ラグビーW杯前年最後のロシア戦へ。世界が警戒を深めるジェイミーJ。

ラグビーW杯前年最後のロシア戦へ。世界が警戒を深めるジェイミーJ。

 15−35の敗戦。

 相手はラグビーの母国であり、日本代表前ヘッドコーチのエディー・ジョーンズが率いるイングランド。舞台は聖地トゥイッケナム。見守った観衆は、日本ラグビーのあらゆるカテゴリーで初めて経験する8万1151人という大観衆だ。

 その戦いに、日本は15−35で敗れた。

 前半は15−10と日本がリードした。

 リーチ マイケル主将が縦横無尽、獅子奮迅のプレーでチャンスを作り、広げ、仕留めた。核弾頭の姫野和樹はタックルされても起き上がって走り、また倒されても一度ボールを離して起き上がって拾って走った。

 日本の速攻に慌てたイングランドのフッカー、ジョージがプロフェッショナルファウルでイエローカードを受け、数的優位を得た日本はCTB中村亮土とリーチ主将がトライをあげた。

イングランドのファンが微妙な気持ちに!?

 トゥイッケナムには、ちょっと不思議な空気が漂った。

 もちろん単純に喜ぶわけではないが、自国の代表イングランドに向けて怒るでもない。強いて言えば驚きか。きっと8万の観衆は、初めて見る日本ラグビーのテンポの速さに、あっけにとられていたのだろう。

 3年前、イングランドで開かれたワールドカップで3勝をあげた日本代表だが、聖地トゥイッケナムの芝を踏む機会はなかった。

 この日スタンドを埋めたファンの多くは、テレビで断片的に日本の戦いを見たことはあっても、実際に戦いを見る機会はなかったに違いない。ボールを素早く動かし続ける日本のテンポの速さは、生で見ないと感じられない。

 この日のトゥイッケナムでは定番の応援歌『スウィング・ロウ』の歌声も、前半の40分はほとんど聞こえなかった(記者の記憶では、開始3分にイングランドが先制トライをあげたときに少し聞こえただけだった)。

 しかし、勝ったのはイングランドだった。

リーチ主将には10点満点の評価が!

 後半から投入された63キャップのベテランCTBオーウェン・ファレルが、パニックに陥りかけていたチームを冷静に立て直した。

 日本が不用意なペナルティを犯せば、迷わずタッチキックで日本ゴール前へ攻め込む。59分にFLウィルソンのトライで逆転すると、70分にはキックの競り合いのこぼれ球からつないでWTBコカナシガが、76分にはゴール前ラインアウトのモールにBKも入り13人で押し切って駄目押し。

 誇り高きラグビーの母国が、見栄も外聞もなく、力尽くで勝利を奪いに来た。

 翌朝の英紙サンデー・テレグラフは選手の評価でリーチ主将に10点満点をつけ「マン・オブ・ザ・マッチに選ばれるべきだった」と書いた(実際に選ばれたのはイングランドのLOマロ・イトジェだった)。

 イングランドのエディー・ジョーンズ監督は、日本代表の印象を訊ねた日本メディアに「素晴らしいね。ホントに良くなった。ケンキ(WTB福岡堅樹)はいい選手ね」と日本語で答えた。ラグビーの母国の誰もが日本を称賛した。

どんな強敵にも「勝てる」メンタルで。

 満足していないのは、日本の選手だった。

「一言で言うと、がっかりしている。勝てる試合を落としてしまった」とリーチ主将は言った。

 相手がワールドカップ優勝を狙う、北半球最強を争う強豪イングランドであっても、日本の選手はまったく気後れしていなかった。

 元指揮官のエディー・ジョーンズは、先の言葉に続けて「若い選手が素晴らしい。サンウルブズで経験を積んで、すごく成長している」と日本に賛辞を贈った。

 自身が率いた2015年ワールドカップで南アフリカを破るなど3勝をあげ、「世界の強豪には勝てない」というメンタルバリアを取り払った日本代表は、その後の3年間はスーパーラグビーで、さらに世界ラグビーの上位に君臨する強豪国とのテストマッチで経験を重ね、どんな強敵を前にしても「勝てる」という気持ちで臨める自信とメンタルタフネスを手に入れた。

 かつての日本には、対等に戦っていても試合の終盤に大量失点を喫する悪癖があった。無論、15−35のスコアは現実だ。特に後半のスコア「0−25」は冷酷なまでに実力差を示している。

