錦織圭も復帰舞台とした下部大会。直面する日本開催減の危機とは?

錦織圭も復帰舞台とした下部大会。直面する日本開催減の危機とは?

 ロンドンで盛大にATPファイナルズが開催されていた先週、兵庫県三木市にあるブルボンビーンズドームで賞金5万ドルのチャレンジャー大会『兵庫ノアチャレンジャー』が開催されていた。残念ながら、このレベルの大会のことは新聞やテレビではまったくといっていいほど報じられない。

 しかし、未来のスター選手を発見できたり、かつてツアーレベルで戦っていた選手の復活劇を目撃できたり、チャレンジャー大会にはツウが好むドラマがある。今年、錦織圭も手首のケガからの復帰の舞台に選んだのはアメリカのチャレンジャー大会だった。

 一昨年の兵庫のチャンピオンであるチョン・ヒョンは、今年の全豪オープンで準決勝まで進出して一躍スターになった。3年前の第1回優勝者であるジョン・ミルマンは、昨年「また来年」と笑顔で去ったが、今季は世界ランクを30位台に上げる活躍でここに戻って来ることはなかった。

大リーグで言えば“3A”。

 駆け上がっていく者、不振にあえぐ者、長い間そのレベルにのみ止まる者――“メジャー”の一歩手前という意味では、野球好きの人なら“3A”といえばチャレンジャーの位置づけが理解しやすいだろうか。

 特にツアーレベルの大会がすでにシーズン終了しているこの時期、全豪オープンのエントリーのデッドラインとなっている12月の第2月曜に向けて、本戦入りできるかどうかという100位台前半の選手たちにとっての必死のラストスパートが世界中のチャレンジャー大会で繰り広げられる。

 少しでも高いランキングで来シーズンをスタートさせたいという50〜100位の選手も少なくない。

 兵庫には、膝のケガからの復活の年に世界ランクを81位まで戻してきた西岡良仁がトップシードとして出場。そのほか、楽天オープンでツアー初勝利を挙げるなど躍進する20歳の綿貫陽介、全日本選手権で5年ぶり2度目のチャンピオンとなったばかりの伊藤竜馬といった注目選手たちが勝ち進み、土日は計7000人あまりの観客が、決して交通の便の良くないビーンズドームに足を運んだ。

錦織や大坂がいなくても。

 1週間を通して約1万5000人。ツアー大会なら1日で動員する観客の数だが、トーナメントディレクターの京田弘幸氏は、「この場所を考えれば、平日でも1000人近い人に来てもらえるのはありがたいことです。こんな僻地になんでこれだけの人が来るのかってATPのスーパーバイザーも驚いていました」と話す。

 日本には、錦織や大坂なおみがいなくても、海外のトップ選手が来なくても、このレベルの選手たちを応援したい、そのプレーを見たいという熱心で良質なテニスファンが相当数いるのだ。特に、ツアー大会が男子1大会、女子2大会しかない日本においてチャレンジャー大会は、そんなファンの欲求をわずかでも満たす数少ない機会である。

 しかしそのチャレンジャー大会の存続さえ、いま日本では危機的状況にある。

国内大会が減る現実。

 昨年まで、この翌週に愛知県豊田市で同じく賞金5万ドルの大会があり、2〜3月には京都チャレンジャー、慶應チャレンジャーとやはり2週続いていた。年間4大会でも決して多いわけではなく、中国には12大会、韓国でも4大会あることを考えれば、「あと1、2大会増やしてほしい」というのが日本の選手たちの本音だった。

 ところが、増えるどころか今年はダンロップがスポンサーだった豊田の大会がまず消え、島津製作所がスポンサーである京都チャレンジャーも来年は開催されない。京都のほうは、正確に言うと国内JTA大会に変更になる。

 同時開催していた女子のJTA大会を国際大会にしたいという島津製作所の意向に沿ったものだという。男女とも国際大会にするにはコート面数など施設面で規定の条件を満たさないので、そうせざるをえなかった。

 選手にとって自国で開催される国際大会はいろいろな面で“地の利”があり、ポイントを稼ぐチャンスだ。今大会のダブルスで決勝に進んだ34歳の添田豪は、ホームでのプレーの心地好さについてこう話した。

「日本の場合はお客さんが多いこともあってやっぱり気分が上がりますし、他の日本選手もがんばっているから刺激し合えるところもあります。たとえば中国には大会がたくさんあって施設もすばらしいですけど、スタンドには関係者しかいないということもよくあります。

 大会中の生活の面でも、細かなところで少しずつストレスがたまっていきますし。そういう意味で日本はやっぱり快適です」

添田、綿貫、西岡、伊藤が。

 それは結果に表れている。その添田にシングルスの準々決勝で勝った綿貫は準決勝で西岡にも勝ってチャレンジャー初の決勝進出を果たし、優勝は逃したものの世界ランクを236位から一気に188位まで上げた。

 そして、優勝してグランドスラムへの復帰に向けて弾みをつけた伊藤にとっては、これが6年ぶり7度目となるチャレンジャー優勝だが、その7度の優勝のうち4つが日本での大会だ。

 表彰式でプレゼンターを務めた冠スポンサーのノアインドアステージ株式会社の大西雅之社長は、大会の意義をこう感じている。

「今、関西では日本のトップ選手や海外の選手のプレーを見る場がないので非常に意味のある大会ですし、私たちのように大企業ではなくテニススクールを運営する一企業が、このようなかたちで携わらせていただいていることは誇りにも感じています。

 お客さんが楽しむ顔を見るのはうれしいですし、ここに出場した選手たちが世界のトップまで成長してくれれば、さらにうれしいことです」

予選で負ければ賞金はゼロ。

 来年は5年契約のラストイヤーであり、大西社長の言葉からは継続に前向きな思いも感じられたが、もともとはこの時期に日本で3大会続いた大会の1つだっただけに、孤立した状況は決して好ましくない。2週、3週と日本で大会が続いてシリーズ化されれば選手たちの移動はより効率的になり、海外からの選手の足も向きやすい。

 京田ディレクターも、「予選で負ければ賞金はゼロです。同じ地域でせめてもう一つ大会が続けば、選手のリスクは抑えられる。それが理想ですが、スポンサーがつかないことには開催できませんので」と現状を不安視する。

慶應チャレンジャーという好例。

 開催費用は、同じ5万ドルの大会でも環境によって相当異なり、たとえば慶應チャレンジャーのように慶應大が自前でコートやマンパワーを確保できれば費用を抑えられる。

 日本テニス協会の福井烈専務理事は以前、「各大学との連携も強めて、(チャレンジャー大会新設は)我々の大きなミッションとして取り組んでいます」と語気に力を込めていた。

 テニス界は来年、下部ツアーの構造が大きく変わる。デビスカップも改変どころか別物になる。激動の年になるだろう。あらゆるステージで、生き残る者と取り残される者が残酷に振り分けられていく。

文=山口奈緒美

photograph by Hyogo Tennis Association


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