小池裕太の例から考える。

 年俸上限460万円。いまのJリーグで果たして適正なのか――。

 Jリーガーの初年度の年俸は、Jリーグ規約・規程集で厳しく制限されている。

 プロ契約はA、B、Cのランク順に分けられており、原則的にプロ1年目はC契約を結ぶことが義務付けられ、基本報酬は年額460万円以下。規定の試合出場字間数などをクリアし、初年度にA契約に移行しても上限は年額670万円。

 例外的にA契約でスタートする場合も年額670万円以下。アマチュア時代に日本代表としてAマッチ、五輪、五輪予選、アジア競技大会、U-20ワールドカップ、またはJクラブの特別指定選手として一定以上の試合に出場した場合のみ、A契約の締結が認められている。

 規定の出場時間数などの詳細は割愛するが、基本給以外に支払われる成果給の出場、勝利プレミアムに関しても上限があり、ルーキーが1年目に手にする報酬は制限される。「超高校級」と騒がれたり、「大学ナンバーワン」などの形容詞のつく選手たちであっても例外はない。

 日本のプロ野球でよく聞く契約金も、Jリーグにはない。それに相当するのは支度金で、上限は独身者が380万円、配偶者のみの妻帯者は400万円、同居扶養家族有りの場合は500万円。

 有望な新人選手に当たり前のように「契約金1億円」が提示されるプロ野球とは大きく異なる。

年俸高騰を抑えるための制度だった。

 新人の年俸制限に関する規約ができたのは1999年。時の日本経済は不景気に見舞われ、同年には横浜フリューゲルスが親会社の業績不振により、消滅する事態も起きた。Jリーグ関係者らによると、その反省を踏まえ、Jクラブの強化責任者らを交えて話し合い、クラブ経営の安定化を図るためにつくられたという。

 当時は大卒1年目のトップ選手に年俸2000万円から3000万円が提示されることもあり、クラブ経営を圧迫する要因の1つになっていた。のちのちの年俸の高騰を「入り口」から抑える狙いがあった。

イニエスタの年俸は32億円とも言われる中で。

 横浜Fの消滅から20年。時代は随分と変化した。Jリーグは昨年度からスポーツ動画配信サービス「DAZN」と10年総額2100億円の放映権契約を結び、変革期を迎えている。

 今夏には元スペイン代表のアンドレス・イニエスタが32億円とも言われる年俸でヴィッセル神戸に加入。Jリーグでは大物獲得を歓迎する傾向にあり、外国人枠の拡大の議論もされているところだ。

 この時期だからこそ、60人以上の現役Jリーガーを輩出する流通経済大の中野雄二監督は声を上げる。

「C契約(年俸制限の規約)もそろそろ見直す時期。もう自由競争にしてもいいのではないか。日本の若い有能な選手たちを適正に評価してもらいたい」

海外クラブなら1000万円超は普通。

 今年の8月下旬、同大学の小池裕太はJクラブからの誘いを断り、休学してベルギーのシント・トロイデンとプロ契約を結んだ。技巧派の左サイドバックへの評価は高く、提示額はJクラブがオファーできる制限額の2倍以上。年俸は1000万円を超える額だった。日本独自のルールは、国外クラブには適用されることはないのだ。

 4年前には長澤和輝(現浦和レッズ)が専修大を卒業後、Jクラブを経ずに直接ドイツのケルンに加入している。中野監督は若い世代の海外志向が強いことを踏まえた上で、Jリーグの規約改定が一向に進まない現状を危惧している。

「毎年、大学サッカーからこのレベルの選手は出てこないかもしれないが、出てきたときには欧州に直接行く流れになるかもしれない。金銭面の差も大きい。本人が欧州移籍を望んで、実力がともなっていれば、私は勧めるでしょうね」

 中野監督は3年半、大学で指導してきた小池の将来性を高く買っており、「これまで指導してきた選手の中でも一番うまい。長友(佑都)以上の選手になる」と話す。

 キックの種類が豊富で、精度も申し分ない。左利きという付加価値まで付く。4年後のカタールW杯では日本代表の長友佑都に取って代わる存在になってほしいと期待を込める。本人は当初、Jクラブで活躍した後に海外移籍を目論んでいたが、中野監督はあえて、このタイミングで背中を押した。

岡田武史氏「21歳までに行ったほうがいい」

「将来、欧州に行きたいのであれば、21歳までに行ったほうがいい」

 足踏みする本人の心が変わったのは、ポルティモネンセの誘いがきっかけだった。同クラブに近い仲介人と知り合いだったFC今治(JFL)のオーナーで元日本代表監督の岡田武史氏から、21歳までに欧州移籍するメリットを力説された。中野監督も同席した三者での話し合いは30分間。元日本代表監督の言葉は、小池の心に響いた。

「同じような説明をしても、岡田さんが言うと違いますね」と中野監督は苦笑していた。

 その後、本人がポルティモネンセとシント・トロイデンの両クラブに直接出向き、中野監督とも相談した上で、後者を選ぶ決断を下した。

 スポーツ推薦で入学した選手が4年生の途中で退部することになったが、流経大に限っては問題になっていない。双方合意のもとで、円満に退部。むしろ、21歳で欧州移籍のチャンスをつかんだことで学校関係者からは一目を置かれ、祝福ムードもある。

「いつ、どのタイミングで、どの職業を選ぶかは本人の自由。尊重したいと思う」

大学に払われる育成費もJより高額。

 大学側も大きな恩恵を受ける。大学名が宣伝されるだけでなく、シント・トロイデンからはトレーニングコンペンセーション(育成費)が支払われる。

 今回の場合はJリーグが定めるトレーニング費用の120万円(1年30万円の4年分)と比べると、2倍から3倍の金額。本来、日本からベルギーへ移籍する場合、FIFAの定めた規約では育成した機関は24万ユーロ(1年6万ユーロの4年分)の育成費を請求できるが、両者の話し合いにより、一定の額で折り合いをつけた。それでも、国内ルールとの差額は大きい。

 Jリーグの実情は、規約にある原則120万円から減額して大学側に支払われることも珍しくない。今年9月にようやく満額での支払いの義務化が決まり、来季からはJ1が現状維持の120万円、J2は80万円、J3は20万円となった。

 ちなみにJクラブから支払われるトレーニング費用の40%は大学サッカー連盟に納め、大学側は60%を受け取っている。大学連盟はJクラブから支払われるトレーニング費用の積み立てと日本サッカー協会からの支援(通常年800万円、ユニバーシアード開催年1300万円)などを受け、全日本大学選抜などの海外遠征費に充てている。ただ、年代別代表の強化費などに比べると、予算のケタが違うという。

森保Jの初招集メンバーには大卒者が9人。

 今年9月、森保一監督の下に招集されたA代表のメンバーには大卒出身者が9人も名を連ねていた。

 小林悠(拓殖大)、伊東純也(神奈川大)、佐々木翔(神奈川大)、守田英正(流通経済大)、東口順昭(新潟経営大)、車屋紳太郎(筑波大)、室屋成(明治大)、天野純(順天堂大)、シュミット・ダニエル(中央大)

 この中で、大学入学前に年代別代表に招集された経験を持つのは室屋のみ。大卒選手はJリーグで多くの経験を積み、成長していることを差し引いても、「この事実をいま一度、検証したほうがいい」と中野監督は言葉に力を込める。

 Jリーグが過渡期を迎えるなか、大学での育成、大卒選手の価値は、適正に評価されているのだろうか。

文=杉園昌之

photograph by Reiko Iijima/JUFA Kanto


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