ラスベガスの「QUINTET3」で桜庭和志が伝えたかったこと。

ラスベガスの「QUINTET3」で桜庭和志が伝えたかったこと。

 10月5日にラスベガスのオーリンズ・アリーナで行われたグラップリングイベント「QUINTET3」は、ふたつの面を持つ大会だったといえるだろう。

 ひとつは、観客席が閑散としていたことだ。

 大会の映像を生中継で配信することが決まっていた「UFC ファイトパス」はツイッター上で、繰り返し「QUINTET3」の前宣伝を行い、主催する桜庭和志自身も、可能な多くのメディアに登場した。

 しかし、ショービズの都・ラスベガスで、派手なノックアウトのないグラップリングイベントを見に行こうとするファンはごく少数だった。

 興行的には、失敗に終わったといえるだろう。

 もうひとつは、試合内容が絶賛されたことだ。

 QUINTETに打撃はない。絞め技と関節技のみで決着をつける5対5の団体勝ち抜き戦である。

「お客さんのために作った格闘技の甲子園です」と桜庭は笑う。

 QUINTETに全面協力している日本ブラジリアン柔術連盟会長の中井祐樹は、桜庭のアイディアに脱帽する。

「ブラジリアン柔術に柔道やレスリングの指導(コーション)を導入することで、常に動きのある攻撃的な試合が増え、団体勝ち抜き戦の発想を持ち込んだことで、選手も観客も楽しめるようになった。桜庭さんは天才です」

QUINTETの真髄とは……。

 4チーム参加のトーナメント戦。

 ケージもリングもないマットの上に観客が目撃したものは、刻々と進化を続ける最新のテクニックの品評会であり、圧倒的な技量の持ち主が何人もの相手を次々に勝ち抜いていく小気味よさであり、逆に、先ほどまで恐るべき強さを示したファイターが疲れ果て、次の試合ではまるで別人のように精彩を欠いてしまう残酷な姿であり、さらには、引き分けることの重みであった。

大会の主役はゴードン・ライアン!

 総合格闘技黎明期のレジェンド・桜庭和志率いるチーム・サクラバは、UFCのレジェンドであるユライア・フェイバー率いるチーム・アルファメールに完敗する。

 だが、チーム・ポラリス対10thPlanetの試合は、高度な技術の応酬が続き、全試合一本勝ち、抜きつ抜かれつのシーソーマッチという最高にスリリングな展開の果てに、チーム・ポラリスが辛うじて決勝に駒を進めた。

 オーリンズ・アリーナにやってきた観客は、グラップリングという競技の魅力を存分に味わったに違いない。

 だが、大会の主役はチーム・アルファメールのゴードン・ライアンだった。

6戦4勝2分けという圧倒的な戦績。

 ライアンは、昨年のADCC・88kg級を制し、今年はパン・ノーギで無差別と階級別の2冠、EBIでも4度トーナメントを制した当代随一のグラップラーだ。

 チーム・サクラバとの準決勝で、ジョシュ・バーネット、マルコス・ソウザを破り、ホベルト・サトシ・ソウザとは無難に引き分けて決勝進出の立役者となると、決勝戦でもクレイグ・ジョーンズ、ヴィトー・シャオリン・ヒベイロに連勝、グレゴー・グレイシーにも引き分けてチームを優勝に導いた。

 6戦して4勝、そしてふたつの価値あるドローを記録したことになる。

 ゴードン・ライアン以外のチーム・アルファメールのメンバーは、引き分けばかりで、ひとりも抜いていない。

 数々の強豪を育てた名伯楽ジョン・ダナハーの最高傑作の八面六臂の大活躍によって、優勝できたようなものだった。

 団体勝ち抜き戦の面白さ、そして圧倒的な力量を持つファイターの快進撃。

 QUINTET3の視聴数は「UFCファイトパス」で過去最高の数字を叩き出した。

QUINTETの本質は桜庭そのもの。

 じつは会場には何人ものUFCファイターがお忍びで訪れていて「すごい! 私も出たい!」とツイートした結果、『QUINTET』はツイッターのトレンドで全米1位となった。

 プロレスと格闘技の両方で、世界で最も正確な情報を発信している「レスリング・オブザーバー」のデイブ・メルツァーは、筆者に次のように感想を語ってくれた。

「QUINTET3は、グラップリングの輝かしい未来を感じさせてくれるイベントだった。エキサイティングな試合をたくさん見ることができたからね。必要なのは、プロモーションだけじゃないかな」

 QUINTETの本質は「お客さんを喜ばせること」(桜庭和志)にある。

 守りに入るな、常に攻撃し続けろ、最後の最後まで一本を狙え。振り返れば、それは桜庭和志がMMAの戦いの中で続けてきたことでもあった。

 リアルファイトである以上は、勝利しなくてはならない。さらにプロフェッショナルである以上は、面白い試合を観客に見せなくてはならない。

 ファイターが生活できているのは、チケット代金を支払ってくれるお客さんがいるからだ。

 QUINTETのルールには、プロレスラー桜庭の生き方が、色濃く盛り込まれている。

 かつて桜庭和志は、MMAという日本人にとって未知の競技を、一般大衆に広めるために大きな役割を担った。

 そしていま、グラップリングという日本人にとって馴染みのない競技の持つ本質的な魅力を、人々に伝えようとしている。

文=柳澤健

photograph by Takashi Iga


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