吉田輝星、最高の高校ラストゲーム。「金足だからしょうがないでしょ」

吉田輝星、最高の高校ラストゲーム。「金足だからしょうがないでしょ」

 10月10日、金足農高の吉田輝星がプロ志望を表明した。今夏の甲子園で金足農を秋田県勢103年ぶりの決勝に導き、日本中を沸かせたエースが、プロの世界に挑戦する。

 その吉田は約1週間前の10月2日、福井国体で高校最後の公式戦に臨んでいた。

 福井国体は台風24号の影響で日程が短縮され、準決勝以降が打ち切りとなった。金足農の試合は、勝っても負けても2回戦の常葉大菊川高戦1試合のみとなり、そこで勝てば1位が決まる。

 吉田にとっては、宮崎で開催されたU18アジア選手権の台湾戦以来、約1カ月ぶりの公式戦のマウンド。この日は今大会最多の8257人の観客がつめかけ、金足農のベンチの上にはカメラやスマートフォンを構えたファンが幾重にも重なった。試合前のスタメン発表で「3番・ピッチャー、吉田君」とコールされると、ひときわ大きな拍手が起こった。

球威、自信、ふてぶてしさ。

 しかし吉田がマウンドに上がり、セットポジションに入ると、甲子園のようなブラスバンドの応援がない福井県営野球場はシーンと静まり返り、観客はその投球を固唾をのんで見守った。

 まさに、吉田の時間。

 吉田はその時間を自在に操った。ポンポンとテンポよく投げ込んだかと思えば、じりじりするほど長い間を取る。矢のような牽制もあれば、気の抜けるような緩い牽制も見せる。

「マウンドは俺の縄張り」

 これは甲子園の決勝前夜、吉田が帽子のつばに太字で書き込んだ言葉だが、この日の吉田はまさにその言葉を体現していた。

 U18アジア選手権では、調子の上がらない立ち上がりを捉えられ、韓国戦、台湾戦で敗戦投手となった。しかしこの日は、「疲れがしっかり抜けたので、全然違う」と本来の球威を取り戻し、表情にも自信とふてぶてしさが戻っていた。

「152キロ、これは出たなと」

 初回からストレートが走った。145キロ、146キロ、148キロと球が勢いを増すたびスタンドはどよめいた。そして2回表、常葉大菊川の漢人友也を、自己最速を2キロ更新する152キロのストレートで三振にとり、球速表示を確認した吉田はガッツポーズを見せた。

「今日はしっかり腕を振れていて、調子は悪くなかったので、150も目指せるかなと思っていた。あの時は球場がざわついて、自分としてもリリースの時の手応えがあったので、『これは出たな』と。最後の試合で出せたのは嬉しいです」

 ざわついていたのは相手ベンチも同じだった。

 常葉大菊川の高橋利和監督はこう振り返る。

「球がうなってました。横から見ていると、彼のボールは一度下がってから、浮き上がるイメージ。『なんじゃこの球』と思って(苦笑)。これは当たらないぞと」

あ、もうこれ打てないなと。

 結局、常葉大菊川打線は吉田に対し5回無得点に抑えられ、5連続を含む11個の三振を奪われた。

「選手たちは、ウエストぐらいのボールだと、ストライクゾーンだと思って振りに行くんですが、すべてボール球で、ここ(目線)ぐらいにくる。感覚的には30cmから50cmぐらいズレがある。キレが違いますね。スライダーを打ってほしかったんですが、スライダーもいいし、最終的に落ちる球も決まり始めて、あ、もうこれ打てないなと。

 ピッチングも巧いし、3段階ぐらいレベルが上ですからね。バント作戦で行こうとしても、あのフィールディングでは……。それに、バントでもたぶん空振りしますね、あのボールは」と高橋監督はお手上げだった。

 吉田は打撃でも存在感を発揮した。1回裏に1死二塁の場面で初打席を迎えると、センター前に先制打を放つ。送球間にすばやく二塁に到達すると、塁上では何度もスタートを切るそぶりを見せ、投手をゆさぶった。

 6回表からライトの守備につくと、7回には頭上を越えそうな打球に飛びついて好捕し、一回転して球場を沸かせた。どこにいても、観客を惹き付けてやまない選手だ。

敵将まで野球小僧の顔になった。

 高橋監督は、「すっごいですよね。守備もめちゃくちゃうまいし、走ったら速いし、1人でガーッとかき回して、勝っていく。本当に“野球小僧”。一緒に野球やりたいですねー。絶対面白いと思う。やっぱり魅了されますよね」

 そう語る敵将まで、野球小僧の顔になっていた。

 金足農が6−0で迎えた7回裏は、先頭の吉田がセンター前ヒットで出塁すると、4番・打川和輝が安打で続き、無死一、二塁。捕手が一塁走者を刺そうと送球する間に、吉田はすかさず三盗を成功させた。そして5番・大友朝陽のスクイズで、吉田が7点目のホームを踏み、その瞬間、金足農のコールド勝ちが決まった。

「自分たちらしい野球で、最後にしっかりスクイズで点を取れたので、楽しかったです。まだ勝利の余韻に浸っています」と、吉田は試合後、穏やかな笑顔を浮かべた。

「終わり方、カッコよすぎだろ」

 高校野球について問われると、少し名残惜しそうにこう言った。

「トータルすれば辛いことのほうが圧倒的に多かったんですけど、甲子園で初めて野球の楽しさを知ったというか。それまでは、勝たなきゃいけないとか、このきつい練習に耐えなきゃいけないという思いばかりだったんですが、国体や甲子園では、野球が本当に、心から楽しかったです」

 吉田がホームを踏んでコールド勝ちを決め、両チームが整列した後、U18日本代表で共に戦った常葉大菊川の奈良間大己が吉田に言った。

「終わり方、カッコよすぎだろ」

 すると吉田は、トレードマークの白い歯をのぞかせて笑った。

「オレたち金足だからしょうがないでしょ」

 金足らしく、吉田らしく、高校野球を締めくくり、野球小僧は次なるステージへと挑んでいく。

文=米虫紀子

photograph by Kyodo News


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