杉田とダニエル、そして西岡良仁も。日本男子がツアー優勝続きの理由。

杉田とダニエル、そして西岡良仁も。日本男子がツアー優勝続きの理由。

 大坂なおみフィーバーがひとまず落ち着いた日本に、また1つうれしいニュースが飛び込んできた。先週、中国の深センで行われたATPツアー『250』の大会で、西岡良仁が自身初のツアー優勝。膝の靱帯損傷で約9カ月戦列を離れた23歳の、復帰後やはり9カ月での快挙だった。

 休んだ年月は、同じ年月をかけてもなかなか取り戻せないものだ。負傷前に自己最高の58位に達したランキングは一時380位まで落ち、170位までしか上げることができていなかった。深センは予選からの挑戦だったが、世界ランク31位で若手注目株の19歳デニス・シャポバロフ、元世界7位で現在は28位の34歳フェルナンド・ベルダスコといった注目選手を次々と破って、予選と本戦合わせて7試合を勝ち抜いた。

 復活途上の171位、テニスプレーヤーとしては圧倒的に不利な170cmの華奢な体。西岡のツアー優勝が驚きを与えた理由はわかりやすかったが、西岡本人は、「ケガする前は50位台だったので可能性はなくはなかった。特に『250』は誰にでもチャンスがある。トップ選手のモチベーションもグランドスラムやマスターズに比べれば多少下がるので、今後も予選上がりの選手が優勝することは全然不思議じゃない」と意外に淡々と振り返った。

杉田、ダニエルと先輩たちが優勝。

 そう信じきることができた背景にはもう1つ、昨年から杉田祐一、ダニエル太郎と続いていた日本選手のツアー優勝の実績があった。

「僕も早くツアータイトルが欲しいとすごく思っていたので、その中で身近な先輩たちが優勝していることは励みになりました」

 昨年、西岡がようやく座りながらボールをコートで打ち始めた頃、トルコのアンタルヤで開催された芝の大会で杉田が日本男子史上3人目となるツアー優勝を果たした。日本男子の“初”優勝は、18歳のときの錦織圭以来9年ぶりだったが、重い扉がこじ開けられると、4人目までは1年待たなかった。

 今年4月には、同じトルコでもイスタンブールのクレー大会でダニエル太郎が優勝。このときの西岡は、復帰後なかなか思うように結果を出せず、昨年獲得したポイントを失ってもっともランキングを落としていた時期でもあった。

伊達公子のときもそうだった。

 '90年代半ばに伊達公子が引っ張った日本女子がそうだったように、その後のロシア、中国にも同じことが起こったように、1つの国から続々と選手が出てくる現象は過去にも多々あった。身近な選手のツアー優勝やトップ選手への仲間入りに、「あの人ができるなら私もできる」という自信やライバル心が芽生えて起爆剤になるのだと言われる。

 ただ、それだけでは不十分なのではないか。身近な選手の成功から得るエネルギーがあるとしたら、「努力は必ず報われる」という確信、そしてそれを目の当たりにした喜びだろう。

 杉田はプロ入りからツアー優勝まで11年も費やした。グランドスラムの本戦で初めてプレーするまで17回も予選で負け続けた。その長い時間の辛さ苦しさ、それでも腐らずあきらめず目標を持って進み続けたプロセスを、西岡は断片的にでも見ていたに違いない。

 自分と同じように小柄で非力な杉田が、世界に通用する自分の武器を信じて磨き続けた信念を、どこかで共有していたに違いない。

今年の180cm未満の優勝者は6人。

 一方、191cmのダニエルは西岡よりも体格的に分がある上、クレー仕込みのベースラインプレーは決して西岡と同類ではないが、1ポイントを得るのに時間とショット数を費やすという点、ミスなく粘り強く打ち返すという点では共通している。

 西岡よりもむしろ泥臭いプレーでポイントを重ね、ゲームを重ねて優勝トロフィーをつかんだ、当時114位のダニエルの快挙もまた、西岡を奮い立たせたことだろう。

 そして、170cmというツアー“最短身”の体格ながら、フットワークとスピード、左利き特有の回転を武器に、コントロール良く、ミスなく、ショットを繰り出す根気強いプレーを貫き、新たな“証明”を作り上げてみせた。

 これで、日本は現役選手の中に4人のツアータイトル・ホルダーを擁することになった。数だけ見れば上には上がいるし、特筆することではないかもしれない。

 しかし、注目したいのはその「意外性」だ。何しろ、11個のツアータイトルを持つ錦織圭も178cm、75kgの小柄な体格で、アジア男子の記録を颯爽と塗り替えてきたのだ。昨年と今年の優勝者の中に身長が180cmに満たない選手は6人しかおらず、錦織は残念ながら昨年からタイトルがないが、西岡と杉田がその6人の中に入る。

西岡「だからこそ誇っていい」

 また、今年ここまでの優勝者の中で100位以下は6人しかいないが、うち2人がダニエルと西岡だ。国別で見れば、アジアの中で類を見ないばかりでなく、世界的にも際立っている。すでに引退、あるいはピークを過ぎた先輩たちが脈々とつないできた世界での挑戦の歴史、地道な収穫の積み重ねも決して「今」と無関係ではない。

 特に男子のテニスで体の小さい日本人は世界で勝てないと言われていたのは、そう遠い昔ではないが、西岡は自分の体格にこう胸を張る。

「190cmオーバー、80kgオーバーという選手がいっぱいいる中で、僕らのテニスは、彼らみたいにパワーがあってフリーポイントがたくさん取れて試合をスムーズに進行できるわけじゃない。そういう中で戦い続けてることを、僕たち背の低い選手はだからこそ誇っていいんじゃないかなと思います」

 そんな西岡の初優勝は、この先にどういう連鎖を起こすだろうか。楽しみでならない。

ダブルスも錦織も全員が上昇ムード。

 日本男子の活躍を言うなら、ダブルスも放っておけない。1年前の楽天オープンで、選手登録を日本に移して間もないマクラクラン勉が内山靖崇とともにツアー初優勝を果たした。そのマクラクランは今季も躍進を続け、西岡が優勝した深センでもダブルスを制覇。昨年初めには200位だった26歳が今やトップ20プレーヤーだ。

 錦織は復帰後まだツアータイトルがないが、グランドスラムの上位に絡む存在にまで順調に復活してきた。「なおみちゃんが早く1位になって、なおみちゃんのほうが有名になってくれると、自分のほうに目が向かなくなってもうちょっとフリーになれるかな」などと冗談めかし、昨年手首のケガをする前よりも明るくなったように見える。

 その錦織がベスト8に勝ち進んでいる楽天オープンでは、20歳の綿貫陽介がツアー初白星を上げた。とにかく全体のムードがいい。その中で、杉田は今季スランプに陥っているが、この上昇ムードに大きな役割を果たした努力家の復活を強く願っている。

文=山口奈緒美

photograph by Hiromasa Mano


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