世界を知る女子バレー荒木絵里香がコートで見せる大黒柱としての役割。

世界を知る女子バレー荒木絵里香がコートで見せる大黒柱としての役割。

 荒木絵里香(トヨタ車体クインシーズ)のサーブは何かを起こす。

 現在開催中のバレーボール女子の世界選手権では、そんな場面が毎試合のように見られている。

 その最たるシーンが、2次ラウンド最終日の10月11日に行われたブラジル戦、第1セットだった。

 3次ラウンド進出を争うブラジルとの直接対決で、日本は1セットを取れば3次ラウンド進出が決まるという有利な条件だった。

 ところが今大会不調だったブラジルが、この日は1セットも落とさず勝つという明確な目標のもと、高い集中力で攻守ともに隙のないバレーを展開。世代交代したとは言え、2008年北京、2012年ロンドン五輪で連覇を果たした元女王に、日本はじりじりとリードを広げられた。

元女王の焦りを生んだサーブ。

 しかし、18−22の場面でサーブに下がった荒木が流れを変えた。

 ブラジルはサーブレシーブが得意ではないフェルナンダ・ロドリゲスを、ガブリエラ・ギマラエスがカバーするシフトを敷いていた。荒木はその2人が、どちらが取るのか迷う場所を狙って揺さぶると、石井優希(久光製薬スプリングス)が立て続けにスパイクを決めて20−22と追い上げる。

 さらに、荒木はエンドライン際にノータッチエースを決め、次はネットインボールがコートに落ちて22−22の同点。焦ったブラジルにミスが出て23−22とついに日本が逆転に成功した。最後は新鍋理沙(久光製薬スプリングス)のブロックが決まり、日本は大逆転で第1セットを奪い、3次ラウンドへの切符をつかんだ。

 たとえ第1セットを失っても、その後のセットを取り返せば3次ラウンドに進める。しかし荒木にはその考えはなかったと言う。

「私はブラジルの底力を今まで何度となく見てきているから、彼女たちがここで終わるわけがない、という怖さをすごく感じていた。だから何としても1セット目を取りたい、と強く思っていました」

ジャンプ力は落ちてるけど。

 五輪に3度出場し、世界選手権も今回が3回目となる、勝負所を知るベテランならではの危機管理により、日本は6チームだけが進むことのできる3次ラウンドに進出した。

 今大会の荒木はサーブで攻め続けることができている。ボールは変化しながら正確にターゲットを狙い、崩す。そのサーブへの心構えを荒木はこう明かす。

「サーブは、ブロックと同じぐらい、自分の大きな仕事の1つだと思ってずっとやっています。チームの中でも、サーブでブレイクにつなげることが求められているのは感じるし、私はミドルブロッカーで、サーブのあとはベンチにさがって何もできない時間帯になるから、しっかり最後に何かいいプレーをして下がろう、という気持ちは常にあります」

 荒木は主将を務めたロンドン五輪で銅メダルを獲得したあと、出産のため1年のブランクを経て現役復帰し、現在34歳。「ジャンプ力は落ちてる」と苦笑するが、その分、難しいトスにも対応できるテクニックや経験でカバーし、プレーのレベルを維持している。

 むしろサーブの精度や、苦手だったレシーブについては以前よりも上がっている印象がある。

「最初がヘタすぎた分、伸びしろがいろんなところにたくさんまだ残っている。まだまだ巧くなれる部分はありますね」と笑う。

環境が変わってもバレーを。

 また、「若い頃より今の方が全然、バレーが楽しい」と荒木は言う。

「若い時は、きつい、つらい、だったけど(苦笑)。たぶんいろんなことを経験させてもらって、視野や考え方が広くなったからというのはあると思うし、自分の生活や環境が変わった中で、バレーをやれていることが当たり前じゃないんだとわかったからじゃないですかね」

 現役生活を後押ししてくれる夫や、娘の面倒を見てくれる母をはじめ、周囲の支えがあるからバレーを続けられると痛感している。「自分がしっかりとプレーで見せることでしか、感謝の気持ちは伝えられない」と荒木は現役復帰当初から言い続けてきた。

「きついことや苦しいことも含めて、今、すごくいろいろなことを味わいながらできています。代表期間は家族と会えないのがやっぱり一番きついというか……。でも今ここ(代表)にいられるというのは、当たり前のことじゃないから」

イタリア戦でチーム最多得点。

 荒木はいつも“全力”だ。プレーはもちろん、得点を決めるたびに体中で喜びを爆発させ、それがチームに勢いを与えている。

 3次ラウンドは6チームが2組に分かれて対戦し、3チーム中、上位2チームが準決勝に進み、最下位のチームは5、6位決定戦に回る。

「3次のこの戦いが、本当の戦い」と荒木が言ったように、そこには別次元の戦いが待っていた。3次ラウンド初戦は、攻撃力だけでなく守備でも日本を上回ったセルビアにセットカウント0−3で敗れ、日本は後がなくなった。

 第2戦は、今大会ここまで9戦全勝のイタリア。メダルがかかる試合の数少ない経験者の荒木が、クイック、ブロック、サーブすべてで得点を重ねてチーム最多の17点を挙げ、改めて大黒柱の存在感を発揮した。

 しかし日本はフルセットの接戦に競り負け、3次ラウンド2連敗で準決勝進出がなくなり、目標としていたメダル獲得の可能性がついえた。

「まだ、頑張れそうです」

 荒木は天を仰いだ。悔やんだのは、第5セット11−12の場面で、ブロード攻撃をミリアム・シッラのブロック1枚でシャットアウトされた1本だ。

 セッターがブロックを1枚にしたら、スパイカーは決め切るというのがチームの約束事。その後、イタリアのマッチポイントから、荒木のブロード攻撃とブロックポイントで13−14と追い上げたが、あと一歩、届かなかった。

「本当に悔しいし、勝ちたかったという思いしかない。自分があそこで1点、シャットされたボールを、決め切れていたら、展開が違ったと思う。点数的にすごく大事なところで、ゲームを動かしてしまったので、決めきれなかったのが本当に悔しいです」

“悔しい”しか出てこない。しかしその悔しさが、次へのエネルギーになる。残された今大会の1試合はもちろん、来年、そして再来年に向けても。

「今もこのレベルで、こういう世界トップの相手と自分が試合できているということが、すごくありがたいし、幸せだし、すごい充実感を感じながらこの大会を戦えているから……まだ、頑張れそうです」

 そう言って、最後にようやく微笑み、前を向いた。

文=米虫紀子

photograph by AFLO


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