西武・松井稼頭央の引退と気配り。うれし涙は日本一までとっておく。

西武・松井稼頭央の引退と気配り。うれし涙は日本一までとっておく。

 9月27日、松井稼頭央が日米通算25年間の現役生活にピリオドを打つことを発表した。

「現役をやめる年にライオンズに声をかけていただいたのは、運命だと思っています。『最後はここで』と自分ではずっと思っていましたから」

 メットライフドーム内の球団施設で会見を行った松井は終始、すっきりとした表情で記者からの質問に答えていた。

 ただし会見の途中、一瞬だけ言葉に詰まったときがある。

 ファンへの思いを聞かれた際だ。

「今年、最初の打席であんなに大きな声援をいただいた。フリーエージェントで一度、チームを出て行ったにもかかわらず、あれほどの大声援で迎えてもらえるとは……」

 涙をこらえたせいか、言葉が震える。そのシーンを思い浮かべているかのように、かみしめながら思いを語った。

「全員にサインしてから帰るわ」

 ファンを愛し、ファンに愛された選手だった。

 西武への復帰が決まった直後、インタビューをする機会があった。

「松井選手の復帰で、またライオンズファンに戻ってきた人もいるそうですよ」

 そう告げると、心からうれしそうに顔をほころばせた。

「ありがたいですね。そして15年ぶりなのに『おかえり』と言ってもらうことは、これ以上ない幸せです」

 春のキャンプでは、遅くまで練習の終わりを待っていたファン、1人ひとりのサインや写真撮影に応じた。室内練習場を出てメインスタジアムに向かう前に、周囲にいた選手たちに「今日はオレ、これから待っている人全員にサインしてから帰るわ」と宣言。室内練習場を出た松井の前にファンが長蛇の列を作った。

 大ベテランのそんな姿にほかの選手が触発されないわけがない。木村文紀、金子侑司らがあとに続いた日もあった。

 プロ野球選手が“ファンへの感謝”を言葉にする機会は多い。しかしそれを、ここまで体現する選手は稀だろう。ファンを大切に思う気持ちが、行動から伝わってきた。

金子、源田らとも親交を深めた。

 同時に、周囲に気を配る人だった。

 自主トレーニングでは例年、とことん自分を追いつめるため、練習が長時間に及ぶ。今年1月、松井の西武復帰を伝えようと多くの報道陣が自主トレーニング現場に集まった。

 昼過ぎ頃、広報担当から「先に報道陣の前でお話をします」と伝えられた。新聞社やテレビ局の締め切りを考慮してのことだろう。

「あれも実は、松井さんからの提案だったんです」と後日、広報担当が明かしてくれた。年齢や立場にとらわれず、金子、源田壮亮ら20代の選手とも親交を深め、球団スタッフ、裏方、我々報道陣にまで気を配る人だった。

 松井の人間性に心惹かれた者が自然と彼の周囲に集まった。

 日米通算2000本安打を記録し、ベースボールの本場アメリカでも優勝を経験。生まれながらのスターのように見えるが、“野手”としてはプロ入り後、ゼロからスタートをした。野球が好きだという思いだけで突っ走ってきたと松井は振り返る。

「西武には投手で入って、そのあと野手に転向して、だから常に練習をしていたし、常にチャレンジをしていた記憶しかありません」

1年でも長く稼頭央さんと……。

 投手からショートへのコンバートのみならず、スイッチヒッターにも転向した。「ほかのこと考える時間はなくて、野球のことだけ考えてきた現役生活だった」と語る。

「西武でも、アメリカでも、そして日本球界に復帰したあとも『野球が好きだ』という気持ちは全く変わりませんでした。大好きな野球をいつまでも若い選手たちとプレーしていきたいです」

 開幕前にはそう語っていたが9月、二軍に降格した際に「いよいよそのときが来た」と引退を決意したという。

 3年前から一緒に自主トレーニングを行ってきた金子は言った。

「引退すると聞いたときは本当に寂しかったです。1年でも2年でも長く稼頭央さんと一緒に野球をしたかった。でも稼頭央さんが決めたことですから……。僕らは何としても日本一になって、花道を作って稼頭央さんを送り出したいです」

あらためて25年間は長いですね。

 去り行くレジェンドには、やり残したことがある。ライオンズでは意外にも、まだ日本一になったことがない。

「改めて振り返ると本当に25年間は長いですね。その時間の、ほとんどが苦しいことと悔しいことでした。それを乗り越えた先にある、ほんの少しの喜びを得るために、つらい思いや悔しい思いをしなきゃいけないんだなと、いつも思いながらやってきました。

 当然、悔しさや、悔いは残りますが、それでもいい野球人生だったと思います。いろいろな方のサポートがあり、ファンの方の声援に励まされながらやってきました。本当に感謝の言葉しかないです」

 会見の最後を、「うれし涙は日本一のときまでとっておきます」という一言で締めくくった。

 ライオンズで育ち、ライオンズで現役生活を終える“ミスターレオ”は、最後、ライオンズのユニホームに身を包み、頂点に立つことを望んでいる。

文=市川忍

photograph by Kyodo News


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