川崎が獲得した2人の大学3年生。伊藤宏樹スカウトが語る「逆算」。

川崎が獲得した2人の大学3年生。伊藤宏樹スカウトが語る「逆算」。

 獲得するなら今でしょ。

 川崎フロンターレは今年7月、2人の「大学3年生」の獲得を発表した。フロンターレ育成組織出身の筑波大MF三笘薫と、順天堂大FW旗手怜央。彼らはU-21代表に選出される東京五輪代表候補であり、大学サッカー界において高く評価されている。それぞれのポジションで「大学ナンバーワン」という表現もよく目にする。

 フロンターレに入団するのは、大学を卒業する再来年の2020年。なのに「今でしょ」にどんな意味があるのか。

 他クラブとの獲得レースが熾烈になるため、早めに決着をつけようとした結果なの? 

 もっと深い理由があるような気がして、向島建スカウトとコンビを組むクラブのレジェンドでもある伊藤宏樹スカウトに疑問をぶつけることにした。

東京五輪の年に入団することに。

――単刀直入にお伺いしますけど、入団するのは再来年。3年生の2人を今のタイミングで発表したのが気になって。

「はい。“今”が良かったんです」

――そこを知りたいんですよ。

「再来年は、何の年になります?」

――今が2018年なんで、2020年です。

「そうなんです。東京オリンピックの年じゃないですか。三笘も旗手も、東京オリンピック出場を目指しています。つまりフロンターレに入団する年になります。今のチームはポジション争いが熾烈だし、1年目となれば絶対壁にぶつかるはず。入団が決まっていなければ、大学の監督さんや本人に対してクラブに誘うための声かけになりますけど、決まってしまえばこれからは1年目から試合に出るための声かけができるようになりますから」

甘い言葉は掛けません。

――1年目からレギュラー争いに食い込んでいく、その準備期間だと。

「そうです。彼らがいい形で東京オリンピックを目指せるかどうか。壁にぶつかることを想定していれば、準備も違ってくるとは思うので」

――2人がいい選手であることは間違いないと思いますが、フロンターレのスカウトの基準としてはどこを重視しているのでしょうか?

「今がいいから獲得するわけじゃありません。あくまで将来性です。U-18からの昇格も、高校生も大学生も。技術があるかどうか、1つ1つのプレーに余裕があるかどうか、周りが見えているかどうか。プレーにミスがあったとしても“こういうプレーをしようとしているな”って伝わりますから。

 それと、メンタリティーも大事です。今のフロンターレは競争が激しいですから、壁にぶつかってもはい上がっていけるだけのものがあるかどうか。三笘にも旗手にも将来性を強く感じたため、オファーに至りました。スカウトとしては甘い言葉は掛けません。覚悟を持ってやらないと、試合に出られないよとは伝えましたけど」

――三笘選手は元々、育成組織の出身ですから、周囲もフロンターレに戻るんだろうなという見方はあったと思うのですが。

「実際、U-18からトップチームに昇格する予定でしたが、本人が『今は自信がない』ということで進学を選びました。我々もずっとフォローしていくなかで、彼は1年生から試合に出ていたし、自信もついていったと思うんです。ただ、僕から言わせると、まだまだな部分が多い。具体的な言及は避けますけど、課題については本人にも伝えています。

 ただ、フロンターレで育ってきていますからチームの色に合うことは間違いないと思うし、お客さんを呼べる選手だなって。大学からプロになることは回り道ではないと思うんです。勉強したり、部でリーダーシップを発揮することで成長を呼び込める。高校から入ろうが、大学から入ろうが、どちらもメリットはありますから」

アピールは……特に何も(笑)。

――旗手選手は大島僚太選手、長谷川竜也選手と同じ、静岡学園高出身です。

「最初に見たときからフロンターレに合うなって感じました。技術が高く、貪欲で常に上を目指している選手。伸びしろすごいなっていう目線でずっと追いかけていました」

――とはいえ、彼らには他のクラブからもオファーがあったはず。獲得するためにはどんなアピールを?

「いや、特に何もないですよ(笑)。ウチのクラブは、僕が言うのも何ですけど雰囲気がいいというか。練習に参加してもらって、そういったことを感じてもらえればうれしいかなと。

 僕は引退して、スカウトになる前に2年間、イベントなどを企画する集客プロモーション部にいたんです。クラブ(現場)を外側から見てみるのも大事なんじゃないかと考えていました。生え抜きの選手も移籍で来てくれた選手も大体“居心地がいい”と言ってくれます。その理由はどこにあるのかなと。厳しいなかにも、雰囲気の良さがある。ほかのクラブももちろんいいとは思うんですけど、僕としてはそこがアピールポイントと言えばアピールポイントかなと」

――練習参加の段階でオファーに至っていると思います。やっぱり感じるのは、クラブの決断が早いということ。

「それは庄子(春男)GMと、スカウトの向島さんの強い信頼関係があるから。基本的にスカウトが“この選手にオファーしたい”と決めたら、尊重してくれます。現場もそうです。フロンターレのサッカースタイルに合う選手の基準というのは分かっているつもりだし、だから僕らも責任を強く持って仕事をやれています」

“入れるだけ”が仕事ではない。

 言うまでもなく、“入れるだけ”がスカウトの仕事だと伊藤は思っていない。

 プロの競争社会の準備を促し、覚悟を求める。三笘、旗手に対しては東京オリンピックから逆算して、彼らのケツを叩く意味で3年生時の獲得にこだわった。

 壁にぶつかる1年目の準備をしておくように、とのメッセージ。大学の活動がない時期に、特別指定選手としてプレーできることにもなった。

「彼らだけじゃないですけど、獲得が決まったら、より厳しい目で見ていこうと思っています」

 フロンターレひと筋13年間プレーした伊藤スカウト。ここからはクラブのOBとして、先輩として、声かけをやっていく。

 彼らへの、そしてクラブへの愛情を持って――。

文=二宮寿朗

photograph by AFLO


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