男子よりも女子サッカーに期待!?メキシコで盛況の女子プロリーグ。

男子よりも女子サッカーに期待!?メキシコで盛況の女子プロリーグ。

 男性優位社会のメキシコにあって、2017年に創設されたプロサッカーの女子リーグ(男子同様に「リーガMX」の名称で呼ばれている)が多くの観衆を集めているのを、皆さんはご存じだろうか。

 アメリカ、ドイツ、イングランド、フランス、スペイン、イタリアに続く世界7番目の女子プロリーグは、開幕した当初から世界のどこにも類を見ない熱気に包まれている。

 その熱さと、同時にメキシコ女子サッカーが抱える問題点とを、トマ・グバン記者が『フランス・フットボール』誌10月30日発売号でレポートしている。

監修:田村修一

マルセイユよりもサッカー熱がある。

 フランスではマルセイユがそうであるように、ヌエボ・レオン州の州都モンテレーはメキシコでも際立ってサッカーに熱い街である。

 オリンピック・マルセイユで1年を過ごした後、今季から女子のクラブチーム「UANLティグレス」(ホームタウン:サン・ニコラス・デ・ロス・ガルサ/ヌエボ・レオン州)に籍を置くクリスティーナ・フェラル(メキシコ)は、ふたつの街の熱さを立て続けに肌で実感したのだった。

 ただ、マルセイユの場合は、人々の興味は男子にしか向けられていないと、メキシコ代表MFである25歳の彼女はいう。

「ホームゲームでも、観客は200人しか集まらなかった」

 CFモンテレー(ホームタウン:モンテレー/ヌエボ・レオン州の州都)のスタジアムでは違う。そのアウェーの地で彼女を待ち受けていたのは、スタンドを埋め尽くす多くの観衆であった。

「ここでは3万8000人の前でプレーしたこともあります。まるで男子の試合のようだったわ」

 今年8月13日、このメキシコ第3の都市モンテレーでおこなわれたUANLティグレスとのダービーマッチでは、ティグレス側のスタンドは満員の観衆で埋め尽くされた。その数週間前、両チームが国内女子プロリーグ「リーガMX」の優勝決定戦で対戦した際も同様だった。

 5月5日のリーグ戦における第2節は、5万1000人の大観衆が“ラヤダス(縦縞/モンテレーの愛称)”のスタジアムを訪れ、女子サッカーにおけるクラブ同士の試合の観客数世界記録を更新したのだった。

可能性を秘める女子プロリーグ。

 たしかにモンテレーとティグレスという両クラブのライバル関係が、熱狂に油を注いだのは間違いない。だが、モンテレーのスタジアムでは通常のリーグ戦でも5000人を上回る観客を動員しているという。リーグがまだ産声を上げたにすぎない時期からこうである。

 フェラルが語る。

「プレーのレベルはフランスの方が高いけれども、のしかかる重圧はメキシコの方がずっと大きい。人々の関心はそれだけ高く、試合の結果に一喜一憂して子供たちが泣いたり笑ったりしているのを私も見ました」

 クラブの試合における歴代観客動員では、トップ10のうち5つがメキシコでのゲームである。リーグ創設から1年で成し遂げられたのだから、驚くべきと言わざるを得ない。

「大きな可能性を秘めている」と、2009〜'17年にかけメキシコ女子代表のフィジカルトレーナーを務めたフランス人のメフディ・メダウィは語る。

「'09年にシウダード・フアレスでカナダU-20代表と対戦したときは、世界で最も危険と見なされている街に2万人のサポーターが集まった。それほどまでに彼らは女子サッカーに熱い思いを抱いている」

ビジネスの可能性は皆無で……。

 プロリーグが開幕する前のメキシコでは、女子サッカーは停滞気味であった。

「男子への思い入れが強すぎて、クラブの会長たちが女子に目を向ける余裕がなかったからです」と、『フォックス・スポーツ』の記者でフェミニズムの活動家でもあるマリオン・レイメルスは言う。

「女子サッカーが将来ビジネスの対象になるなどとは、彼らにはまったく想像ができませんでした」

 FIFAが女子サッカーの発展を推進したのも偏見を取り除く後押しとなった。メダウィが述べる。

「イメージあるいはプライドの問題として、ほぼすべてのクラブが女子に投資するようになった。ティグレスやパチューカのようにスタートから女子リーグに力を注いでいるクラブとの戦いで、屈辱的な結果を得ることに耐えられないと他のクラブも考えた」

