錦織圭「十分すぎる1年だった」ファイナルズ敗退も自然と前向き。

錦織圭「十分すぎる1年だった」ファイナルズ敗退も自然と前向き。

 両選手とも、悪い状態をいかに立て直すかがこの試合のテーマだった。ATPファイナルズ、ラウンドロビン(1次リーグ)第2戦で、錦織圭はケビン・アンダーソンに0−6、1−6、ドミニク・ティームはロジャー・フェデラーに2−6、3−6と、ともに低調だった。

 低空飛行からどう浮上するか。錦織は練習でショットのリズムを立て直そうと試みた。オフ日となった前日の練習、試合当日の午前の練習とも、しっかり腕を振り伸びのあるボールが飛んでいた。しかし肝心の試合では、第2戦同様、ショットのタイミングを失っていた。

 練習で取り戻したはずのリズムが、試合になると出てこない。悪循環だった。ボールをクリーンに捉えられないから、ショットに自信が持てない。不安があってラケットを振り切れないから回転がしっかりかからず、ボールがコートに収まらない。スコアが悪くなればなるほど、立て直しは困難になった。

 結局、錦織は第2戦と同じ「ボールの感触がよくなかった」という言葉で試合を振り返ることになる。

珍しくラケットを叩きつける場面も。

 この大会では、コートサーフェスとボールへの適応に苦しんだ。

 基本的にはコートの球足は速かったが、錦織には「若干止まったり、遅かったり、速い中でもちょっとリバウンド(跳ね上がり)があったり」と違和感が大きかった。フェデラーとの初戦ではボールについて「ちょっとやりにくい、飛んじゃったり、重かったりする。コントロールが難しい」と話していた。

 両方の要素が合体し、錦織のショットの調子を狂わせた。調子が万全なら実戦で適応してしまうのだが、「100%ではなかった」こともあって、違和感を打ち消すことができず、最後までリズムが戻らなかった。

 第1セットを1−6で落とすと、イライラが高じたのか、今年の彼には珍しく、ラケットを叩きつける場面もあった。

「何かを変えなきゃいけなかった」

 錦織のコメントが痛々しい。怒りを吐き出し、切り替えようという、最後の手段も効果なく、試合終了まで低空飛行のままだった。「最後まで感覚がつかめず終わった」と錦織は下を向いた。

ティームは異なる方法で打開を試みた。

 一方、ティームは錦織と違う方法で不調の打開を試みた。ストリングスの張り方を変えたのだ。

 本人からの具体的な説明はなかったが、張りの強さ(テンション)を上げ、これまでナチュラルガットを張っていた縦糸にポリのストリングスを使っている。

「何かを変えなきゃいけなかった。大会の前は悪くなかった。練習もうまくいっていた。(ところが)ロジャーとの試合では信じられないようなミスをしてしまった。自分では何も悪くないと思えた。何かを変える必要があった。そもそも今日の試合では失うものは多くないのだから、試合で変えてみて、それがうまくいった」

「何かを変えなきゃいけなかった」は奇しくも錦織と同じ言葉だったが、両者の置かれた状況とそのアプローチ、そして結果はまったく異なる。

荒療治がプラスに出た。

 ティーム陣営は“してやったり”といったところだろう。選手にとってラケットとストリングスは自分の手の延長だが、そこに大きな変更を加えたのだ。錦織と同じようにティームも今大会のボールとコートサーフェスには違和感を持っていた。

 ツアー最終戦の大舞台で、ラウンドロビンはここまで2連敗。ならば、と荒療治を試みたのだ。通常のツアー大会で使える手ではないが、この大会はイチかバチかの作戦を試せる数少ない機会だったのも確かだ。

 午前の練習では強打を連発した。良い感覚を体にしみこませよう、変更したストリングスの感触を手のひらになじませようという意図だろう。

 彼らしくないミスも見られたが、開き直ったのが大きかったか、ティームは本来の強打を取り戻していた。捨て身の作戦だったが、それを成功させたティームとギュンター・ブレスニクコーチがあっぱれだった。

 錦織には苦境を抜け出す策はなかったのか。凡戦を2つ見せられ、なんとかならなかったのかと恨み節も出てくるが、これだけ深いクレバスに落ち込んだら、這い上がるのは簡単ではない。ティームはストリングスに助けてもらったが、選手には自分の力だけではどうにもできないことがある。

錦織「十分すぎる1年だった」

 2年ぶりに出場したツアー最終戦は、ラウンドロビン敗退の結果に終わったが、故障でシーズン開幕を迎えたことを思えば上々の終幕だったのではないか。

「十分すぎる1年だった。手首の痛みと闘い、自分のテニスともいろいろ闘い、なにか、いろんなことを乗り越えた1年だった」

 山あり谷ありだったシーズンを振り返る言葉は、自然と前向きなものとなった。復帰の目標としていた全豪オープンには結局出場できず、チャレンジャー(下部ツアー)での復帰となった。

 復帰した当初は手首に痛みを抱えたままで、再発の不安とも闘ったはずだ。年間成績上位8人によるATPファイナルズ出場で、1年間の頑張りが報われたのはなによりだった。

文=秋山英宏

photograph by Getty Images


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