低反発金属バット導入は一石三鳥だ。高校野球の金属バット問題を考える。

低反発金属バット導入は一石三鳥だ。高校野球の金属バット問題を考える。

 甲子園の熱狂から2カ月半、銀傘を沸かせた球児たちも、それぞれ身の振り方が決まって「次の物語」が始まろうとしている。今年の甲子園は酷暑、投手の酷使など様々な問題が浮き彫りになったという点でも後世に記憶されるだろう。

 酷暑、投手の酷使とともに注目されたのが、金属バットの問題だ。厳密には、夏の甲子園の後に行われたU18アジア選手権で、甲子園を沸かせた高校球児たちが思いのほか不振で、優勝はおろか決勝にも進めなかった。この際に「金属バット問題」がクローズアップされたのだ。

 ただし、この結果は一般のファンにはショックだったかもしれないが、野球関係者の間では「織り込み済み」の話でもある。高校野球世代のここ5年の主要な国際大会での戦績はこうだ。

2014年BFA U-18アジア選手権大会   優勝:韓国 日本:準優勝
2015年WBSC U-18野球ワールドカップ 優勝:アメリカ 日本:準優勝
2016年BFA U-18アジア選手権大会   優勝:日本
2017年WBSC U-18野球ワールドカップ 優勝:アメリカ 日本:3位
2018年BFA U-18アジア選手権大会   優勝:韓国 日本:3位

 この間、高校レベルの世界大会では日本代表は1度も世界一になったことがない。またアジアの大会でも日本は過去3回で1回しか優勝していない。

 日本のU18は4000校近い高校の代表だ。それがアメリカ代表はともかく、野球部のある高校が50校しかない韓国や、200校しかない台湾に勝てないのだ。

 その最大の原因がバットだと言われている。アメリカ、韓国、台湾の高校と、日本の高校では使用しているバットが違うのだ。

 韓国、台湾では普段から木製のバットを使用している。アメリカは、反発係数を木製と同レベルに調整した金属バットを使っている。これに対し、日本は反発係数が高い金属バットを使っているのだ。

 国際大会では日本の球児たちは木製バットに持ち替えるが、付け焼き刃で対応できるはずもなく、貧打のうちに敗退するのだ。甲子園で活躍した大阪桐蔭の根尾昂は、台湾、韓国戦では7打数で内野安打1本、藤原恭大は7打数2安打。長打は藤原の三塁打1本だけだった。

 日本選手はたくさんフライを打ち上げていたが、その多くが外野フェンスの手前で失速していた。金属バットならばフェンスを越えていたと思える打球も多かった。

金属バット導入で高校野球は変わった。

 高校野球が金属バットを導入したのは、1974年夏から。木製バットは折れやすく、費用がかかることから耐久性がある金属バットの使用を認可したのだ。

 春夏の甲子園大会を、戦前(1915年〜1944年)、戦後の木製バット時代(1945年〜1974年春)、金属バット時代(1974年夏〜現在)までの3期に分けて、1試合当たりの本塁打数を出すと以下のようになる。

戦前(中等学校時代) 0.172本(784試合135本)
戦後木製バット時代  0.157本(1631試合256本)
戦後金属バット時代  0.575本(3521試合2025本)

 戦前の本塁打の、かなりの部分がランニング本塁打だ。創設当初の甲子園は両翼110m中堅119m左右中間128mもあったからである。1936年に改修で縮小されてからは、柵越え本塁打が増えた。

 木製バット時代は、本塁打は6〜7試合に1本程度だったが、金属バットになってからは2試合に1本強になった。最近はさらに増えて、2018年は0.927本(55試合51本)になっている。これは今年の阪神タイガースの甲子園での本塁打率1.000本(49試合49本)とほとんど変わらない。

筋トレが一般化し、バットの性能も向上。

 近頃の強豪校はトレーニングルームを完備し、球児たちは筋トレに励んでいる。筋骨隆々の体でボールを軽々とスタンドインさせる。金属バットそのものの性能も、以前より飛ぶようになったという声を聞く。

 2001年に日本野球規則委員会は、アマチュア野球で使用する金属バットの重量を900g以上とし、バットの最大直径を67ミリ未満とするなどのルール改正をしたが、本塁打の量産は止まっていない。

