ファンジオ伝説に並ぶ5度目戴冠。成熟のハミルトンがF1で学んだこと。

ファンジオ伝説に並ぶ5度目戴冠。成熟のハミルトンがF1で学んだこと。

 ある者は言う――F1は最も速いマシンを手にした者が勝つ。

 だが、勝者は言う――F1はマシンを最も速く走らせた者が勝つ、と。

 2018年のF1世界選手権は、第19戦メキシコGPでドライバーズタイトルが決定した。舞台は昨年と同様メキシコ。

 タイトル争いを演じた2人のライバルも昨年同様、メルセデスのルイス・ハミルトンとフェラーリのセバスチャン・ベッテルだった。そしてチャンピオンに輝いたのも、1年前と同じハミルトンだった。

 ハミルトンの2連覇という結果だけを見れば、'18年シーズンは昨シーズンと変わりないように見えるが、通算5度目のタイトルとなった今シーズンの戦いは、1年前とは似て非なる激闘だった。

開幕3戦で勝利無しのハミルトン。

 ハミルトンは述懐する。

「戦う相手は同じだったけど、彼らは1年前よりもはるかに強力だった。だから、僕たちもフェラーリを倒すために、一段階ハードルを高く設定しなければならなかった」

 それが決しておおげさな表現でなかったことは、昨年の覇者であるハミルトンが今シーズンは開幕3戦を終えて未勝利だったことが証明している。

 開幕3戦でハミルトンが1勝もできなかったのは、タイトルを逃した'16年以来のこと。メルセデスにとっては、現行のパワーユニットが導入された'14年以降、初めてのことだった。

 つまり、今シーズンの序盤に限って言えば、過去4年間最強を誇ってきたメルセデスはすでにその座から陥落しており、ディフェンディングチャンピオンであるハミルトンは挑戦者だった。今シーズン序盤、最強のマシンを操っていたのは、フェラーリのベッテルだった。

 逆にこの状況が、ハミルトンの闘志に火をつけた。

チーム全体で強くなる方法を考える。

「もっと集中力を高めるにはどうすればいいのか? もっと時間をうまく管理できるようにする方法は何か? どうすれば、自分のレベルを引き上げることができるのか? どうやって、最高のパフォーマンスを絞り出そうか? そういったことについて、真剣に考えた」(ハミルトン)

 第4戦アゼルバイジャンGPも、予選はベッテルにポールポジションを奪われ苦しい状況だったが、ハミルトンはライバル勢がミスやトラブルで脱落していく中、冷静なレース運びで終盤に逆転。今シーズンの初優勝を手にした。

 だが、その後も楽なレースは続かなかった。

 シーズン中盤の第9戦オーストリアGPでは、2年前の第16戦マレーシアGP以来、34戦ぶりにマシントラブルでリタイアを喫し、タイトル争いで再びベッテルの後塵を拝する。そんなときでも、ハミルトンが考えていたことは己を磨くこと。ただし、それは“チーム”も含めた方法だった。

「いくら自分のドライビングスキルを向上させても、マシンが速くなきゃ話にならない。マシンを開発しているのはファクトリーにいる技術者だけど、僕たちはそのマシンをサーキットで速く走らせるためにエンジニアと共にセットアップしている。

 マシンが持っているポテンシャルを最大限引き出すためには、グランプリが行われているサーキットでエンジニアたちとどう仕事を進めていけばいいのかを意識しなければいけない。あるいはファクトリーに行って、エンジニアたちともっといい関係を築くにはどうすればいいのか、を考えながら、シーズンを過ごさないとね」

父アンソニーから学んだこととは?

 条件が整わない中でも、マシンから最高のパフォーマンスを引き出す術を教えてくれたのは、ハミルトンにカートを薦めた父親のアンソニーだった。

「父は、僕につきっきりでレースを教えてくれた。8歳のときだったと思う。

 僕がよく走っていたカート場で、ある日、父がコース脇に立って、こう言ったんだ。『ここでブレーキを踏め』って。それはそれまで僕がブレーキングしていた場所よりずっと奥だった。だから、僕は止まりきれずにコースをはみ出したり、何度もスピンしたよ。でも、あの特訓のおかげで僕はそれから、だれよりもブレーキングを遅らせることができるようになった」(ハミルトン)

ファンジオと並ぶ通算5度目の戴冠。

 そんなハミルトンに、メキシコGPが始まる直前、訃報が届いた。

 祖父のデビッドソンが逝去。1955年にカリブの島グレナダからイギリス・ロンドンに移住したデビッドソン。その4年後に移民二世として生まれたのが、ハミルトンの父アンソニーだった。

「今日ここに僕がいるのは、彼らのおかげ。何もないところから、懸命に努力してくれたからこそ、いまの僕がある。

 強い黒人の男として、そして人間として、僕は心から彼らのようになりたいといつも尊敬している。きっと祖父も、父と僕のことを誇りに思っているはず」

 今回の選手権制覇でファン・マヌエル・ファンジオと並ぶ通算5度目のタイトルを手にしたハミルトン。

 昨年は最も速いマシンとともに手にしたタイトルだったが、今年はマシンを最も速く走らせて勝ち取ったシーズン。

 名王者と比肩するに相応しい戴冠だった。

文=尾張正博

photograph by REUTERS/AFLO


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