“甲斐キャノン”が広島ベンチを縛る。「機動力のカープ」がもう走れない?

“甲斐キャノン”が広島ベンチを縛る。「機動力のカープ」がもう走れない?

 阻止率100%。

“甲斐キャノン”がまたもカープの足を封じた。

 2点リードの5回2死、広島の攻撃だった。田中広輔内野手のカウント1ボール2ストライクからの4球目に、一塁走者の安部友裕内野手がスタートを切った。

 外角に流れる141キロのシンカーをつかんだソフトバンク・甲斐拓也捕手が「キャノン」を発動した。コンパクトな動作から放たれた送球が、二塁ベースで構える今宮健太内野手のグラブに収まる。あとは滑り込んでくる安部にタッチするだけだった。

「準備していたが、意識はしていなかった。走ったのは見えたので、あとは自分の送球をするだけだった」

 第1戦から4度目、その広島の足攻をすべて封じた甲斐は平然とこう語った。

広島の自信を砕いた甲斐の肩。

 日本シリーズのカードが決まった直後から、広島の機動攻撃を甲斐がどう封じるのか、が勝負のポイントの1つとされてきた。

 まずは延長12回の引き分けとなった第1戦の9回2死から代走・上本崇司内野手の二盗を刺した。

 実はセ・リーグのクライマックスシリーズでほぼ同じシチュエーションがあった。巨人とのファイナルステージ第2戦。1点のビハインドで迎えた8回2死から代走で起用された上本が甲斐と双璧と言われる鉄砲肩の巨人・小林誠司捕手を相手に二盗を決めているのだ。

 この“成功体験”から広島・緒方孝市監督が自信をもって仕掛けた作戦だったが、甲斐はこれをあっさり封じた。

 第2戦では、鈴木誠也外野手のタイムリーで2点を追加した5回1死一塁での鈴木の二盗を阻止した。

 これはボール1から仕掛けたエンドランだった。しかしボール1からの2球目を松山竜平外野手が空振りして、結果的に盗塁というかたちになった鈴木をシャットアウトした。

 第3戦でも初回1死一塁から一塁走者・田中と打席の丸佳浩外野手の間でエンドランを仕掛けたが、これも丸が空振りして結果的に盗塁となった田中を甲斐が仕留めている。

 そして第4戦では再び盗塁を仕掛けての失敗だった。

盗塁阻止率のリーグ1位と2位が。

 付け加えて言えば第1戦の延長11回にも広島は2死一塁から野間峻祥外野手が走って、これもアウトになっている。このときの捕手は甲斐ではなく高谷裕亮捕手だった。ただ今季のパ・リーグの盗塁阻止率1位は甲斐の4割4分7厘で2位は高谷の3割8分5厘。ソフトバンクは阻止率1、2位の捕手がホームを固めているわけである。

 そしてこの5度の盗塁阻止がもたらしている意味は、決して広島の盗塁を阻止した、走らせなかったという事実だけではないのである。

「サインを出すのは監督ですけど、確かに制約が出てしまっているのはあるかもしれない」

 こう語るのは広島の玉木朋孝内野守備・走塁コーチだった。

甲斐のせいで作戦の幅が狭くなった。

 広島にとってやっかいなのは、作戦の幅が大きく狭められてしまっていることなのだ。

 前述したように決して広島ベンチも甲斐キャノンに、指をくわえて殺されるのを待っていただけではないのである。

 野球のセオリーとしては、打順にもよるが一塁に走者を出したときは、無死なら送りバント、1死ならヒットエンドラン、2死なら盗塁というのが常道とされている。ここからいかに相手バッテリーや走者と打者の兼ね合いを考えてアレンジしてサインを出すか。それがベンチワークなのである。

 実は過去に緒方監督が、CSを含めた短期決戦で多用してきたのは送りバントだった。

 シリーズ開幕前にこのコラムで書いたが、2年前の日本ハムとのシリーズでは第5戦までに13回先頭打者を出して、そのうち第3戦の無死三塁を除く12回で7度も送りバントを選択していた。

 ただ、この日本シリーズではここまでの4試合で8回、先頭打者を出して送りバントを選択したのは2回だけだった。

 1度目が第1戦の5回に8番の安部が出塁して9番の大瀬良大地投手の代打・曽根海成内野手が送ったもの。2つ目が第2戦の1回に先頭の田中が二塁打を打って菊池涼介が三塁に送ったもの。いずれも他の作戦が考えづらいシチュエーションでの選択だった。

 過去の経験、失敗から、このシリーズでの緒方采配は、明らかに変わっていたといえるわけである。

捕手ではなく投手の隙を突く……。

 広島にはセ・リーグダントツの95盗塁、成功率6割6分という足がある。

 手堅い送りバントの代わりにシーズン中から多用してきたエンドランや盗塁など機動力を使った作戦で揺さぶりをかける。

 特に第1戦を引き分けとして第2戦に先勝したことで、エンドランや盗塁というシーズン同様の動く野球でさらに勢いをつけようとした。

 しかし、そこに立ちはだかったのが“甲斐キャノン”だったわけである。

「盗塁をあまり試みなくなっている。相手になかなかスタートを切らせない」

 この日の試合後に、ソフトバンクの工藤公康監督が指摘したように、甲斐の存在が相手の作戦に制約を与えているのは確かだ。

 機動力が使えなくなれば、広島ベンチの選択肢はどんどんと狭められて送りバントが中心にならざるを得なくなるかもしれない。その一方で、それでも走る勇気を持てるのか。

 第5戦以降の戦いの大きな焦点になるのが、そこで繰り広げられる暗闘なのである。

「(甲斐は)動作も速いし、送球も強い。ただ(走者は)投手と勝負ということを意識しないといけない」(広島・高信二ヘッドコーチ)

「我々が勝負しなければならないのは、投手になる」(玉木内野守備・走塁コーチ)

 広島は改めて投手のモーションや牽制の癖を再チェックして、いかに投球モーションを盗めるかに勝負をかけるはずだ。

 捕手の肩が相手ベンチの動きを縛り付ける。

 今年の日本シリーズは異例の戦いとなっている。

文=鷲田康

photograph by Hideki Sugiyama


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