 この数字を見ればわかるように、木製バットの時代と金属バットの時代では、野球そのものが変質している。

 U18での日本の高校球児の苦戦は「金属バットと木製バットのギャップ」そのものだと言っても良いだろう。

大学も、プロも、社会人もほぼ木のバット。

 球児たちが高校を卒業してからも野球を続ける場合、ほとんどが木製バットしか使用を許されない。プロ野球、大学野球、社会人(一部金属バットを使用)、独立リーグ、さらには海外のプロリーグも金属バットを使用していない。

 高校球児が卒業後も野球をしようと思えば、必ず「金属と木製のギャップ」に悩むことになる。

 今年の1月14日、DeNAの筒香嘉智は自らの出身チームである少年硬式野球の堺ビッグボーイズのイベントで、今の少年野球への提言をして注目を集めたが、その中でもこの問題に言及した。

「いま日本で使われている金属バットの弊害は大きいと思います。日本の金属バットは本当によく飛びます。年々素材のいいバットが出てきて、飛距離は伸びています。(中略)

 日本では昨年(2017年)、夏の甲子園の1大会のホームラン記録が更新されました。もちろん優秀な打者が記録を破ったのでしょうが、圧倒的にバットのおかげで飛んでいる姿も目にします。これは子どもたちのためになっていないと思います。(野球を続けて)木製バットで苦労するのは子どもたちです。事実、苦労している選手を何人も見ていますし、僕も木製バットになれるまでに時間がかかりました」

 筒香はその提言の中で、木製バットと同様の反発係数に調整した金属バットを使用すべきだと言った。

筒香の出身チームで始まった新たな試み。

 高反発の金属バットによって、日本の高校野球は「ガラパゴス化」が進行しているが、こういう状況下、少年野球界では独自の取り組みが始まっている。

 小中学生対象の少年硬式野球も、高校野球と同じく高反発の金属バットを使用しているが、前述の筒香の出身チームである堺ビッグボーイズは、今年の10月14日と20日に木製バット同様の反発係数に調整したアメリカ製の金属バットを使用した試合を行い、報道陣に公開した。

 堺ビッグボーイズはボーイズリーグに所属する少年硬式野球チームだが、このチームを運営する『NPO法人BBフューチャー』が、連盟主催の公式戦とは別個に、近隣の少年野球チームに呼び掛けて「フューチャーズリーグ」というリーグ戦を1年生、2年生、3年生と学年別に行っている。その中で、低反発金属バットを使用した試合が行われたのだ。

 14日、20日ともに2年生リーグ、3年生リーグの各2試合が行われた。

打者だけでなく、投手や守備にもプラス。

 14日は、リーグに所属しない硬式野球チーム「南大阪ベースボールクラブ」との対戦。試合が始まってすぐに感じたのは「打球音の鈍さ」だった。

「カキーン」という金属バット独特の金属音ではなく、「カシッ」という乾いた鈍い音がする。いい角度で上がったと見えた打球が、外野手の前でしばしばお辞儀する。2試合ともに2−0、3−0というロースコア。このクラスの少年野球では5点以上入ることが多いので、異例の投手戦、あるいは貧打線になった。

「低反発バットはアメリカで10本購入しました。高価なので中古品です。バットには『BBCOR.50』という規格名が印字されています。これは木製バットと同程度に反発係数が調整されていることを意味しています。アメリカでは、この規格以外の金属バットは使用を認められていません」

 堺ビッグボーイズの阪長友仁コーチはそう話す。試合で使うのはこの日が初めてだが、選手たちは昨年夏からこのバットを使って実戦練習をしているという。

 2年生の野手は「芯じゃないと飛ばない。練習では低反発バットでもいい当たりが出ていたが、試合になると難しい」と言った。

 一方で投手は「安打かなと思った打球がフライやゴロになるので、思い切ってストライクを投げ込むことができた。ストレート中心で勝負できた」と言う。

 打者にとっては、木製バット同様しっかり踏み込んで打たなければならないことは、将来に向けて確実にプラスだ。では投手にとって、細かな制球を気にせず、変化球も使わず、ストレートをどんどん投げることができるのは、良いことなのか? 技術的には逆行しているのではないのか? そんな疑問について、阪長コーチはこう答えてくれた。

