イタリアの希望、F・キエーザ。ネイマールを教訓に“愛の鞭”を!

イタリアの希望、F・キエーザ。ネイマールを教訓に“愛の鞭”を!

 キエーザは罰せられなければならない。なぜなら、ネイマールを見てみるがよい。

 煎じ詰めれば、そう訴えたのがイタリア・セリエAの中堅クラブ、アタランタを率いる指揮官だ。還暦を迎えたその知将ジャン・ピエロ・ガスペリーニは、いったいなぜ、別のクラブ(フィオレンティーナ)のフェデリコ・キエーザを「罰せられなければならない」と名指ししたのだろうか。

 事の始まりは9月30日のセリエA第7節だった。キエーザに奪われたPKによる失点が響き、ガスペリーニ監督のアタランタは試合に敗れる。その恨みはあったに違いない。とはいえ、いわゆる“私憤”に近い感情だけで処罰を求めたわけではないだろう。

キエーザが得たPKは演技?

 問題のプレーは61分に起こる。攻撃するキエーザがドリブルでペナルティエリアに進入した直後に倒れ、フィオレンティーナにPKが与えられた。このPKをキエーザのチームメイトが決め、もう1点を追加したフィオレンティーナが2−0で勝利した。

「あれはキエーザのシミュレーション(演技)だ」

 試合後、ガスペリーニはそう指摘した。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)がなぜ機能しなかったのかは疑問だが、たしかにスロー再生で確認すると、キエーザが自ら体勢を崩しているのが見て取れる。

 追走していた守備者が押したり、引っ掛けたりした形跡はない。ドリブルするキエーザが勝手に躓(つまず)き、勢いあまって、つんのめったのだ。VTRではそう見える。

 地面に横倒しになったキエーザが、ただ倒れただけなら、ガスペリーニも何も言わなかったかもしれない。しかし実際には、やや控え目にとはいえ両手を広げ、レフェリーにアピールしていたのだ。

 倒された! PKだ! と言わんばかりに。

今やイタリアの希望に。

 フィオレンティーナの下部組織出身で「ビオラ(フィオレンティーナの愛称)の至宝」と言われていたキエーザが、「アッズーリ(イタリア代表)の希望」とまで言われるようになったのは最近だ。高速のドリブルで右サイドからでも左サイドからでも切り裂けるウイングは、持久力が高く、守備でも貢献できる。

 闘争心旺盛で、21歳の若さなのに、ベテランのような風格すら漂わせる。イタリアの希望の星と目されるのは、率先してリスクを取れる「ペルソナリタ」の持ち主でもあるからだろう。批判を恐れ、責任を取りたがらないプレーヤーはイタリアで言うところのペルソナリタがない、つまり「パーソナリティ」がないと評される。

 欧州の多くのメガクラブが関心を寄せるようになり、早ければ来夏にもキエーザの争奪戦が繰り広げられるだろう。入札の最低価格は7000万ユーロ(約91億円)とも見積もられる。まだ20歳だった今年の3月にはイタリア代表での初キャップを刻み、そのまま順調に定着しつつある。

ネイマールの話を持ち出して。

 10月25日の誕生日で21歳になったばかりの、未来が大きく広がる「アッズーリの希望」だからこそ、同じイタリア人のガスペリーニは“義憤”に駆られもして、「罰せられなければならない」とメディアを介してではあるが、強い言葉をぶつけたに違いない。こうも言っている。

「我々のカンピオナート(セリエA)の最高の若手のひとりが、こういう振る舞い(シミュレーション)に慣れてしまっている。その代償をしっかり払わせておかなければ、間違った教育になってしまう」

 フィオレンティーナの監督(ステファノ・ピオリ)やファンなども巻き込み、この騒動はしばらく尾を引いた。論戦の途中、ガスペリーニがネイマールの話を持ち出したのは、ロシア・ワールドカップでの“過剰演技”が大きな批判に晒され、それがむしろこのブラジル代表FWの良薬になったと考えているからだ。

「シミュレーションはネガティブな模範になってしまうのだと、ネイマールはどうやら気が付いたようではないか」

 W杯後、フランス(パリSG)に戻ったネイマールが襟を正し、復活を遂げているというニュースは、イタリアにも届いている。

安易なファウルは看過しない。

 筆者が思い出すのは、育成年代の指導に真摯に取り組む日本人のコーチに聞いた、教え子たちの安易なファウルを絶対に見過ごさないという話だ。

 守備の局面で本当はあと1m全力疾走すれば相手に追いつけるのに、シャツや腕を引っ張って間に合わせてしまえば、どうなるか。そうした誤魔化しの積み重ねが、その子の成長を阻んでしまう。ガスペリーニよりも少し年長のそのコーチは、理由をそう話してくれた。

 シミュレーションも同じだろう。誤魔化しが癖になれば、自らの成長を自ら阻み、宝の持ち腐れになってしまいかねない。

 かつては名門ユベントスの下部組織でユース年代の選手を数多く育て、育成にも定評のあるガスペリーニの“叱責”に対し、キエーザは多くを語っていない。「自分のプレーに集中するだけ」と報道陣に話した程度だ。

名セカンドトップだった父。

 では、この若者に多くの影響を与えてきたと言われる父親はどうか。

 フェデリコの父エンリコ・キエーザは、1990年代後半のイタリアを代表するセカンドトップのひとりだった。

 当時まだ世界最高峰の舞台だったセリエAで活躍しただけでなく、イタリア代表でも欧州選手権(ユーロ96)で異彩を放ち、1998年のフランス・ワールドカップにもエントリーされている。

 それから20年後の現在は47歳となり、週末は息子の試合観戦を欠かさないという往年の名手だが、技術面や戦術面の助言は一切しないと言う。息子に伝えているのは「常に学べ。頭を使え。それだけさ」。

 21歳の息子フェデリコも、その通りだと認めている。父親から繰り返し言われてきたのは、「ピッチ上での振る舞い方についてだけ」だと。

「エンリコの息子」を超えて。

 イタリア代表の「現在であり、未来である」と謳われもするフェデリコ・キエーザには、だからこそ注文も多い。

 まだ発展途上で、本能に頼りすぎている。お父さんとは違って、フィニッシュの局面での冷静さが足りない……。少し猫背な恰好で走り、思い切りよくボールを蹴る姿が父親とよく似ているがゆえに、余計に比較される。あの父親の子供だからという理由で、いっそう期待されもする。

 今はまだ「あのエンリコ・キエーザの息子」の域に留まっているだろう。それでも今回の叱責を“愛の鞭”と受け止め、ガスペリーニが望むような「改善のきっかけ」にできれば、父親だけでなく多くのイタリア人が待ち望んでいるはずの大成したフェデリコ・キエーザの未来が近づいてくるのではないか。

 たとえ目先のPKは、獲得できなくなったとしても。

文=手嶋真彦

photograph by Uniphoto press


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