依然として選手の報酬は安い。

 とはいえリーガMXの選手たちの生活基盤は安定していない。

 クリスティーナ・フェラルの場合はマルセイユ時代と同等の収入を得ているが、多くの選手はそこまでのサラリーを得られず月2000〜3000ペソ(100〜150ドル)で我慢せねばならないものも少なくない。月末のボーナスもほとんど期待できない。

 チーバス・グアダラハラのようなビッグクラブですら、2017年のリーグタイトルを獲得した際に「観客に愛されたことが選手たちの最大の報酬だ」とGMが述べたのだった。パチューカとの試合がおこなわれたグアダラハラでは、3万人以上の観客が試合に訪れたが入場料収入は微々たるものだった。

「リーガMXの幹部たちは、結局のところ女子選手たちを1部リーグのプロとは思っていない」とレイメルスは言う。

 9月10日、ティグレスはチーバス相手にアウェーで3対1の勝利を収めた。試合の後、フェラルら選手たちは12時間かけて車でモンテレーまで戻ったのである。

 この惨状こそが、チャンピオンクラブの実態であった。

監督が差別的発言をすることも。

 敵はまたチーム内にも存在する。

 この8月、モナルカス・モレリアのフィラデルホ・ランヘル監督は、彼が率いる女子選手たちが無能であるのは「女性ならではの優柔不断さ」が原因だと指摘した。

「今日でもメキシコのSNSでは、女性は家庭に留まるべきだといった類のコメントをよく見ます」とフェラルは語る。

「私が子供のころは、ボールを蹴ってばかりいたからお前は男の子だと言われていましたけどね」

 とはいえ両親は彼女を支え続けた。ごく一般的な庶民階級の家庭に生まれたフェラルは、8人の兄弟姉妹に囲まれて育った。サッカーは彼女が独立するための手段でもあった。

「奨学金を得て私はモンテレー工科大学に進学しました。メキシコで最も優れた大学のひとつで、その後はフロリダ大学でさらに学業とサッカーを続けました。両親には学費を支払う余裕はまったくありませんでした」

 フェラルの世代がサッカーで生計を立てられるようになった最初の世代である。2〜3年前までは考えられないことであった。

女子選手の自立が促される。

 2015年、当時メキシコ最優秀選手であったシャルリン・コラルは、ルイビル大学でスポーツ行政学の学位を取ったのを機に現役引退を考えた。

 今でもレバンテでプレーを続ける彼女は、リーガ屈指のビッグネームであると同時に'17〜'18シーズンの得点王にも輝いたのだった。フランスを含む複数のヨーロッパのクラブからもオファーを受けている。

「私は兄(プロ選手のゲオルゲ・コラル)と一緒にプレーしながら育ちました。でも12歳のときに、もう男の子と一緒にトレーニングはできないと言われたのです。私の運が良かったのは、そのころからスカウトに注目されていたので、13歳でメキシコ代表入りできたことです」

 リーガMXでコラルは、最若年からプロの特権を享受することができた。

 リーグの規則ではU-17代表で年間1000分以上プレーすることが義務づけられ、24歳以上の選手でスタメン出場できるのは2人までであった。

 その目的は、ワールドカップ本大会でまだ1勝もあげることができていない“エル・トリ(「3色」の意)”の愛称で知られるメキシコ代表を、23人のトッププロ選手でできるだけ早く構成することであった。

「アマチュアリーグにしろ大学リーグにしろ6カ月で終わってしまうから、これまでは代表をそれなりのレベルに仕上げるには長い準備の時間が必要だった」とメダウィは指摘する。

W杯では男子よりも女性に期待!

 女子代表への期待は次第に高まりつつあり、それはメディアも同様である。

「男子がなかなかワールドカップのベスト8に進めないから、そのぶん女子が期待されるようになったのでしょう」とコラルは言う。

「ティグレス(男子チーム)の監督の言葉に勇気づけられました」とフェラルも語る。

「彼が言うには、女子はピッチ上でわざと倒れ込んでいる選手に『早く立ちな。男子の真似はするな!』と声をかける。『女のようにめそめそするな!』という慣用句とは正反対であると」

 少しずつではあるが確実にメンタリティが変わりつつある。メキシコの女子サッカーは着実に進化している。

文=トマス・グバン

photograph by L'Equipe


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索