「中学の段階でスライダーなどの変化球を多投するのは肩や肘の故障につながりやすい。ドミニカ共和国など海外の少年野球では、この年代の投手は速球主体です。変化球は上のレベルで覚えます。細かな制球力も、もっと後で身につければいい。今は速球主体でどんどんストライクを投げる方がいいんです。球数も減って、肩、肘の負担も軽くなります。

 それに、低反発金属バットは守備面でもプラスです。これまでの金属バットの打球は速いので、内野手は体を固くして待って捕球しがちです。それでは、本当の守備力は身につかない。

 低反発金属バットは打球が緩いので、これまで追いつけていなかった打球にも追いつくことができます。前の緩い打球も増えるため、打球へのチャージも必要になりますから、素早い持ち替えで送球を行う機会も増えます。これは、選手たちが将来活躍するために必要な柔らかいグラブさばきにも通じています」

投手戦ばかりになるわけではない。

 低反発金属バットを使うと投手戦主体になる、というのは一般論としては正しいのだろうが、10月20日に行われた富田林ボーイズ、大阪福島シニアとの2試合は9−3、6−3と2試合とも打撃戦になった。14日の試合ではなかった柵越えの本塁打も2本出た。

 この日、堺ビッグボーイズと対戦した大阪福島シニアの監督は「この話を聞いてから、練習で木製バットを使うようにしました。1カ月ほどそういう練習をしたので、低反発金属バットでも結構打てました」と言った。

 また先週は打てなかった堺ビッグボーイズの野手も、この日はいい当たりの長打を打った。

「試合を経験して打ち方を変えなければと思って、この1週間それを意識していたので打てた」と語った。

 低反発金属バットになったからといって、貧打戦が続くとは限らない。対戦相手のレベルにもよるが、今の野球選手は自分で考えて、合理的な練習をする習慣がついているので、意外に順応するのが早いのではないかと思った。

 試合の後、特別にお願いして、選手たちに低反発金属バットとこれまでの金属バットで交互に打撃練習をしてもらい、それを捕手の真後ろにネットを置いてもらって観察した。

 これまでの金属バットの場合、内野の頭を越えるあたりでぐんと伸びる打球が多いのに対し、低反発金属バットはそこから失速する打球が多かった。

 従来の金属バットは「羽子板」と揶揄されるように、スイートスポットが広く、太い部分に当たれば泳ぐようなスイングでもスピンがかかって打球が伸びていくが、低反発金属バットは木製バットと同様スイートスポットが小さいので、当り損ないは失速する。単なる反発係数の問題だけでなく、打撃技術の問題もかかわっていることを実感した。

有力選手には木で練習させるチームも。

 実は個別の対応としては、「金属と木製のギャップを埋める」試みは、かなり早くから行われていた。堺ビッグボーイズの瀬野竜之介代表は話す。

「筒香選手のあと、いま西武で活躍している森友哉選手がチームに入ってきました。打撃センスが抜群だったので、彼ともう1人の有望選手には木製バットを渡して“これで練習するように”と伝えました」

 森友哉は大阪桐蔭高から西武に入った1年目、早くも6本塁打、打率.275という成績を残したが、中学時代から木製バットを使っていたことで、ギャップをあまり感じなかったのではないか。

 昨年、ロッテにドラフト1位で入団した履正社高の安田尚憲も、高校時代から木製バットを使っていたと言われる。

「甲子園の酷暑」の問題や「投手の酷使」の問題は、球場や学校のさまざまな事情、日程の問題などが絡み合って容易に改革できない。

 しかし「金属と木製のギャップ」の問題は、高野連が低反発金属バットの導入を決めさえすれば、すぐにでも解決するのではないか。

 低反発金属バットは、アメリカのメーカーしか作っていないから金属バットの市場が変化してしまう、という危惧があるかもしれないが、ミズノはすでにアメリカでBBCOR.50仕様のバットを販売している。アマゾンを検索すれば、ミズノ製の低反発金属バットがいくつも出てくる。

 学校への費用負担を考えるならば、例えば3年程度の移行期間を設けて「2021年からは低反発金属バットを導入する」とすれば、学校もメーカーも無理なく準備ができるのではないか。

 日本野球界に存在する「金属と木製のギャップ」は、「ガラパゴス化」によって球児たちを苦しめるだけで、百害あって一利もない「段差」だ。これを埋める努力をするのは大人の責任だろう。この件に関して活発な議論が起こることを期待する。

文=広尾晃

photograph by Ko Hiroo


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