酒井宏樹を開花させた“レドミ”。横浜FCでも光るブラジル式の思考。

酒井宏樹を開花させた“レドミ”。横浜FCでも光るブラジル式の思考。

 11月4日、雨の三ツ沢で行なわれたJ2、横浜FCと大分トリニータの一戦。J1昇格を争う上位陣の直接対決を制したのは、ホームの横浜だった。

 後半に先制されながら、3点を取り返して逆転。大分を首位の座から引きずり下ろすとともに、自らは昇格プレーオフ進出はもちろん、自動昇格となる2位以上にも望みをつないだ。

 横浜FCの3ゴール、そのすべてはレアンドロ・ドミンゲスの右足から生まれた。

 67分の同点弾は、彼の放ったミドルシュートがバーを直撃、そのはね返りを永田拓也が頭で押し込んだ。73分、カルフィン・ヨンアピンの逆転弾、そして79分の田代真一のダメ押し弾は、どちらもレアンドロの左サイドのフリーキックから。

 特筆すべきは、3ゴールがいずれも異なる球種から生まれたということだ。

 1点目のミドルは横っ跳びするキーパーを巻くようなアウトサイド、2点目はキーパーと守備陣の間に落とすようなキックで、3点目はニアに走り込む田代にぴたりと合わせるストレート。

 キックの多彩さと精度の高さには舌を巻くしかない。

圧倒的な技術と視野の確保。

 レアンドロは柏レイソル在籍時の2011年、J1昇格即優勝の快挙の立役者となったが、このときチームメイトだった工藤壮人は彼のキックを次のように評した。

「彼はどんなタイミングでも、どんな角度にでもパスを出すことができるから、ストライカーは自分の好きな形で動き出せばいい。そうすると、絶妙なラストパスが出てきますから」

 つまり、どんなタイプのストライカーにも合わせられるということ。これほど頼りになる存在もいない。

 当然、敵はレアンドロを抑えることに神経を使うが、それでもなかなか抑えられない。それは圧倒的な技術に加えて、頻繁に首を振って視野を確保しているからだ。だから素早く前を向くことができるし、次のプレーの選択にも迷いがない。彼のプレーを見ていると、いつも敵の背後を突くことを最優先に考えていることがよくわかる。

酒井宏樹が語っていたこと。

 柏時代、工藤とともにレアンドロについて尋ねた選手がもうひとりいる。酒井宏樹だ。

 マルセイユで活躍する酒井は、右サイドでコンビを組んだレアンドロについて、こんなふうに語っていた。

「レアンドロはパスがずれたりしたときは、必ず直後に“こう動いてほしかったんだ”などと注文を出してくれる。おかげでこちらも、もやもやしたものが残らず、試合中に修正することができる」

 実際に、スルーパスが合わなかったときなど、レアンドロはよく「こういうコースで走ってくれよ」と身振り手振りで意思表示をしていた。

 レアンドロとコンビを組むことで酒井は潜在能力を開花させ、柏の右サイドは盤石なものとなった。

 マルセイユのレギュラーとして活躍するいまがあるのも、伸び盛りの時期に優秀なパートナーと出会ったことが大きいだろう。

ブラジル人と日本人の思考法。

 さて、酒井が語ったレアンドロ評は、ブラジル人と日本人の考えかたの違いにも通じるところがあって、非常に興味深い。

 レアンドロが試合中、チームメイトによく注文を出すのは、試合中に問題が起きても、その場その場で修正しながらゲームを作っていけばいいと考えているからだ。

 これはサッカーだけに限った話ではない。

 例えばブラジルでは何かの店を出すとき、完璧に準備を整えないうちからオープンするのが一般的だという。「問題が出たら、そのときに対応すればいいよね」という考えかただ。

 自国開催した'14年ワールドカップも、これに近いものがあり、9割程度の完成度で開幕を迎えた。

 サンパウロのスタジアムはゴール裏に屋根がつかず、日本がギリシャと対戦したナタールのプレスセンターも雨漏りがしていた。だが、いい意味で“不完全主義者”のブラジル人たちは気にしない。

想定外が起きると承知の上で。

 私たち日本人は正反対だ。完璧に準備をして、入念に予行演習を行なって、ようやく店をオープンさせる。

 これはどちらが良くて、どちらが悪いというのではなく、国民性の違いといっていい。

 ただ、これをサッカーに置き換えると、ブラジル式を見習ったほうがいいかもしれない。サッカーは敵がいる、複雑で曖昧模糊としたスポーツ。計画通り、ゲームが進むとは限らないからだ。

 サッカーでは完璧に準備するのはほぼ不可能。完璧に準備したと思って試合に臨み、不測の事態に慌てふためくくらいなら、入念に準備しながら、頭の片隅に「おそらく想定外のことが起きる」と考えて本番に臨むほうがいい。

 そうしたところからサッカーに欠かせない、不測の事態への対応力が養われていくのだと思う。

 レアンドロもすでに35歳。キャリアの盛りは過ぎたが、持ち前の闘志と敵陣を切り崩すパスの鋭さは、いまなお健在。サッカーの本質である、対応力は錆びついていない。

 プレッシャーが増す最終盤に輝くのは、こういう男かもしれない。

文=熊崎敬

photograph by Getty Images


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