吉田輝星を1位指名した日本ハム、緊迫と高揚のドラフト当日舞台裏。

吉田輝星を1位指名した日本ハム、緊迫と高揚のドラフト当日舞台裏。

 1日にすべてを賭ける。北海道日本ハムファイターズの無数の思いが、その時に注がれる。それを背負って1年に1度だけのステージへと向かう者たちが、瞬時の判断でチームの将来像を描いていく。

 去る10月25日。ドラフト会議である。

 異様な空気に満ちる。グランドプリンスホテル新高輪の一室が、各12球団の控え室である。ファイターズのために準備された部屋の中央には、長机4台を組み合わせたスペースがある。真っ白なテーブルクロスで覆われている。その上には、独自の指名予想が派手に躍るスポーツ紙が各紙数部ずつ置かれている。

 各地の逸材たちを網羅してきたファイターズのスカウトの方々は、午後1時過ぎから三々五々、そこを目掛けて集結し始める。本番の約4時間前である。その表情は一様に、晴れやかに見える。

 追い掛けてきたアマチュア選手たちの評価に時に心は揺れ、時に指名対象から外す苦渋の決断もして、この日を迎える。最後の最後に推薦した選手たちが、指名されるのか否か。あとは待つのみである。

各スカウトは談笑するものの。

 ファイターズの場合は、編成権を持つチーム統轄本部のトップのみが選択権を持つ。それが球団のポリシーであり、スタイルである。スカウトの方々は、この日の最終的な指名候補リストの全容を知らないのである。

 すなわち指名の可能性が高いのか低いのかも、明確には把握していない。あとはカバーしているエリアの選手が指名されるのか否かの判断を委ね、待つだけという状況なのだ。

 各スカウトの晴れやかさは、覚悟の裏返しのように見える。皆で談笑しながらも、注目選手をマークしてきたスカウトは、少し「心ここにあらず」の雰囲気を感じる。甲子園に象徴される公式戦だけではなく、練習試合やグラウンドへも足繁く通い、才能や適性を見極めてきた1年間。その成果が、この1日で決する。しかもトップの方々へと、命運を託すのである。腹をくくって、祈るような思いでその時を待っているのである。

会議直前に1位入札の名が。

 午後3時過ぎ。栗山監督も含めて、今年のドラフト会議に関わるファイターズの全メンバーがそろった。広報は、小職を含めて2人が同行。取材対応、会場での報道陣への資料配布が主な業務である。資料とは、指名した選手に関しての寸評など、各球団が独自で作成した簡単なプロフィール、紹介文のようなものである。

 その一室の端に、パソコン等で作業するスペースを設けていただく。広報は「脇役」であるから、厳かなムードを乱す、壊すことのないよう細心の注意を払う。それが最重要業務であると、自認している。初めて携わった昨年、それを確認できた。ただ高揚感をお裾分けいただける。ひた隠しにするが、本番が近づくにつれて、広報でもテンションは上がる。

 出陣である。竹田社長、栗山監督らテーブルに着くメンバーが会議場へと向かっていく。それは午後4時40分ごろ。その直前に初めて、スカウトを含めた全員に1位入札する選手の名前が知らされる。スカウト、私たち広報も含めて控え室で見守る面々が拍手で送り出し、見送る。

 競技経験はないが、よく目にするラグビーやサッカーの試合前のロッカールームの雰囲気に少し似ているような気がする。あとは、待つのみなのだ。

甲子園前から注目していた。

 代表者が退室した後、控え室内の緊張は一瞬緩み、高まっていく。設置されているホワイトボード。最年少のスカウトが手書きで、12球団が1位入札する予想選手の名前を記していく。山田スカウト顧問らベテランたちが名前を読み上げていき、各球団の枠を埋める。

 ちなみに今年、他11球団のシミュレーションはパーフェクトで正解していた。難度が高い球団も新聞各社の予想からうかがえたが、その的中には最敬礼するしかなかったのである。

 ファイターズの指名結果は、ご存知の通りだろう。金足農業高校の吉田輝星投手を1位で指名した。確定した瞬間、控え室内に歓喜の拍手がこだまする。担当は、球団OBの右腕・白井康勝スカウト。その場にいた全員が1人ずつ「おめでとう」と、握手をする。昨年は担当エリアからの指名がなかった白井スカウトにとって祈るような気持ちで迎えた瞬間だったであろう。

