宮本ガンバ残留へのラストピース、アデミウソンを蘇らせた名医とは。

宮本ガンバ残留へのラストピース、アデミウソンを蘇らせた名医とは。

 必ずしも恵まれているとは言い難い戦力の中で、宮本恒靖監督は難解なパズルに取り組むように理想のフォーメーションとその顔ぶれを模索し続けてきた。

「選手も本来持っているコンビネーションとか、距離感を思い出し、いいボールの動かし方もあった」と指揮官が手応えを口にした9月15日の神戸戦の後半以降、一貫して4-4-2のフォーメーションで戦い続けているガンバ大阪。

「最高の11人」を見出した宮本監督にとっての悩みは、攻撃でギアを上げられる選手の不在だった。

 チームは現在、5連勝と勢いに乗っているが、逆転勝ちは神戸戦のみ。宮本監督は先手を取った際に試合をクローズするカードをいくつか持つ一方、点を取りに行く際のオプションは、脆弱と言わざるを得ないのが現状だ。

広島戦では交代を引っ張ることに。

「(先発メンバーを)引っ張らざるを得なかったところはある」

 若き知将の苦しい胸の内が透けて見えたのは4連勝を懸けた広島との一戦である。

 当時首位を走っていた広島に対して、がっぷり四つの展開で試合は推移。「こちらのボール支配率も高まり、どこで一刺しするか」と交代のタイミングを見据えていた宮本監督ではあったが、スコアレスで推移していた後半38分まで1枚もカードを切ることがなかった。

 いや、正確に言うならば守備のバランスが崩れるのを恐れて、軽々に動けなかったのだ。

 最初の選手交代からわずか1分後、ファン・ウィジョの決勝ゴールが飛び出し、ガンバ大阪は辛うじて広島を振り切った。

 しかし、3試合連続で決勝ゴールを叩き出した韓国人エースは、この試合で受けた警告により、大阪ダービーは出場停止。絶対的エースを欠いて挑む大一番で、宮本監督がファンの代役として白羽の矢を立てたのがアデミウソンだった。

本来のアデミウソンを見せよう。

 セレッソ大阪とのダービーの前日、先発が決まっていたブラジル人FWは、自らに言い聞かせるように言葉を紡ぎ出した。

「明日に限らず、今までのどの試合でも本来のアデミウソンを見せようと思ってピッチに立ってきたよ」

 ブラジル屈指の名門であるサンパウロFCの下部組織育ちで、10代当時は「新しいロマーリオ」とさえ称されたこともある逸材は、昨年途中からグロインペイン症候群に苦しめられてきた。

 今季も始動当初から別メニュー調整が続いたアデミウソンが藁にもすがる思いで向かったのが母国ブラジルの名医だった。

ブラジルのスポーツ医学は屈指。

 クラブのあるスタッフが、柏や神戸などでプレーしたポポのグロインペイン症候群を完治させたドクターとコンタクト。長年、ガンバ大阪でフィジカルコーチを務めたルイス・カルロス・ブローロ氏の太鼓判もあって、アデミウソンは4月に一時帰国する。

 当初の治療予定よりは長引いたものの、名医の腕は確かなものだった。

 余談ではあるが、ブラジルのスポーツ医学は世界屈指の水準だ。今季、広島の躍進を支えているパトリックも、2016年のガンバ大阪在籍当時、右前十字じん帯と右外側半月板を損傷。サンパウロ市内の病院で手術を受け、見事に完全復活を果たしている。

「今季、まだ2ゴールなので本人も納得していないと思うし、残り試合の大事さを考えても、(ダービーを)発奮材料にしてもらいたい」

 こんな思いとともにアデミウソンを先発で起用した指揮官の賭けは的中した。アウェイのヤンマースタジアム長居で、ブラジル人アタッカーは決して「代役」ではないことを証明するのだ。

セレッソを撃破した芸術ループ。

 オフサイドぎりぎりの裏抜けを狙い続け、カットインからの一発を持つファンは完全なるフィニッシャーだが、周囲を生かしながら相手ゴールに迫るのがアデミウソン。倉田秋は戦前、そのコンビネーションに自信を見せていた。

「1人で打開できる力が加わったことで、相手にはより脅威になる。コンビネーションプレーもアデ(アデミウソン)とは出し合えるので、そういうプレーも出して崩していきたい」

 ガンバ大阪がこの試合で最初に作り出した前半23分の決定機は、ピッチ中央でアデミウソンが潰れながら繰り出したパスに倉田が抜け出したもの。そして前半45分には倉田の絶妙なパスに抜け出したアデミウソンがキム・ジンヒョンの頭上を抜く、絶妙なループシュートで決勝点を叩き出す。

「シュウ(倉田)がトラップして少し顔を上げた瞬間、僕にボールが来るのは分かっていた」(アデミウソン)

遠藤からの縦パスを受け続けて。

 やはり、名手は名手を知るということだ。広島戦でもガンバ大阪が本来のパスワークを見せる時間は増え始めていたが、相手陣内でタメを作ったりスルーパスを供給したりするアデミウソンは、遠藤保仁からの縦パスを面白いように受け、攻撃に彩りを加え続けた。

「ダービーという特別なモチベーション、雰囲気もあった。それに加えてあまり、試合に出られていないというのもあったので、いつも以上に自分の持っているものを出し切りたい、チームのためにより貢献したいというところはあった」

 攻撃は言うまでもなく、課題の守備面でもハードワーク。81分間のパフォーマンスは、本来エースとして活躍すべき男のそれだった。

 サッカー王国でエリート街道を歩んできた逸材が自信を取り戻した一戦は、指揮官にとっても大きな意味を持つものだ。

「体のキレも感じられて、得点の匂いについても、さらに点を取れそうなところもあった。シーズン終盤にかけて、調子が上がってきてくれるのは非常に頼もしい」(宮本監督)

渡邉の相棒にバリエーションが。

 前線でタメを作り出しながら、相方となるFWの良さを十全に引き出す渡邉千真は、今のガンバ大阪に欠かせない存在だが、そのパートナー選びは指揮官にとっても嬉しい悩みになるのは間違いない。

 スペースのある展開や相手に対してはファンが、ブロックを形成し守りを固めて来るチームに対してはアデミウソンが、それぞれ有効になるはずだ。

 残されたリーグ戦5試合で、残留争いのライバルとの直接対決は実に4試合。アデミウソンも、フル稼働に向けて意欲的である。

「とにかく数字にこだわりたいし、1つでも多くのゴールを取りたいし、1つでも多くの試合に出たい。今日はゴールを決めて貢献できたのが嬉しいけど、これに満足せずもっと上を目指してチームに貢献したいね」

 帰ってきたクラッキ(名手)とともに、ガンバ大阪がJ1残留へのラストスパートをかける。

文=下薗昌記

photograph by J.LEAGUE


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