決着のポイントは山下りの神?隠れた勝負所は「6区」だ。

決着のポイントは山下りの神?隠れた勝負所は「6区」だ。

「山を制する者は箱根駅伝を制す――」

 そんな格言が語られるようになったのは、いつの頃からだっただろうか。

“山”とは箱根駅伝における特殊区間の5区と6区のことを指す。平地での速さだけでは対応することができない異質の区間として、各大学ともに重要視し、1年かけてスペシャリストの育成に励むチームも少なくない。

 特に5区の山上りで快走を見せた選手は、「山の神」という二つ名とともに、一夜にして全国レベルのスターになる。駅伝ファンならずとも今井正人(順大卒/現トヨタ自動車九州)、柏原竜二(東洋大卒)、神野大地(青学大卒)といった名前は耳にしたことがあるだろう。だからこそ、最近は箱根の“山”といえば5区を指すことが多くなっていた。

 だが、実は近年の箱根路を振り返ってみると、面白い傾向が見えてくる。

 ポイントはズバリ「6区の重要性」だ。

6区で好走を見せ続ける青学大。

 例えば、昨季箱根駅伝4連覇を達成し、今季も優勝候補の筆頭に挙がる青学大を例に見てみよう。

 前述の神野が驚異の区間記録をマークし初優勝を飾った第91回大会こそ5区でも区間賞を獲ってはいるが、実はその後の3大会での区間成績は2位→8位→5位と山上りではそれほど圧倒的な強さを見せているわけではない。むしろ神野が抜けた後の直近2大会を見れば、優勝チームとしては低調な成績とすら言えるだろう。

 一方で山下りの6区では91回大会以降、区間1位と2位以外獲っておらず、いずれも区間記録に迫る、もしくは上回るような好走を見せて、後続チームに1分近い大差をつけている。

 東洋大に往路で先行を許した前回大会も、原晋監督は往路終了時点で「この差なら6区で間違いなく逆転できる」と自信を持ってコメントすると、言葉通りにあっさり逆転してみせた。早大から33秒リードで復路に入った前々回大会も、6区でライバルを大きく突き離し、事実上の勝負アリを決めたのだった。

 往路が終わった時点では「上手くいけば王者・青学大を倒せるかも――」と思った両校に引導を渡したのは、山下りで生まれた大きな差だったのである。

近年は差のつきやすい区間に。

 もうひとつ6区が重要となる理由が、2日目の“スタート区間”であるということだ。

 往路で良い流れを作ったチームは、いかにその流れを切らずにレースを進めることができるのか。一方で、初日が不完全燃焼だったチームは、どうやって流れを引き戻すのか。復路におけるそのチームのムードを作り出すのが山下りのランナーの走りなのである。

 例えば第92回大会、93回大会の6区で連続区間新記録をマークした日体大の秋山清仁(現愛知製鋼)は、いずれも13位だったチームの順位を一気に7位まで引き上げ、同校のシード権獲得に大きな影響を与えた。また、前回大会で優勝候補の一角と言われながら往路で9位と失速した東海大は、6区の中島怜利(3年)が区間2位と気を吐いたことでモメンタムを引き寄せ、総合順位を5位まで押し上げることに成功している。

 かつては「上りの5区では脱水症状やけいれんといったリスクもあり大きな差がつくが、下りの6区は差がつきにくい」と言われていた。だが、ここ数年の大会ではいずれも区間1位と最下位の間に5分以上もの大差がついており、油断をすると一気において行かれる勝負区間になりつつある。近年は、山下りの6区がチームの趨勢を決める1つのポイントになってきているのである。

今季の“山下りの神”候補は誰?

 それでは、それを踏まえた上で今季の“山下りの神”候補を見て行こう。

 まず名前が挙がるのは、やはり優勝候補の筆頭・青学大の小野田勇次(4年)だ。1年生から山下りを務め続け、区間2位と1位以外獲ったことがないという抜群の安定感を誇る。タイムもいずれの年も、区間記録を窺う勢いだ。「今年は選手一人ひとりが個性をしっかりと発揮したうえで、学生駅伝3冠を目指す」と気炎を上げる原監督の余裕の裏には、間違いなくこの選手がいると言ってよい。

 次点は前述・東海大の中島だろう。

 3年生の同級生に黄金世代が揃う東海大にあって、新入生の頃から「僕には箱根しか注目を浴びるチャンスがない」と、持ち前の負けん気の強さを見せていた。今季はそんな反骨精神もバネに、トラックレースでも力を見せている。今季の駅伝シーズンは、ここまで出雲駅伝で失速、全日本大学駅伝ではメンバー漏れと忸怩たる思いを抱いているはずで、学生三大駅伝の最後となる箱根駅伝では、ここ一番の爆発が期待できそうだ。

ダークホースとなりそうな2人。

 ダークホースになりそうなのは、法大の佐藤敏也(3年)と中央学大の樋口陸(4年)の2人。佐藤は2年連続して区間3位で山を駆け下っており、下りへの適性は十分。平地での走力も十分のため6区を回避する可能性もあるが、法大は昨季山上りの5区で区間賞を獲得した青木涼真(3年)も健在で、平地のランナー次第では上位の実力校を切り崩す可能性も十分だ。

 樋口は昨季こそ区間6位に留まったものの、ルーキーの頃から3年間チームの順位に関わらず安定した走りを見せており、最終学年となる今季は4年生としての意地も見せてくれるはずだ。例年、戦前の想像以上の結果をたたき出し続ける中央学大だけに、独自の調整法からの好走が期待される。

 6区で区間記録を持つ前述の秋山は、山下りの極意についてこう語っている。

「何より前傾姿勢が重要です。下りになるとどうしても体が後ろに反ってしまいがちですが、そうなるとブレーキがかかってしまう。体をできるだけ前に倒して、胸を張る意識で走るとスムーズに進んで行きます。下りで前傾姿勢をとると当然、スピードは出ますが、そこで怖がらずに“ノッて”いくのが大事なんだと思います」

 絶対王者・青学大が史上3校目となる箱根駅伝5連覇を達成するのか。それとも打倒・青学大に燃える各校が前評判を覆しての勝利となるのか――。

 95度目のレースの結末は、天下の険を“下った”ころに見えてくるのかもしれない。

文=別府響(文藝春秋)

photograph by AFLO


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