eスポーツは「有望な新市場」ですか?お金の話ばかりが話題になる違和感。

eスポーツは「有望な新市場」ですか?お金の話ばかりが話題になる違和感。

 eスポーツという言葉を、一般のニュースでもよく見かけるようになった。

 だいたい、こんなキーワードと一緒に登場していることが多い。

 賞金28億円、トップ選手の年俸は1億円超え、世界の競技人口は1億人、大企業や有名アスリートがスポンサーとして参入……などなど。

 これらは要するに「お金」の話である。もう少し正確に言えば、「市場規模」についての情報を示す言葉たちだ。

 ゲームの楽しさや選手の個性という話を飛ばしてお金の話ばかりが広がっていく現状は、eスポーツを取材する人間としても1プレーヤーとしてもお腹いっぱいだと感じている。

 思い起こせばeスポーツという言葉への反応は、ゲームメディアを除けば経済メディアがもっとも早かった。それはつまりeスポーツという「新興市場」が成長しており、ビジネスチャンスがありそうな業界だ、という文脈でニュースバリューを持ったからだろう。

 しかしちょっと考えてほしいのは、たとえば野球やサッカーの魅力を人に伝える時に「マイク・トラウトの年俸が37億円」や「レアル・マドリーの胸スポンサーがエミレーツ航空」という表現をするだろうか。

 しない、と思う。それは野球やサッカーは市場である以前にスポーツとしての価値が認められているからだ。あまりにナイーブだと言われるかもしれないが、本来スポーツでもショーでも、それを体験した人たちが感じる価値が先にあって、結果として市場価値というのは出てくるものだろう。

もっと楽しい話をしていたい。

 もちろんスポーツは生活必需品ではなくエンターテインメントで、ファンの愛をお金に替える産業だという側面は確かにある。選手や大会運営者が収益を伸ばす方法を血眼になって考えるのは当然だし、必要なことだ。選手の待遇や未来への投資のためにも、お金がなければ話にならない。

 しかしだからと言って「より上手く、より効率的に愛を換金しましょう!」と大声でいうことがいいことだとも思えない。何より、実際にお金を払うファンの気分を害することは目に見えている。

 ファンの耳にまでお金の話ばかりが聞こえてくる現状が続けば、肝心の愛の形成が邪魔されると思うのは心配しすぎだろうか。

 せっかくのエンターテインメントなのだから、「ビジネスモデルをどう構築するか」という話よりも、「ムバッペのドリブルが速すぎる」「大谷のホームランあれどうなってるの?」という話が溢れている方が楽しいと思う。

 eスポーツで言えば、「ときどの豪鬼は動きがおかしい」とか「Fakerは未来が見えてる」とか、そんな話をもっとしていたいのだ。

LoLの世界大会決勝で感じたこと。

 筆者は先日、eスポーツ界最大のタイトル『League of Legends』(LoL)の世界大会決勝を観戦しに韓国へ行ってきた。

 最大では収容人数5万人を超える仁川文鶴競技場がファンで埋まったこの一大イベントについて、規模やお金の話をすることはいくらでもできる。

 今年から大型スポンサーもついたし、世界大会で発表されたテーマ曲は全米でダウンロードランキング1位になった。世界中の視聴者を足し算すれば巨大な数字が出るのも間違いない。

 でもそれ以上に現場で強く感じたのは、このゲームと選手たちに注がれるとんでもない熱量の愛情だ。

 ではその愛はどこから来ているか。無数にある理由の中から、特に重要だと思うものを紹介したい。

 まず何よりも大切なのは、『LoL』というゲームが単純に面白いということだ。

 1年で数百、数千という数のゲームがリリースされ、そのほとんどが数カ月から長くても1年ほどでピークアウトしていく過酷なサバイバルの世界で、LoLはリリースから10年目を迎えた。そしてここ数年は「最も代表的なeスポーツタイトル」の座に君臨し、後発の挑戦者たちを跳ね返し続けてきた。

 その理由はひとえに「プレーして奥深く、観戦して楽しいから」としか言いようがない。ゲーマーは飽き性で、新しいもの好きだ。より面白いゲームが登場すればあっという間に人は去る。その選別眼は厳しい。

10代、20代がファンのほとんど。

 そして10年続いたゲームだということは、その中で選手やチームに歴史や人間模様が蓄積されることを意味している。

「かつて世界一だった選手が若いスターに蹴落とされてポジション変更を余儀なくされ、新たなチームメイトとともに世界王者に返り咲く」なんていうドラマチックな展開が観る者の興奮を誘う。これは他のスポーツとも通じる魅力だ。

 また、プレーヤーや観客のほとんどが10代、20代の若者であり、彼らにとって「自分たちのための文化だ」と自然に認識しやすいことも追い風になっている。オールドファンがデンと座っていることは、若者にとって参入障壁になりうる。これは野球やサッカーを苦しめる構造的な問題でもある。

「eスポーツでひと儲け」ではなくて。

 ここにあげたのは、あまたある理由のほんの一部でしかない。つまり、eスポーツには人々の愛が注がれる十分な理由があるし、現に拡大している。ビジネス的な側面をおろそかにすることはできないが、そればかりが話題になる現状は、少しバランスを崩していると思う。

「eスポーツでひと儲けできるかな」と思う人が1万人増えるよりも、「今度LoLを遊んでみようかな」「ストリートファイターの大会ってどこで見れるの?」と思う人が10人増える方が私は嬉しい。

 そして少しばかり遠回りだとしても、その方が全員にとって幸せな形に近づく道ではないかと思っているのだ。

文=八木葱

photograph by 2018 Riot Games, Inc. All Rights Reserved


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