北海道がスプリンターの聖地化。寒さのハンデを上回る魅力とは。

北海道がスプリンターの聖地化。寒さのハンデを上回る魅力とは。

 今シーズンのトラック競技も、10月上旬で主だった大会が終了した。

 トラック競技の中でも、短距離について、シーズンが盛んになった頃から話題になっていたことがある。

 北海道から次々に有望な選手が育ってくることだ。

 少し前で言えば、2008年の北京五輪4×100mリレーの銅メダリスト、高平慎士の名前が挙がる。さらに女子では、北京から3大会五輪出場、今なお第一人者である福島千里をはじめ、北風沙織、100mハードルの寺田明日香も北海道出身だ。

 今シーズンは、御家瀬緑(みかせ・みどり)が頭角を表した。高校2年生の御家瀬は、日本選手権に初めての出場にして100mで決勝に進出、4位に入ったのである。この好成績もあって、アジア競技大会のリレーメンバーにも選出。高校生では唯一の代表入りで、鮮やかな台頭ぶりで脚光を浴びた。そのアジア競技大会では、男子200mで23歳の小池祐貴が金メダルを獲得している。

冬の長さはハンデだけでない?

 これだけ次々と北海道出身の選手が活躍するのだから、注目が集まるのも無理はないだろう。ただ、北海道が陸上に向いているとは言いがたい。

 なにより冬の季節になれば、降りしきる雪が練習での障壁となる。練習するための場所として、不利な条件だと捉えられるのも、決して無理はない。競技は変わるが高校野球でも、北海道の高校はハンデがある、という話を以前、聞いたことがある。

 陸上でもこのマイナス点が当てはまる一方、“そうではない”と北海道の陸上関係者から耳にしたことがある。他の地域よりも冬が長く、練習に制限があることで、過度な練習も防げるのだと言う。つまり、練習しすぎでつぶれることがないのだ。

 また冬場に練習しづらいという条件では、指導者の能力も試されることになる。代表例が、福島千里らを育てた中村宏之氏だ。

手本となる選手がいる好循環。

 中村氏は他の指導者なら嫌がる、球技を練習に取り入れるなど、ユニークな指導方針を打ち出してきた。練習環境に制限があるからこそ、それを逆手にとった指導方法で臨んでいる。自身が高校教員として教えていた頃に原点がある。廊下をただ走らせても気持ちが続かないことから、いかに気持ちを途切らせずに取り組ませるかという発想を持ったという。

 監督を務める北海道ハイテクアスリートクラブのインドアスタジアムでは、小さなハードルを並べて練習させることが有名となった。ピッチを身につけるためだったが、そうしたアイデアもまた、制限があるから生まれてきたもの。

 また、小池が高平を憧れの存在としてきたように、手本となる選手がいて、それを追う選手が伸びる。この好循環も、次々とスプリンターが育つ要因と言えるのではないか。

 御家瀬は福島が当時所属していた北海道ハイテクアスリートクラブに小学校高学年から通い、福島とも知り合った。福島はすでに日本女子短距離で大活躍していた頃だ。福島が目標となり、その後を追いかけてきたのである。

指導者同士の情報交換も。

 中村氏にとどまらず、指導者同士の情報交換もあって、熱心な指導者は各地域に存在する。先輩と後輩が縦の循環なら、それは横の循環と言ってもいいかもしれない。

 ここまで、北海道出身の短距離選手が目立つこと、そしてその理由を見てきた。

 それらだけが答えではないかもしれないが、ここに名前をあげた選手ばかりでなく、若い世代にも有望視される存在がいるだけに、北海道から、また次代を担う選手が出てきたとしてもおかしくはない。

 2年後へ向けて、いやその先に向けても、楽しみになってくる。

文=松原孝臣

photograph by Getty Images


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