伝統の早慶戦で観たラグビーの妙。“指示無視”の選手がいてもいい。

伝統の早慶戦で観たラグビーの妙。“指示無視”の選手がいてもいい。

 やっぱり、早慶戦はいい。

 早稲田、慶応ともに、好感が持てた。よく相手を分析し、指導陣が正しい処方箋を書き、真面目に練習を重ねてきたことがうかがえる試合だった。

 早稲田はディフェンスでよく相手を分析し、それを遂行していた。

 自陣ゴールラインを背負ってのラインアウトでは慶応に競りかけ、相手ボールを奪取。エリアを読み、いいタイミングでリフティングが行われていた。

 そして慶応のアタックの起点であるSH江嵜真悟を徹底的に封じ、大きなゲインを許さなかった。慶応のSO古田京主将が、「結局、トライが2本しか取れなかったのが敗因です」とコメントしたが、これは早稲田の研究と努力の成果だろう。

 一方の慶応も、早稲田のセットプレーからの攻撃をよく止めていた。前半のモールからのトライは防ぎきれなかったものの、BKの仕掛けに対しては慶応らしい気持ちのこもったディフェンスを見せていた。

早稲田の才能と2つのトライ。

 早大の相良南海夫(さがら・なみお)監督は、「我慢比べになると思ってました」と話したが、両軍ともに練習のコンセプトが見える防御態勢を見せた。

 ただし、勝負は真面目に積み重ねてきたことだけで決まるわけではない。

 後半の早稲田のSH齋藤直人、CTB中野将伍のふたつのトライは、「才能」の爆発が生んだトライだ。

 特に後半12分、慶応が19フェイズまでアタックを重ねた末にノックオンをすると、早稲田の1年生FB河瀬諒介が素晴らしいランで3人をかわした上に、アンダーハンドからの柔らかいパスを高校の同級生であるWTB長田智希に渡す。

 快足の長田は、将来の日本代表になるであろう齋藤にパスをつなぎ、電撃的なトライを奪った。真面目に慶応が積み重ねてきたことを、一瞬にして早稲田の3人が奪い去ったのである。

慶応の分析、学習能力の高さ。

 このシーン、慶応の金沢篤ヘッドコーチはこう振り返った。

「フェイズを重ねたアタックで、慶応は全員が右サイドにいる状況でした。そしてターンオーバーが起きた時に、左サイドには誰もいない状態で。夏合宿でも同じようなトライを取られていたのですが……」

 アタックの観点からは、右サイドに人員を集中投下し突破を図るのは正しい。しかし、ボールを失った時の切り替えまではなかなか準備できない。

 ただし、金沢HCの立場からすれば、予期できない状況ではあるにせよ、過去に同じシチュエーションから失策を犯した経験を、早慶戦という大一番で生かせなかったことに悔しさがにじんでいた。

 慶応は明治戦での勝利でも証明したが、分析、学習能力が高く、真面目で、好感の持てるチームである。

 ターンオーバーからのトライを献上した場面では、15人が同じ発想で動いていたからこそ、ピッチの右サイドに全員が集まっていた。論理上はすべて、正しい。

局面の停滞で異分子はいるか。

 Jスポーツの解説を担当していた慶応の卒業生の野澤武史氏が、この攻防が終わると面白いことを言っていた。

「慶応はみんなが全員、その戦術に乗っている(筆者注・全員が同じ戦術を理解し、同じように動いているといった意味)と思うので、早稲田からすると止めやすい。こういうときは、3人くらい指示を聞いていない人間がいた方がいい」

 ラグビーのコーチたちからよく聞く言葉だ。トライを取る場面では、えてしてコーチの指示を無視して、感覚で動く選手が状況を打開することがままあるのだ。局面が停滞しているときに、ひとりでも「異分子」が登場すれば、苦労していたのがウソのようにラインをブレイクできることがある。

 このシーンだけを取ってみても、今季の慶応は真面目さが最大の強みでありながら、弱点にもなっていることが透けて見える。

早稲田の陶酔感あるBK陣。

 大学選手権を睨んだ場合に鍵を握るのは、早慶戦では途中からの出場になったFB丹治辰碩だろう。大学1年生の時はラグビーではなく、ゴルフを突き詰めようとしていた変わり種は、「転調」を奏でることが出来る慶応では稀有な人材だ。

 ケガ明けで本調子ではなかったが、大学選手権で丹治の自由奔放なプレーが炸裂すれば、慶応は面白い存在になる(ただし、彼のブレイクはターンオーバーで終わることも多く、それが改善できれば、という話)。

 早稲田に関しては、卒業生の期待がにわかに高まっている。ジャージには白い襟が復活、そして久しぶりに陶酔感のあるBKが出来つつある。今季のメンバーの能力は、早大史上最高ではないか。

 たとえば、1987年度に東芝府中を破って日本一になったチームのBKのメンバーで、その後に日本代表になった選手は、SH堀越正巳、CTB今駒憲二(ご子息が今度の花園に早稲田実業のウィングとして出場する)、同じくCTB藤掛三男、そしてWTB今泉清の4人だ。

 才能あふれるメンバーが中心ではあったが、公立校出身の努力家も混じっていた。それが早稲田だった。

各ポジションに学生屈指の逸材。

 ところが、今季の早稲田は違う。正真正銘の才能が9番から15番まで揃う。

 SH齋藤の作り出すテンポは、これぞ「早稲田」であり、伸び悩んでいたSO岸岡智樹は早慶戦で55mのドロップゴールを決めるなど、ゲームコントロールに冴えを見せた。

 CTBの中野将伍、桑山淳生は体を張ったアタック、ディフェンスが光る。どちらかといえば「明治キャラ」だが、だからこそ早稲田にとっては貴重な人材だ。

 WTBの古賀由教は決定力と生真面目さが共存し、トライを演出した長田と河瀬の東海大仰星の高校日本一メンバーは、すでに学生屈指の逸材だ。

早明戦は「定番」の展開か。

 次は、早明戦である。

 伝統的に明治は、早稲田の弱点を恐ろしいまでに察知する。早慶戦での勝因は、泣きどころのはずのFWが健闘し必死の抵抗を見せたからだ。慶応からすれば、崩しきれなかった。早明戦で明治は、果てしなくスクラムでプレッシャーをかけ、ペナルティを奪ってから有利に試合を進めようとするだろう。

 これぞまさに、早明戦の「定番」である。早稲田からすればアタックの時間、機会が限られるのは明白。すべてのチャンスを才能豊かなBKで仕留め切らなければならない。

 ただし、明治は試合開始早々から黄金BKを潰しに来るだろう。特に1年生を……。もっとも狙われるのは、河瀬のはずだ。トライを演出し、取る能力に優れているが、失トライのきっかけを与えることも少なくない。

 その河瀬の父は、1980年代に明治のナンバーエイトとして恐怖のサイドアタックを繰り出した泰治氏である。

 早稲田にとって悪夢でしかなかった明治の名選手の子息が、早稲田の救世主になろうとしている。因果は巡る小車の――。

 早慶戦、早明戦はかくも因縁深い戦いなのである。

文=生島淳

photograph by Kyodo News


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