技術屋・中村剛也の見事な復活劇。「振り遅れるなら強制的に……」

技術屋・中村剛也の見事な復活劇。「振り遅れるなら強制的に……」

 おそらく技術屋なのだと思う。

 10年ぶりにパ・リーグを制覇した西武のホームランアーチスト中村剛也のことだ。

「一番大事なのは身体ですかね。身体が動けば、技術も心も安定すると思っています」

 朴訥とした語り口は昔から変わらないが、彼の懐になかなか入っていけないのは、他人が簡単に踏みこめない深い野球観があるからだろう。

 その昔、中村の恩師である大阪桐蔭の西谷浩一監督に「アーチスト論」を語ってもらったことがある。当時最大の注目を集めていた中田翔(日本ハム)を中心に、大阪桐蔭OBの関係性を解説してもらったのだ。

「ボールを飛ばすという意味でのパワーだったら中田が一番です。でも、技術は断然(中村)剛也です。ああいう体型しているから力だけに思われますけど、剛也の技術は相当に高かったですよ。中学時代から変化球を狙って打ちに行っていましたからね。

 分かりやすく言うと、例えば中田は相手投手の力に対して力でまともに向かっていきますけど、剛也は相手の力を上手く利用しながら捉えていくタイプです。

 駆け引きもうまかったです。変化球を狙っている打席で、思わずストレートに手が出てしまったら、『打ち損じた』みたいなそぶりを見せる。次に相手が警戒して変化球を投げると、待っていましたと放り込んだりするんです。色んな意味での技術をもっていました。(剛也は)プロに入ってからはホームランだけを狙うようになったので打率は低いですが、彼の技術力なら、首位打者を取ってもおかしくないと思うんですよね」

統一球にも難なく対応した技術力。

 技術の中村。

 いまからちょうど10年前の2008年、初めてホームラン王のタイトルを獲得すると、そこから中村の技術はプロ野球界を席巻した。6度のホームラン王を獲得した。

 圧巻だったのは2011年。NPBの公式球が統一球に変わり、多くのバッターがホームランを減らすなかでも、何事もなかったかのように48本塁打を放った。

 様々な変化に、難なく対応できる。

 中村が技術屋であることの証左に他ならない。

チームの停滞感を中村が救った。

 しかしそんな中村も、この2、3年は苦しい日々を過ごした。

 古傷の右ひざが思うように回復せず、持ち前の技術力が発揮できない日々が続いた。30歳を超えて年齢的な衰えもあったのかもしれない。昨季の途中には不調に陥り、4番の座を山川穂高に奪われている。

 今季が始まってもその構図は変わらなかった。

 開幕は6番サードでスタメン出場を果たしたものの、打率は1割台でホームランも出ず、4月21日に守備でダイビングキャッチを試みた際、左肩を痛めてファーム落ち。6月に復帰してようやく初本塁打をマークしたが、中村の存在感は以前ほどではなくなっていた。

 ところが、7月に入ってから徐々に本塁打数を増やし、中村本来の姿を取り戻していった。7月は8本塁打、8月は12本塁打と、たった2カ月で20本をマークした。チームの打線が停滞しかけていた時だったから、中村の存在がいかにありがたかったかは想像できる。

 辻発彦監督はこう語った。

「中村が好調だった8月はソフトバンクの追い上げがあった時で、打線全体が少し落ちてきていた。そんな時に中村があれだけ打ってくれたから、9月を迎えるまで首位にいることができた。栗山(巧)と2人、ベテランの力は大きかった」

「いや、ただの振り遅れですよ」

 では彼は、何をどう変えたのだろうか。

 7月からの中村のホームランを見ていて気づくのは打球方向だ。昨季は2本しかなかった右方向へのホームランが、7月からの2カ月だけで8本(今季トータルは9本)も出ているのだ。

 9月17日、ソフトバンクとの3連戦最終戦で、中村は7回裏に3点本塁打をライトスタンドに放り込んだ。スアレスの153キロのストレートを捉えた芸術的な一発だった。

「いや、ただの振り遅れですよ」

 最初は煙に巻くかのようにそう答えた中村だったが、振り遅れであの打球にはならないと思うと伝えると、こう説明してくれた。

「芯にしっかり当たって振り切れさえすれば、遅れていても打球は飛んでいくんで。まぁ、他にも色々、理由はあるんですけど」

スイングの前から強制的に身体を動かす。

 その「色々」がまた面白い。

 中村は昨季の不調時から今季の前半戦まで、打ち損じが増えたことに気づいていたという。難しい球ならいざ知らず、「甘い」と思って振りに行っても、それがファールや空振りになっていた。

 中村はそれを「振り遅れ」と捉えるのだが、シーズン中盤にはその現象を解決しているのである。

 もともと、中村はミートポイントを前めにして打つタイプだった。

 身体の重量とそれを生かすスイングスピードでエネルギーを生んで遠くに飛ばす。そのアプローチも、反動を使いながらすべての体重をボールにぶつけていく山川とは少し異なり、極力体は動かさずブレを少なくして効率よく振る。

 ところが……。

「瞬発性がなくなって、振り遅れるようになった。だから、強制的に身体を動かしていくということにしたんです。今までは身体を動かさないで振りにいっていたところを、動きをつくることによって補おうと考えました。

 今はスイングの前に手を動かしているんですけど、実際は、何でもいいんです。動くことによって力が生まれる。だから、振り遅れていても芯にあてさえすれば飛ぶということです」

 動くといっても、反動をつけているわけではない。ボールを待つ間にバットにちょっとした動きを加えているだけだ。

バットの重さに加えて、材質も変更。

 その身体の動きをボールに効率的に伝えるために、バットも変えた。

 中村は8月以降、以前よりやや軽めのバットを使用しているが、材質もアオダモからメープルに変えている。この変更が打席でのアプローチを成功に導いた。

 中村は続ける。

「バット自体が軽くなれば、振り遅れていてもインパクトに間に合いますよね。さらに材質をアオダモからメープルに変えました。アオダモはしなる良さがあるんですけど、捉えられなかった。メープルは堅いので、しっかりと振れるんです」

技術屋だからこそ果たせた見事な復活劇。

 中村がかつてアオダモのバットを使用していたことは有名な話だ。

 かつての懐が柔らかくて力強いバッティングは、しなりを生かしたスイングスピードが専売特許だった。しかし瞬発力が落ちてきたことに対応して、ボールを捉えるアプローチを変えたということである。

「振り遅れはずっと感じていたんで、色々試しながらやってみたんです。どこで力を生むかなんです」

 現在の中村の打席を確認すると分かるが、トップをつくるまでにバットを小さく動かしているのが分かる。傍目で見れば、タイミングをとっているかのような所作にもうつるが、実は、失われた瞬発力を補うために力を生み出す繊細な動きだったのだ。

 スイングスピードが落ちてミートポイントが後ろになれば、昔のような打球を飛ばすことはできない。そこで中村は力を生み出す動きをつくり、さらにバットの重さと材質を変えてスイングスピードを補ったということだ。

 技術でタイトルを何度も獲得した中村が、復活のたよりにしたのが技術的なアプローチだったというのはなんとも彼らしい。

 10年ぶりの優勝には決して欠かせなかったベテランアーチスト・中村剛也。

 技術屋だからこそ果たせた、見事な復活劇だ。

文=氏原英明

photograph by Kyodo News


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