 甲子園でブレークする前から「今年は秋田にいい投手がいるんですよ。何とか……とは思っている」と、何度も秘めた思いは聞いていた。追い掛け続けた選手と巡り巡って、縁が結ばれた。その姿を見ているだけで、小職の心も弾むのである。

担当スカウトが味わう無情。

 反面、無情でもある。自身の担当エリアから指名されなかったスカウトの方たちもいる。それはスカウト個々の眼力の差ではなく、チームの編成方針、他球団の指名状況が影響するのだ。不条理であるが、受け入れざるを得ない現実である。推薦していた選手が指名されたスカウトはすぐさま指名あいさつなどの打ち合わせを、高校など各所属先と忙しそうに行なっている。

 逆に、指名選手がなかったスカウトは少しまどろみながら、その様子を静観している。言葉は少ない。異様な雰囲気が漂っている。気持ちを切り替え、ケジメをつけて、来年のドラフトへ向けて再スタートをしようとする気概のようなムードを醸し出している。

 そして、球団史上初めて育成ドラフトで富山GRNサンダーバーズ海老原一佳選手を指名して、運命の1日は終わった。

清宮に続いて、吉田が。

 午後9時30分を過ぎたころ、解散した。広報として2度目のドラフト会議。昨年は早稲田実業学校の清宮幸太郎選手が1位指名され、今年は吉田投手だった。比較的、脚光を浴びていた2人との縁に恵まれた。その恩恵を受け、ドラフト会議の中枢にいる当事者ではなくても、2年連続で充実した1日になったのである。

 その帰り道、担当記者2人と品川駅前で偶然、遭遇した。立場は違っても、ともにドラフトのあの空気をともにした。自然な流れで、一献を傾けることになった。わずか1時間ほどだったが、すべてから解放されたのである。

 翌朝、羽田空港へ向かう。午前7時50分発の便で、秋田へと入った。出張が多いサラリーマン人生だが、初めて訪問した地である。空港から、秋田駅行きのバスへと乗車する。同じ日本海側の故郷・新潟に少し似た景色、湿気の多いしっとりとした空気に少し癒やされる。人も温かい。降車したいバス停を告げると運転手の方は親切に、いろいろとその周辺の説明をしてくれた。

 そんな優しさに包まれ、秋田駅から追分駅へ。金足農業高校の最寄駅である。そこから徒歩で、約15分。目的地へたどり着いた。

金足農が日本を魅了した理由。

 少し、メーンテーマの「ドラフト」から脱線する。実習中とみられる作業服を着用した生徒の方々と、校内各所で出会った。皆、屈託がなく礼儀正しい。小職の身分が分からずとも、すれ違えば全員が「こんにちは」と、元気良くあいさつをしてくれた。その校風に、まず感銘を受けた。

 同校OBでもある渡辺勉校長を含む、職員の方々も在校生と同じでアットホームである。渡辺校長は言った。

「今、こういう時代に一番大切なのは人とのコミュニケーションだと思うんです。そういうところが重要なんです。生徒たちは社会に出てからそれが分かりますし、人に対してしっかりできないと社会で通用しないと思っているんです」

 今年、野球部が夏の甲子園100回大会を一気に駆け抜け、野球ファンだけではなく日本中を魅了した根幹の1つを、垣間見た気がした。

学校の食堂で偶然にも……。

 本題へ戻る。同校の方々と、当日に予定されていた指名あいさつの段取りを打ち合わせした。ファイターズからの出席者の栗山監督、大渕隆スカウト部長、白井スカウトよりも先乗りし、到着まで待機することになった。渡辺校長は「お昼、食べましょう。時間ありますから」と、生徒たちが集っていた校内の食堂へ誘導してくれた。「カレーでいいですよね」にもちろん即答すると、同校長がふと指を差した。

「あそこに座っていますよ、吉田は」

 その先、何人かの集団の中に食事中の吉田投手がいたのだ。

 吉田投手はカレーライスを食べていた。その瞬間は突然、訪れたのだ。あいさつはしたが、お互い少々、戸惑い気味ではあった。それは不意過ぎたからだろう。きっちりと対面する予定だったが、心の準備はしていない。想定外で、不条理な初対面だったのである。

 しかも小職は、指名あいさつを控えた栗山監督らよりも先に会ってしまった。思いがけない出来事だったが、ドラフト指名後、吉田選手が初めて接したファイターズ関係者になったことは少々、バツが悪かった。

 美味なカレーライスを堪能しながら、ふと思った。

 ドラフト会議。少し強引だが、そこで結ばれる縁とはこういうものなのかもしれない。

文=高山通史

photograph by Kyodo News


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