日本の基礎力は向上したが……。

 イングランド戦から一夜明けた11月18日、日本代表一行は、今秋の最終戦となるロシア戦(24日)に向け、試合が行われるグロスターの隣町チェルトナムに移動した。

「案外、痛くないです」

「いつもの試合と変わりません」

 日本代表の選手たちは、ほとんどが、イングランド戦の消耗ぶりについて訊ねた記者に、「たいしたことないです」と答えた。「オールブラックスほどではない」という答えもあった。

「オールブラックスのときほど走らされなかったからね」と答えたのはLOのヴィンピー・ファンデルヴァルトだった。

 やはり、サンウルブズでの戦いをはじめ、世界トップレベルの相手との試合経験が飛躍的に増えていることが、日本代表の基礎力を高めているのだ。

 見方を変えると、高まっている基礎力に見合った結果がなかなか出ていないともいえる。

前回W杯よりも大会前成績が悪い!?

 2015年ワールドカップでの躍進の後の3年間、「ティア1」と呼ばれる世界ラグビーの主要10カ国との対戦は12試合にのぼったが、勝ったのは今年6月の対イタリア第1戦だけだった(他に昨秋のフランスとの引き分けがある)。前回ワールドカップ前の3年間は、5戦して2勝3敗だった(勝った相手はウェールズとイタリア)。

 試合数は倍以上に増えたのに、勝ち星自体は減っている。

 前回のワールドカップの躍進により、日本は世界から警戒されるチームになった。

 スケジュールの関係などから、日本戦には経験の浅い若手を多く当ててくるチームはいまも多いが(オールブラックスは今秋の日本戦の先発メンバーにノンキャップ2人、1キャップを2人、リザーブにはノンキャップを6人並べた)、日本への対策はどこのチームも施してくる。

 2013年に来日したウェールズや、前回ワールドカップの南アフリカのように油断してはくれないのだ……。

格下ロシアには負けられない!

 かくして、10月26日の世界選抜戦から始まった秋のシリーズは、0勝3敗で最後のロシア戦を迎えることとなった。

 ロシアは来年のワールドカップ開幕戦で戦う相手だが、直接対戦は2013年に北ウェールズのコルウィンベイで対戦したのが最後。そのときは40−13で勝った。その前は2010年11月に秩父宮で対戦し75−3で勝っているが、情報は少ない。

 世界ランクは19位。そもそも、ワールドカップの出場権自体、欧州予選で上位にいたルーマニア、スペイン、ベルギーが選手の資格違反で失格となり、繰り上がったという棚ボタのものだ。

 来年のワールドカップで8強入りを目指す日本としては、負けるわけにはいかない相手だ。

厳しい条件だからこそ重要なロシア戦。

 ジェイミー・ジョセフHCは選手たちに「ロシア戦は一番大事な試合になる」と話していた。

 ニュージーランド、イングランドという強敵相手には自然とモチベーションもあがる。ましてイングランド戦はトゥイッケナムの大観衆が見守る中での試合だ。選手ならだれだってその舞台に立ちたい。

 対してロシアは世界ランクでも格下。世界的に知られた選手もいない。会場は満員でも1万4000人というグロスター。芝の状態もよくはない。おまけに、イングランド戦の行われた先週末の英国らしからぬ好天は去り、冷たい雨が連日降るという晩秋の英国らしい天候。

「日本らしいラグビーができない条件になってきた。だからこそ、どんな状態でもタフに戦えるメンタルの強さが求められる」とジョセフHCは言うのだ。

手の内を隠しておきたいが……。

 さらに、ロシア戦の1週間後にはトップリーグが再開する。

 優勝を目指すチームにとっても、入れ替え戦回避を目指すチームにとっても、一番大事な試合がすぐにやってくるというハードな日程だ。

 もちろん、ここまで出場機会の少なかった選手にも経験を積ませ、彼らが来年のワールドカップに向けたスコッド最終候補に残りうるのか、ポテンシャルを見極める作業もある。

 来年のワールドカップを考えれば手の内を隠しておきたい。ロシアだけでなく、本大会で同組となるアイルランドやスコットランドも当然偵察を送り込んでくるはずだ(エディーはワールドカップ1年前のこの時期にはもう手の内隠しを始めていた……)。

 いくつもの難しい要素を抱えて、ジェイミージャパンは、2018年最後のテストマッチに臨もうとしている。

文=大友信彦

photograph by Nobuhiko Otomo


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