U-16アジア制覇を支えたBチーム。紅白戦から本気で戦う集団だった。

U-16アジア制覇を支えたBチーム。紅白戦から本気で戦う集団だった。

 筆者は全国各地でのスポーツ関連の講演会で、必ず口にする言葉がある。

 それは「本当に強いチームは、紅白戦の“Bチーム”も強い」というものだ。

 試合だけでなく、練習という日常の中でもしびれる“戦い”が存在すれば、チームは強くなる。控え組扱いであるBチームが時に勝つほどの紅白戦なら、トップチームの人間には危機感が生まれるし、Bチームの選手も「さらに上を食ってやる」と意欲を燃やす。その相乗効果でチームが活性化する、ということだ。

「試合には日常が出る」

 この言葉を具現化しているのが、世代別代表の“02ジャパン(2002年以降に生まれたU-16日本代表の愛称)”だ。森山佳郎監督は前述した“戦い”を植えつけることに長けている。つまり日本でもトップクラスのモチベーターであり、チームを同じ方向に導ける指導者なのだ。

レギュラー組以外も積極起用。

 今大会、手腕が発揮された象徴的な試合は、準決勝のオーストラリア戦と決勝のタジキスタン戦だ。準々決勝でオマーンに2−1で勝利し、来年ペルーで開催されるU-17W杯の出場権を掴み獲り、その後迎えた準決勝では、森山監督はレギュラー組中心だったオマーン戦から7人を入れ替えた。

 この大幅な変更は、グループリーグ第2戦のタジキスタン戦でも敢行した。ただその時のチームは拙攻を繰り返してスコアレスドローに終わった。

「選手には『(出るのは)俺だろ!』と常にアピールしてほしい。こっちも競争を煽りながら、現時点で一番活きのいい選手と言うか、一番活躍できる選手がスタメンを勝ち取るんだよと提示した。レギュラーはこいつら、後は“そうじゃない選手”と分けて回しているのではなくて、しっかりとチャンスを与えながら“それを掴めるか、掴めないのか”とシビアに判断する」(森山監督)

決勝で結果を残した2人を起用。

 1度目のチャンスに応えた選手は少なかった。だからこそ、W杯切符という最低目標を達成した後のオーストラリア戦で「もう一度やってみろ!」と彼らを再び起用したのだ。

 その結果は実った。立ち上がり早々に失点するが、後半にFW唐山翔自(ガンバ大阪ユース)の2ゴールで試合をひっくり返すと、“控え組”だったMF三戸舜介(JFAアカデミーU-18)がとどめのゴールを決めて、3−1。愛ある“追試”を見事にパスした。

 そんな彼らに対して、森山監督もタジキスタンとの決勝戦で応えた。オーストラリア戦で奮起した唐山と三戸の2人と、GK野澤大志ブランドン(FC東京U-18)の3人をスタメンでピッチに送り込んだ。

 野澤はピンチを救うビッグセーブを見せたし、唐山と三戸の動きにほかの見方も触発された。そしてエースの西川潤(桐光学園高)が今大会初ゴールとなる決勝弾を叩き込み、実に6大会ぶり3度目のアジアチャンピオンの栄冠を掴み獲ったのだ。

紅白戦ではBチームが勝つことも。

「2試合目に出して良かったやつは次、準決勝に出して良かったやつは次。それを実行しただけです。スタメン表を見ても、決勝戦は最初のスタメン組よりもオーストラリア戦に近いメンバーになりましたよね。それだけオーストラリア戦がすごくよかったわけだし、『俺だろ!』としっかりとアピールしてくれた。それに決勝の前日の紅白戦でBチームの方が勝って、もう一度スタメンを考え直すことになったんです」

 森山監督はこう語った。決戦の地・マレーシアにやって来て約1カ月。日に日に紅白戦の強度が増したことが優勝への“伏線”となっていた。

「最後の1週間、紅白戦の2、3試合はBチームの方が勝っていた。Bチームという表現がいいかは分かりませんが、スタメン組と別にもう1チームできる中で、どうしてもそういう区分で紅白戦をやります。ただ全員が主体性を持って、“このチームで自分ができることは、役割は何か?”という気持ちを持ち続けて戦ってくれた」

決勝翌日に選手が語った決意。

 森山監督のもとで作り上げた競争の中で、序列もすぐに入れ替わる戦いの世界。それと同時に、1つの目標に向かって前進していける組織。キャプテンを務め、全試合フル出場を果たしたCB半田陸(モンテディオ山形ユース)はこう語った。

「練習の紅白戦でもサブ組が勝ったりしていたので、そういうところでスタメン組も“このままじゃダメだ”という意識で練習できていた。紅白戦をこなすごとに、どっちも“負けられないぞ”という雰囲気で戦えていた」

“戦う集団”が手にしたU-17W杯出場権とアジアチャンピオン。決勝翌日のホテルで選手1人1人が全員の前で一言ずつ語ったが、彼らの言葉もまた熱く、そして闘志に満ちていた。

 半田のように「まず自分はこの中で誰よりも早くJリーグに出場して、来年のW杯で余裕を持ってたくましく、みんなを引っ張って行ける存在になりたい」と目標を公言する者もいれば、思うように試合に出場できず、涙を流しながら悔しさをにじませたり、反省点や改善点を口にする選手もいるなど、それぞれが自分の思いを吐露した。

 選手が話すごとにしんみりとした空気が流れたそうだが、森山監督はこう熱いメッセージを伝えた。

「言ったことは本気か!? 本気か? 絶対だよな! 言って何日か後に忘れたことはなしだぞ!」

“口だけ”では生き残れない。

 ただ、今大会でチームが解散するわけでない。来年10月のU-17W杯に向けての競争は始まっている。いつまでも感慨に浸っているわけにはいかないし、何より森山監督は何度も「サッカー小僧が大好きなんです」と言うように、“口だけ”の選手をとことん嫌うし、簡単に見抜いてしまう。

「1カ月後に所属チームでの試合を観に行ってたら、全然変わっていなかったり、成長していないこともある。もしかすると、半分以上の選手は(今回の言葉を)忘れてしまうかもしれない。でも、忘れずにやり続けているやつだけがこの代表に“帰って来る”んです。これから先はどんどん壁が高くなって行くからこそ、這い上がれるやつしか残らない。

 それはU-17W杯もそうだし、プロの世界に飛び込んで行くこともそう。その先はプロでレギュラー、A代表……と毎回よじ登らないといけない。さらにストレス、プレッシャー、つらさを感じる厳しい世界が待っている。だからこそプレーだけでなく、人間性や人間力を磨いて欲しい。日頃の取り組みから成長してほしい」

 1年後、ペルーの地を踏みしめる“選ばれし者”の候補生に向けて。森山監督はいつもと同じ、熱く、厳しく、そして愛情にあふれた言葉を送った。さらなるハイレベルな紅白戦を楽しみにしつつ、W杯で森山監督が作り出すであろう“戦う集団”に期待したい。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando


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