“古豪”復活を目指す筑波大。文武両道プロジェクト8年目の足跡。

“古豪”復活を目指す筑波大。文武両道プロジェクト8年目の足跡。

 さばさばとした口調の中に、一抹の悔しさがにじみ出ていた。

「気象条件が良かったので、もうちょっと上位にいけたかなと。決して力がないわけではなくて、本来の力が出せなかったです」

 弘山勉駅伝監督率いる筑波大の箱根駅伝挑戦が、今年も予選会で潰えた。上位10名の総合タイムは10時間55分23秒。順位は17位。本大会への出場権を獲得できる11位以内に滑り込んだ上武大とはタイムで8分32秒もの大差をつけられた。

 いったい何が足りなかったのか。監督が続けて話す。

「チームとしての目標は10時間46分ちょっとだったので、それを出せていれば通ったんです。でも、チーム5番手以降がみな想定よりも1分以上は悪かった。実力を出せなかったのが中間層の選手に偏ったのは、予選会に向けてのアプローチがちょっとオーバー気味だったのかな。もう少し細かなグループ分けをして練習を組んでいたらここまでの誤算はなかったのかもしれません」

 筑波大はいわゆる「オリジナル4」のひとつ。1920年に開催された第1回箱根駅伝に明大、早大、慶大とともに出場。前身の東京高等師範学校が初代王者に輝いている。しかし、優勝はその1回のみで、本大会出場は1994年の70回記念大会以来遠のく。

 復活プロジェクトが立ち上がったのは2011年のことだった。

 筑波大のOBのみならず、往年の駅伝ファンにとっても、プロジェクトの進み具合は気になるところだろう。

 やはり国立大ならではの指導の難しさがあるのだろうか。

「うちはわりと理工学群の部員が多いんですけど、やはり授業がたくさんあって大変そうだなと思います。立川での予選会も授業を終えてから向かう選手は現地に着くのが20時前後になる。それからミーティングだからかなり遅いですよね。ただ、プロジェクトの大きなテーマが文武両道なので、なんとかそこは工夫していくしかない。勉学のハードルを下げずに、どれだけ陸上を生活の中で突出させられるか。本気度が試されているんだという話は学生たちにもしました」

入部希望者は誰でも拒まない。

 取材に訪れたこの日も、全体練習が始まったのはもう日が暮れようかという時間からだった。部員自らウッドチップを撒いたというクロカンコースに集団のかげが伸びていく。マネージャーはいない。監督自らがタイムを計り、部員は走ることに専念する。集団の中でのスピードにややばらつきは見られるが、個々の走りは悪くない。監督が言うように、実力は着実に伸びているのだろう。

 筑波大では、陸上競技部はあくまでも課外活動の位置づけだ。入部を希望するものは誰であっても拒まない。「入部時は女子選手より遅かった選手が5000mで1分以上タイムを縮めた例もある」という。

 チームの中心は現2年生。昨年、陸上競技経験のある(5000m14分台の記録を持つ)選手が9人も入部し、その中には駅伝の名門である佐久長聖高でキャプテンを務めた相馬崇史の姿もあった。

「彼は将来、マラソンがやりたいということで一般入試を経て筑波に入ってくれました。やはり存在は大きいです。ストイックにやっていますし、周りにも良い影響を与えてくれている。本来なら前回、彼が筑波のユニフォームを着て箱根を走ってくれる予定だったんだけど、直前のケガでね……。今年も関東学生連合チームに選ばれたら、5区を走らせると面白いですよ。幻の区間賞を狙えと言っていたくらい力はあります」

箱根のレベルが凄く上がっている。

 弘山自身もかつては筑波大の主力だった。選手時代は4度箱根駅伝を走り、区間2位も獲っている。今の選手に足りないと思うことはどんなことだろう。

「学業が忙しいからできないわけじゃないと思うんです。ただ、箱根のレベルが以前よりもずっと上がってますからね。今はもう実業団並み。練習も自ずとそのレベルが求められてきます。本当は選手一人ひとりの個性や特徴にあわせた練習を処方していきたいんだけど、どうしても今は選手層を厚くするために学年も関係なく強化せざるを得ない。そこが指導者としてのジレンマです」

 弘山が監督に就任して早3年。環境は徐々にだが変化してきている。足りない資金を補うため、クラウドファンディングを利用して広く活動資金の支援を求めた。週3回ではあるが、選手への夕食の提供が可能になった。研究室を利用して運動生理学的なデータをとり、学生自らがそれを研究テーマとして取り組むなど、筑波らしい試みも始まっている。

学生に考えさせてやり抜く。

 今、一番欲しいものは何だろうか。

「食堂です。選手全員が入れる食堂。あそこでの会話が大事なので」

 現在は大家さんの好意で提供していただいている寮に学生たちは分かれて住んでいる。基本は自炊。シューズなどの提供もない。実績のないチームゆえスカウティングにも苦労すると話すが、監督の表情は決して暗くない。復活への道筋が見えてきているのだろう。

「うちは基本、学生に考えさせて、判断させて、決めたらそれをやり抜くという方針で練習をしています。選手にはより上の設定でやりたいという意欲があるし、タイムが伸びているのも確か。競技力だけでなく、人間力も磨いて箱根に行く。光はけっこう近くに見えているんですけどね」

 前々回の箱根駅伝予選会は24位、前回は19位、そして今年は17位──。復活プロジェクトが当初に掲げていた「5年以内に本大会出場、10年以内に優勝」の目標は見込みが甘かったと言うしかないが、8年目の成長の足跡は確かに残した。

「来年の予選会はちょうど自分の誕生日なんです」

 そう言って笑う監督には、誕生日と箱根駅伝出場の両方を祝い、二重の喜びに包まれる近未来が見えているようだ。

「昔箱根を走った先輩方もそうですし、この20年間で努力したけど走れなかったOBの方々が熱心に応援してくれています。彼らのためにも早く良い報告がしたい。もちろん、大家さんにもね(笑)」

文=小堀隆司

photograph by Kiichi Matsumoto


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