エディーの挑発が真剣勝負を生んだ。日本相手に描いたシナリオの凄さ。

エディーの挑発が真剣勝負を生んだ。日本相手に描いたシナリオの凄さ。

 フィジカリーにスマッシュします。

 祈りなさい。お寺に行って、我が身の無事を祈っておきなさい。

 情け容赦なく、行きますから。

 いずれも日本対イングランドのテストマッチを前に、イングランドのヘッドコーチ、エディー・ジョーンズ氏が語ったとされる言葉だ。

 こうした“挑発”に日本はスマートに対応した。

 8万1000人を飲み込んだトゥイッケナム・スタジアムで、日本は前半に学習能力、準備力の高さを披露、15対10とリードした。しかし後半に入ると、イングランドが別人へと変身、後半だけを見ればイングランドが25−0と日本を封殺した。

 リスペクトを尊ぶラグビー文化のなかにあり、しかも教え子がたくさんいるジャパンに対して、不必要とも思える挑発をなぜ行なったのか。

“fired-up”してもらわないと。

 試合が終わって、ジョーンズ氏の意図が見えてきた。

「ジャパンに“fired-up”してもらわないといけませんでしたから」

 意図的にfired-up、日本にメラメラとやる気を起こさせた?

 言われてみれば、後付けではなく、たしかにそうした要素があったことは否定できない。

 イングランドにしてみれば、オールブラックス相手に1点差の惜敗を喫した翌週、日本が相手では選手たちがモチベーションをアップさせるのは正直、難しい。

 そこでジョーンズ氏は日本を挑発するような言葉を繰り出し、タフな試合になるように布石を打った。来年にはワールドカップ日本大会を控え、無駄な試合はひとつとして許されないというのがジョーンズ氏の考え方だからだ。

冷静にやり返す山田、リーチ。

 もっともジャパンの面々は大人で、敵将の言葉をまともには取らなかった。ジョーンズ氏にガッツリと絞られた山田章仁(金髪にしていた彼は最初の面談で『ムービースターは要りません』と突き放された経験を持つ)も、

「イングランドにお寺はないから」

 とユーモアでやり返し、ジョーンズ氏といちばん長い時間を過ごしたであろう主将のリーチ マイケルは、

「エディーさん、憎めない人ね」

 と試合前日の会見で笑っていた。

 スルーを装っていたとはいえ、それでもメディアが発言について質問するから、どうやったって選手たちの深層心理の中に「フィジカリー・スマッシュ」は刷り込まれる。

前半の日本は鮮やかだった。

 密集、ボールへの素早い働きかけを期待されて代表初先発を務めた西川征克も、サントリーではエディーさんにしごかれた選手のひとり。

「何気なくプレーしてしまうと、『どうして? なぜ?』とよく質問されました」と当時のことを振り返っていたが、試合前々日の取材では、

「スマッシュし返すつもりでいきます」

 と覚悟を固めた様子だった。

 実際、日本は前半戦にジョーンズ氏の言葉に見事に反応した。

 オールブラックス戦で課題となったブレイクダウン周りのクリーンアウトは(ボールに対して絡んでくる相手に対して、2番目、3番目に到着した選手がきれいに排除していく)、西川をはじめとした選手たちがお手本のようなプレーを披露し、それがSH田中史朗の速い球出しにつながった。

 特に大外に陣取ったリーチのプレーは効果的で、『サンデータイムズ』では出場した選手のなかで最高評価となる9点を獲得していた(10点満点)。

「ジャパンはタフな相手だ」

 前半のジャパンは、ティアIと呼ばれる強豪国と堂々と渡り合えるラグビーを披露した。しかしそれこそ、ジョーンズ氏が求めていたものだった。

 ジャパンがタフに戦ってくれなければ、イングランドにとってもプラスにならない――。そこまで視野に入れていたということだ。

 それでも敵将にもコントロールしきれないことがある。

 イングランドは前半3分、日本のSO田村優の不用意なキックを見事なカウンター攻撃に結びつけるとあっさりとトライを奪った。これが前半、後手に回った理由だというのだ。

「最初のトライを簡単に取りすぎてしまいました。試合前、私は『ジャパンは簡単な相手じゃない。タフな相手だ』と言い含めていましたが、選手たちは『思っていたほどタフじゃない。今日はイージーに勝てる』という心のなかの囁きに誘惑されてしまったのでしょう。ラグビーではよくあることです。後半、しっかりと対応できたことには、とても満足しています」

舌を巻くストーリー構築力。

 今回の試合を見て、改めてジョーンズ氏のストーリーの「構築力」に舌を巻いた。

 イングランドの関係者によれば、日本戦を前にジョーンズ氏は、日本の鍵となる5選手のカットアウト(等身大のパネル)を作り、練習施設に展示して、イングランドの選手たちへの意識づけを行なっていたという。

「エディーのアプローチは、オールブラックス相手も、ジャパン相手にも変わらない」

 来年のワールドカップ日本大会では、イングランドが属するプールCが最激戦区になる。

 同組にはフランス、アルゼンチン、トンガ、アメリカが入り、プールステージでは最も争いが激しいプールになった。

W杯へのシナリオは。

 前回のイングランド大会では、開催国であるにもかかわらずプールステージで敗退。

 ジョーンズ氏が、今週末のオーストラリア戦を控え、そして年が明けてからのシックスネーションズでは、オールブラックスを破ったアイルランドとの試合が開幕週の2月2日に予定されている。

 来年のワールドカップまで、どんなストーリーが展開していくのか。

 大会を楽しむためにも、今からジョーンズ氏が描くシナリオから目を離してはいけない。

文=生島淳

photograph by AFLO


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索