錦織圭の工夫とフェデラー撃破。“勝ちビビリ”は微塵もなかった。

錦織圭の工夫とフェデラー撃破。“勝ちビビリ”は微塵もなかった。

 お互い調子は良くなかったが、ロジャー・フェデラーのミスに助けられた、勝つには勝ったが――そんなふうに総括してしまうと、この勝利の価値を見誤る。

 11月11日のATPツアー・ファイナル初戦。2セットの試合で、フェデラーのアンフォーストエラーは34本に達し、錦織圭のウィナーはわずか6本だった。これだけ見れば、フェデラーのエラーで勝たせてもらった試合だ。ただ、テニスというゲームは、トッププレーヤー同士の1対1の戦いは、もう少し複雑だ。

 錦織の勝因はいくつかある。まず、ピンチの芽を摘んだこと。第1セットはサービスゲームで0−30が2度あった。1−2からのゲームと、5−6からのゲームだった。特に後者はあと1ポイント失えば相手のセットポイントという窮地だった。

 フェデラーは「不運にも、先行しながら追いつかれてしまった。それが試合のキーになった」と逸機を悔やむ。相手のミスに助けられたところもあったが、重圧がかかって自分から崩れてもおかしくない場面で、錦織はよく踏みとどまった。

セカンドサーブも効果的。

 フェデラーにはこれまで2勝7敗、この1カ月強の間にも上海、パリと連敗していただけに、なんとかしなくては、という工夫が見られた。それが顕著に見られたのがサービスゲームだ。

 ファーストサーブ時のポイント獲得率はフェデラーと並ぶ78%をマークした。セカンドサーブ時にはフェデラーの54%を大きく上回る63%のポイント獲得率だった。

 デュースサイドではセンターへの配球を増やし、第1セットのセットポイントなど、ここという場面で得意のワイドに切れるサーブを使った。

 アドサイドでは、サイドライン際に深く打ち込むセカンドサーブが効果的だった。これまではスピンをかけてサービスボックスの真ん中に入れていく安全策が多かっただけに、フェデラーの戸惑いが見てとれた。

 錦織は「いくつか(戦術を)変えてみた」というだけで具体的に明かすことはなかったが、こうした1つひとつの工夫が実を結んだのは間違いない。

秋の好調さは維持している。

 そもそも錦織の調子は悪かったのか。錦織自身は「内容はそんなに良くなかったが」という言葉で試合を振り返っている。

 しかし、試合前の練習ではリラックスして腕を振り、ショットはよく伸びていた。実際、序盤も、試合が緊迫してきても、おおむね腕はよく振れていた。秋の室内ハードコートシリーズの好調さは維持していると見ていいのではないか。

 ならば、なぜウィナーをはるかに上回る22本のアンフォーストエラーをおかしたのか。

 錦織は「(大会の)1試合目だったのもある。パリのあと少し休みをとったこともあり、リズムが若干抜けていたのも。この大会のボールが、飛んじゃったり、ちょっとやりにくいのも多少、原因としてあるのかな」と要因を並べたが、フェデラーの会見でのコメントも見逃せない。

「我々は2人とも少し緊張していたようだ」

「今日は勝たなくてはいけない」

 直近の3大会より明らかに遅い、とコートサーフェスに違和感を持っていたフェデラーは、試合の重圧が加わり、最後までショットの精度が上がらなかった。錦織にも緊張や気負いはあっただろう。

 相手がフェデラーとはいえ、同じ相手に4年8カ月も勝っていなかったのだ。今度こそ、ショットが好調な今こそチャンス、という思いが気負いを生んだのではないか。ダウン・ザ・ラインなど、攻撃的なショットの精度が低かったのは、そのせいだろう。

 自分も相手もベストではない中で、錦織は「今日は勝たなくてはいけない試合」と感じていた、という。対戦の前には「彼と対戦するのはいつも楽しいし、僕にとって大きな挑戦」と話していた。ただ、「勝たなくてはいけない」とか、勝てそうだ、となったら気持ちに変化が起きてもおかしくない。

勝ちビビリの気配は微塵もない。

 しかし、第1セットを取って勝利が近づいても、勝ちビビリの気配は微塵もなかった。結局、気負いも勝ちビビリも制圧してしまったのだ。錦織圭という選手は、そうでなくてはいけない。

「しっかり勝てたのは大きい」と錦織。5月のイタリア国際では、決して調子のよくないノバク・ジョコビッチを仕留めることができず、その後もウィンブルドンや全米で手痛い敗戦を喫したが、その轍を踏まずにすんだ。

 もちろん、ラウンドロビン(1次リーグ)の初戦にストレート勝ちで、決勝トーナメントへの道がひらけてきた。

 大きな意味のある勝利だった。見事な勝ち方だった。

 調子の悪いフェデラーに勝っても……、とか、勝つには勝ったが……、というような見方には、1ミリも同意しない。

文=秋山英宏

photograph by Getty Images


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