錦織圭の復活レベルはほぼ100%。ただ危険な実力者が続々と台頭。

錦織圭の復活レベルはほぼ100%。ただ危険な実力者が続々と台頭。

 最後のツアー優勝から2年8カ月。右手首の故障からの完全復活は先月の全米オープンのベスト4で証明したはずだが、2012年から毎年のように手に入れていたツアータイトルをつかめない。

 先週の楽天ジャパンオープンの決勝戦で、錦織圭は次世代勢力の1人として期待される22歳のダニール・メドベージェフに敗れて、決勝戦8連敗目を喫した。

 2016年2月にメンフィスで11回目のツアー優勝を遂げるまで、準優勝の数はその半分以下の5回で、7割近い決勝での勝率を誇っていた。そんな錦織が陥っている決勝での黒星続き。

 8連敗の相手はというと、ノバク・ジョコビッチとラファエル・ナダルに対して2回ずつ、それ以外は対戦当時のランキングで自分より下だ。マリン・チリッチ(12位)、グリゴール・ディミトロフ(17位)、アレクサンドル・ドルゴポロフ(66位)、そして予選上がりでもあった今回のメドベージェフ(32位)。相手を見れば“取りこぼし感”はちらほらあり、中でも今回のメドベージェフ戦にはそれを強く感じるかもしれない。

予選上がりだが実力と勢いは本物。

 しかし予選上がりといっても、実際のレベルはその言葉から受けるイメージとかけ離れている。エントリー時のランキングがまだ57位だったため予選からのスタートだったが、32位ならグランドスラムでシードがつく数字だ。22歳という若さと新婚ホヤホヤという幸せも相まって、その勢いは32位というランキングでも十分に表されていなかっただろう。

 実際、決勝戦では完璧ともいえるプレーを展開した。198cmの長身からの高速サーブは、計測器が示した時速198kmや200kmというスピードをはるかに上回る体感速度だったはずだ。ツアー屈指のレシーバーと言われる錦織が、あれほど“読み”を発揮できないことも珍しい。

 ラリー戦に持ち込んでも、リーチの長いメドベージェフの堅いディフェンスの前に、錦織の持ち味であるハイテンポの攻撃が効かず、逆にフラット系の伸びのあるショットで深く押し込まれ、左右に振られ、ミスが増えた。

ラッキールーザーが史上最多。

 錦織は試合後、「彼の球質や戦術に対して、この速いコートも重なって、自分がいい感覚を得られなかった」「最初から今日はいいテニスができなさそうだと感じていた」「アンフォーストエラーが多くて、自分にいいところがあまりなかった」などと振り返った。

 前日まで抜群のキレとスピードを見せ、豊かな発想力で多彩なテニスを展開していた錦織は別人だった。特に元世界7位のリシャール・ガスケをストレートで破った準決勝は申し分なく、それを見る限り錦織の復活レベルはほぼ100%といっていい。決勝に関しては、まあこんな日もある、と片付けたいところではある。

 ただ、そうも言いきれない不安の背景にあるのが、今回のメドベージェフのような“危険”な選手が増殖しているツアーの現状だ。

 前述した通り、優勝したメドベージェフは予選からの勝ち上がりだったが、今季ここまでに同じく予選上がりやラッキールーザー(予選敗退後、本戦欠場者が出たために繰り上がった選手)が優勝した大会が、史上最多の9つもある。メドベージェフ自身、1月のシドニーに続いて2度目となる予選からの快挙だった。

西岡、ダニエルにもチャンスが。

 先々週に中国の深センで優勝した西岡良仁もその1人で、「波乱は確かに多くなっている。今後も予選上がりが優勝するということはありえるし、全然不思議じゃない」と言っていたが、4月にツアー初優勝を果たしたダニエル太郎は“危険区域”をさらに広げてこう断言した。

「フィジカルトレーニングとか栄養とかいろんな面で、選手は昔よりプロフェッショナルになっている。300位くらいの選手でもそういうことをちゃんとやっていて、みんなが思うほど彼らとトップ100との差はない。トップ100になれば、トップ20の選手に勝つチャンスはいくらでもある」

 つい1年前まで300位前後の選手と頻繁に対戦していたから言いきることのできる実感なのだろう。ちなみにダニエルは予選からの優勝ではなかったが、当時のランキング114位は今年のツアー優勝者の中で5番目に低い。 

ベテラン、若手ともに充実。

 長年“ビッグ4”が支配していたツアーの構図が崩れ、その裏でじっと力を蓄えていたベテランがそこへ入り込んできた。10年もの間グランドスラムではベスト8が最高だったのに、この1年あまりの間に全米オープンとウィンブルドンで決勝に進出した現在32歳のケビン・アンダーソンなどは代表的だ。

 そのアンダーソンは、「賞金の高額化によって、トップだけでなく多くの選手がコーチやトレーナーを帯同することができるようになり、選手寿命が伸びた」と指摘していた。それは選手寿命だけでなく、近年の選手層の厚さの変化にも通じるに違いない。

 加えて若手の突き上げだ。昨年から、21歳以下だけのツアーファイナルズ『ネクスト・ジェン・ファイナルズ』が始まり、次世代スターの育成キャンペーンが効を奏している。

 メドベージェフは昨年のセミファイナリストで、今年もミラノで開催されるその大会に向けたレースで上位争いを繰り広げているのが、いずれも今回の楽天オープンで存在感を示した19歳のデニス・シャポバロフであり、20歳のステファノス・チチパスであり、19歳のアレックス・デミノーである。

 錦織はツアーを離れている間に起こっていた変化を、復帰前から確かに感じとっていた。昨年末、「敵はトップの選手だけじゃない。層が厚くなっているのを肌で感じているので、復帰してから大変なことは覚悟している」と話していた。トップを倒す力があっても、次から次へと挑みかかってくる相手に対してギアを上げ続けなければ、優勝はできない現実。

 メドベージェフに敗れてベスト4だったシャポバロフは、「僕たちの世代にはトップ100、200にも才能のある選手がまだまだいる。来年はもっと変わるし、もっとおもしろくなる」と目を輝かせた。ビッグ4全盛時代とはまた異なる苛酷な時代が本格的にやって来たようだ。

文=山口奈緒美

photograph by Hiromasa Mano


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