根尾昂が捕手になるのは本当にナシ?ぜひ一度試してほしい数多くの理由。

根尾昂が捕手になるのは本当にナシ?ぜひ一度試してほしい数多くの理由。

 ドラフトが終わって、日本シリーズだ。

 その先は、いわゆる「ストーブリーグ」になって、今年の野球の季節も終幕に近づく。

 今年のドラフトは興味深かった。

 根尾昂(大阪桐蔭)の4球団指名はわかるが、千葉ロッテの単独と思われた藤原恭大(大阪桐蔭)に楽天と阪神も手を挙げ、多くてもオリックスと広島の2つだろうと踏んでいた小園海斗(報徳学園)には、間際になってソフトバンクとDeNAが“参戦”してきたから、もっと驚いた。

 センターラインの世代交代。

 そんなテーマを抱えたチームが、たまたま重なったのだろう。来年の「2019ドラフト」に根尾、小園クラスの遊撃手が見当たらないのも、指名が重なった理由かもしれない。

 今年のドラフトは「根尾昂」のためのドラフトだった。正直、そんな印象も強かった。

「根尾は捕手だ」とずっと言ってきた。

「根尾は“捕手”でしょう!」

 この秋口あたりから、ラジオでも、テレビでも、人の集まりでも、ずっと言い続けてきたし、文章にもしてきた。

 そのたび“現場”はドッと沸くのだが、そのあとすぐに笑い声があがる。

 冗談だと思うらしい。私は、そういう類いの話で決して冗談を言うことはない。私なりの根拠を持って、大まじめに話してきたのである。

 だいぶ有名になった話だが、中学時代の根尾昂は、スキースラローム(回転)で世界大会に出場するほどのトッププレーヤーだった。

 おそらくその時に養われたものなのであろう。

 下半身……具体的にいうと股関節、ヒザ、足首、もっと言えば足の指の関節まで、実に強靭に、かつ柔軟に“連動”できる。

 そのメカニズムを活用して、マウンドに上がればスムースな体重移動で腕を振り、外野はもちろんのこと、難しい「ショート」のポジションまで、半年かからずにこなしてしまった。

 ショートを守って、三遊間から粘っこい下半身の連動と踏ん張りで矢のような一塁送球を見せつけられる時、「こいつ、キャッチャーだろう……」と、いつもため息まじりにつぶやいてしまう。

 彼ほど、下半身の粘りと細かなフットワークを生かして、機敏で高精度なロングスローができる高校生はそうはいない。

投手の気持ちがわかることもプラス。

 話してみてわかったが、野球的好奇心も旺盛で、評判通り頭の回転も速い。

 これだけ条件が揃っていて、なぜ「捕手」という案にみんなそんなに驚き、笑うのか。

 さらに挙げると、根尾昂が「投手」としての経験値が高いのも、彼を捕手に推す理由の1つだ。

 投手の気持ちがわかっている。そう考えるからだ。

 バッテリーを組む上で、捕手がついついやらかしてしまいがちなのが、「ひとりよがりの配球」というやつだ。

 まじめで勉強熱心で、人一倍相手打者を研究、観察している捕手ほどやらかしがちなのが、これだ。

 相手打者をやっつけるために、知るかぎりのデータを駆使して、絶対打ち取れる「配球プラン」を作る。

 初球から打ってくるバッターじゃない。それなら、変化球で入ろう。よっし、いきなりフォークだ。外に落とそう。バッターはあわてるだろう。打ちにくるはずだ。そこで、対角線のインハイへ。胸元を速いので突いて追い込む。1つ外す。はっきりしたウエストなんか使わない。外に、スライダーでボール1つ外して……。

 この妄想プランを投手に明かしたら、たぶん鼻で笑われるはずだ。「こんな難しいこと、できるわけないだろ。それも立ち上がりから」、と。

 これが、投手を経験したことのない捕手の発想なのだ。

 ボールを投げる投手が、果たして「できる」のか「できない」のか。

 いちばん肝心なそこのところが欠落して、ひとりよがりの「自分だけに美しく見える絵」を描いてしまう。

 まさに、絵に描いたモチ。

根尾ならば投手目線になれる。

 投手を経験している選手には、そうした心配が少ない。少なくとも、俊英・根尾昂捕手はそうした愚をおかすことはないと見ている。

 むしろ、投手目線で状況を見渡して、今日バッテリーを組んでいるこの投手の実力で、今日の調子なら、どんな配球をしてあげれば快適に腕が振れるのか、気分よく全力投球できるのか。

 そうした発想で、投手をリードしていける捕手になってくれるのではないか。そんなイメージがあっさり頭に浮かぶ。

ドラフトでの捕手指名は6人。

 捕手がいない、捕手が育たない……。

 うわごとのように繰り返すスカウトや現場の指導者の方がたくさんいらっしゃる。

 実際、次期レギュラーマスクのめどが立たずに悩んでいる球団は数えきれないほどあるのに、今年のドラフト会議で指名された「捕手」が何人だったのか、ご存じだろうか?

 高校4、大学2、社会人なんと0……合わせて、わずか6人(育成指名除く)。ちなみに、お世話する「投手」は45人も指名されている。

 捕手の中から「捕手」を探す時代は、すでにして終わっている。

 6年も7年も前から言ってきたことだ。「斎藤佑樹(日本ハム)はキャッチャーだ!」と書いて、大笑いされたこともある。

選手の適性を原点に返って探る。

「野球」というスポーツを取り囲む社会の事情も、だいぶ変わってきている。

 子供の数が減っている。野球の競技人口の減少。それにつれて、ドラフトの意味、育成の現実も変わらざるを得ない。

 昔みたいに、「10人獲って1人、2人モノになってくれればいいのよ……」そんなノンキなこと言ってる時代じゃなくなっている。

 その10人が、7人になり、5人になろうとしている。獲得した選手すべてを育てて活用しなければならない時代になり始めている。

 野球が9人で行うスポーツであることが変わらないかぎり、試合の時のベンチ入りが20人であり、25人であることが変わらないかぎり、野球を志す人たちを、より有効に生かさねば、「野球」という競技そのものが立ち行かなくなる近未来が来ないともかぎらない。

 ならば原点に立ち返って、選手の適性を探る必要があるのではないか。

 たとえば、高校まではショートをしていました……そういう選手がいたとしても、ちょっと待てよ、この選手ひょっとしてキャッチャーのほうが、適性があるのでは……。そんな発想があってもいい。

 そこに、思いもしない“可能性”の芽を見つけないとも限らない。

 もちろん、本人にやる気、意欲があるかどうか、そこがいちばん肝心なところだが、稀代の逸材・根尾昂なら、試してみれば捕手という仕事の興味深さが彼の野球的好奇心の琴線に触れるのではないかと、勝手に考えている。

 この国の野球の将来に少なからず危惧を抱いている者の、切なる願いである。

文=安倍昌彦

photograph by Hideki Sugiyama


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